第12話 王都脱出

アレクが謁見している頃、ユリウス王からの使者が俺の元に来ていた。

「お前がカクタス侯爵様といざこざを起こした医師か?」

使者の口振りにはトゲがあった。

使者に選ばれたトーマスはオスカル侯爵を非常に尊敬しており、カクタス侯爵家と争いを起こした平民の医師に敵意を持っていた。


「これが陛下からのお情けである。這いつくばって受領せよ。」

トーマスは金貨百枚の入った袋を逆さにし、金貨を床に落とす。

ちなみにヨシノブに来るまでに各所で中抜きされており、金貨百枚に数を減らしていた。


「なんだ、これは?」

俺はこの対応に憤慨する。

ただでさえ襲撃を受けた側なのに何故惨めな思いをしてまで金を貰わねばならん。


「なんだ金貨も知らないのか?まあ平民だから仕方ないか、百枚ある筈だ。

さあ、陛下のお情けに感謝して這いつくばって受けとるが良い。」


「いらん!持って帰れ!ここまで侮辱されて許せるか。」

「なんだと!陛下の御気持ちに逆らう気か!」

「これが気持ちだと!そうか、良くわかった!さっさと出ていけ!」

俺は使者を追い返し、


その足で公爵邸に入る。

俺は入口でアレクを呼ぼうとするが城に行っているとの事だった。


仕方ないので執事に王に侮辱されたので屋敷を出ていくと話を伝えると慌てて、フランとフレデリカがやって来る。

「御待ちくださいませ、なにか行き違いがあったのです。せめて主人が帰ってくるまで滞在を。」

「いえ、そうしているうちに城から兵がやって来そうですからね、さっさと逃げますよ。

それでサリナさんを匿って貰いたいのですが?」

俺は此処にサリナを置いて行こうと考えていた。

サリナはモス子爵の娘、国に仕える身だ、国に反逆することになる俺が連れていくわけには行かないと考えていたが、


「置いて行くなんて言わないでください!私は何処までもヨシノブさんと一緒に行きます。」

「サリナ、でも、国から追われる事になるかも知れないよ。」

「それでもです!フラン様、モス子爵に娘は死んだと伝えてくださいませ。

そうすれば、父に迷惑をかけずに済みますので。」

「わかった、サリナ一緒に行こう。だが、引き返せなくなるがいいか?」

「はい!」


フランは二人の覚悟をみて引き止める事を諦めた。

話を聞くところ実際、兵士が来てもおかしく無いと考えており、本来なら捕まえなければいけないのかも知れない。

たが、フランにとって恩人でもあるヨシノブを捕まえるなど出来なかった。


「これをお持ちください、多少ですが路銀のたしにしてください。」

フランが考えているうちにフレデリカは金貨の入った袋を用意していた。


「フレデリカ様、ありがとうございます。」

「さあ、早く行ってください、城の兵が来れば脱出も難しくなります。」

俺はフランとフレデリカに見送られ、公爵邸を後にする。


そして、俺は戦車を呼び出す。

先日の貴族達の治療でまた昇進されており、戦車が呼び出せるようになっていたのだ。

呼び出した戦車は90式戦車であった。


俺とサリナは戦車の中に入り、門を目指す。


俺が追い出した使者はどうやら兵士を呼んだようで公爵邸を出る時には騎兵の姿が見えた。

「ヨシノブさん、騎兵が!」

操縦席に座ってもらっているサリナから悲鳴ににた声が聞こえてくる。


呼び出した戦車は俺が車長席に座ると全て俺の意思で自由に動かせるようだった。

俺がいなくても許可を出せば操作も可能のようだが・・・

今は俺の力で切り抜ける。


俺は速度を上げ馬を振り切る。

なるべく兵士を殺さないように考えていたが、目の前の門が見えた時、門は閉められようとしていた。

「サリナ、耳を塞げよ。」

俺は主砲の120㎜砲を門に向けて撃つ。

爆音と共に門が吹き飛ぶ。

戦車の前に木製の門などあって無いようなものだった。


門が吹き飛ぶ光景に、追いかけて来ていた兵士の足が止まる。

騎兵も馬が暴れ、大混乱となった。


町の人も爆音に驚き、門が破壊されている姿を見て恐怖を覚える。


俺はその隙に悠々と城を出ていったのであった。



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