第45話 支配後 3

 翌日、集団と揉めた時間が近くなり俺と爺さんは昨日と同じ場所に向かった。

 そこには十人の集団がおり、俺を見る目は縋るような目で見るもの、睨みつける者、怯えている者と反応はそれぞれだった。これだけ集まっていればゴブリンや犬も寄ってくる筈なんだが、包丁とかも持ってるし意外と倒してるのか?


 俺は領域内から出る事はなく集団と向かい合った。


「さて、昨日も言った通り……食糧の交換に応じる」


 俺はそう言って弁当やパンが入った袋を集団に見せる。集団からは期待するような声があがり、皆が食い入るように見つめている。だが見つめるだけで誰も動こうとしない事に、俺は首を傾げる。


「……この中に魔石が準備出来ている奴は居るか?」


 暫く間をおくが誰も名乗り出ない。……これだけ居て魔物を倒してでも食糧を得ようとする奴が、まさか一人も居ないとは思わなかった。


「誰も居ないのか?ならこれで話は終わりだ。この交換もやるだけ無駄だ、今後は交換に応じない」


 俺の言葉に集団がざわめきを見せる。だが機嫌を伺っているのか文句を言うものはいない。

 だが俺は思惑が空振りだった事に落胆し、何も言わずに立ち去ろうとした——その時だった。





「あ、あの!」


 一人の女性が俺に声を掛けた。俺が振り返ると、声を掛けたのは俺と同じ位の年齢の茶髪の女性。


「何の用だ?交換する気がないなら俺は帰るぞ」


 俺は威圧的な態度でほう言い放つが、女性は怯えながらも話を続けた。


「ひ、一つお願いが有ります!」


「言ってみろ」


「あの……私に、武器を頂けませんか?」


 俺はてっきり食糧を恵んでくれ、とでも言うと思っていた。だがその女性は俺の予想を裏切るものだった。


「その武器を使う目的は?」


「それを使って魔物を倒し、魔石を集めたいと思っています。そしてもし、あなたの満足する量が集めることが出来たら……その時は中に入れて頂けませんか?」


 女性は決意したような眼差しで俺を見つめる。

 どうやらこの女性はこの中の男連中よりも骨が有るようだ。元々生き抜く覚悟を持った者なら受け入れるつもりだった。この女性の様子なら充分だ。


「それなら武器を渡そう。その前に……お前の名前は?」


「……は、早瀬 碧はやせ みどりです」


「分かった。早瀬、この中に入ったら俺の命令は絶対だ。もし俺が服を脱げと言えばそうしろ。それを約束出来れば、中に入れてもいい」


「な……っ!」


 驚いたのは、早瀬ではなく周囲の連中だった。別に俺はそういったことを求めるつもりは無く、彼女がどれだけ本気なのかを確かめたかっただけだった。流石に、断られるだろうと思っていた。

 だが彼女は取り乱すこと無く、こう答えた。


「良いですよ。それに応じた対価が頂けるので有れば、好きにして下さい」


 予想だにしないその返事に、俺が逆に狼狽えてしまいそうになるが、それを表情に出さないように必死で抑えた。


「そ、そうか。なら歓迎しよう。早瀬 碧……君がこの領域内に入るのを許可する」


 そこで彼女が首を傾げる。ああ、そうか。説明も無いんじゃ分からないよな。


「君は既に中に入れる筈だ。こちらに来てみろ」


 俺の言葉で彼女は手で領域に触れる。


「嘘……さっきは壁があったのに」


 そうして、彼女は驚きながらも領域へと入った。彼女は戸惑いながらも、それを喜び表情を明るくした。


 だがそれに対して他の連中から声があがる。


「おい!ずるいぞ!何でその嬢ちゃんだけ……!」

「な、なら私だって何でもするわ!」

「状況を利用するとか最低な野郎だな!」


 ああ……あんな事言うんじゃなかった。正直、かなり後悔している。無表情を貫いてはいるが、内心では頭を抱えていた。……ここは早く立ち去ろう。


「爺さん、あれをくれ」


 俺の後ろにいた爺さんは、呆れた様子だった。そしてため息をついてから俺に鉄パイプを三本渡してくる。俺はその鉄パイプを受け取り、そのまま領域外へと投げる。


「魔石を集めて覚悟を見せてくれれば中に入れてやる。その鉄パイプならゴブリンを簡単に倒せる。戦う決意がある奴だけ受け取れ」


 すぐに鉄パイプを受け取ったのは二人だった。一人は三十代前半位の長身の男性、もう一人は明るい茶髪で髪の長い二十前半と思われる女性。


「……随分と軽いわね。これ、本当に武器になるのかしら?」


 そう言ったのは女性の方だった。


「性能は保証する。俺を信用出来ると思ったのなら使ってみると良い」


「ふーん……分かった。明日また来るわ」


 女性はそう言って、鉄パイプを片手にこの場を離れていく。


「なあ、教えてくれ。ここは家族を受け入れる事は可能か?」

 

 そう言ったのは長身の男性。


「その分あんたが働くのなら考えても良い」


 俺の返事に男性は頷く。


「……分かった。俺もまた明日家族を連れてここに来る。その時は頼む」


「ああ」


 そうして、この場は解散となり俺達三人ら建物の中へと向かった。

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