第33話 領域支配 6
俺達はスーパー入り口の黒い渦を眺めていた。
だが中の様子は見えず、確認するためにはこの渦の中に入るしか無いようだ。
「儂が先へ行こう」
そう言って爺さんが歩を進める。
「その方が良いか。俺もすぐに行くから後ろだけ気をつけてくれ」
爺さんは俺の言葉に頷くと、躊躇せずに渦の中へと入っていく。中に入った体は渦によってかき消され、そして何も見えなくなった。
「……俺も行くか」
未知の物に触れようとしているのに、爺さんの潔さには呆れてしまう。だが俺も尻込んでいる場合じゃない、俺もそれに倣うとしよう。
俺は意を決して、渦の中へと足を踏み入れていった。
——中に入ると、そこは赤と黒の空間だった。
作り自体はスーパーと同じだが、薄暗く明かりも赤い光のみで視界が良いとは言えない。
俺が来た時、爺さんは刀を構えて周囲を伺っていたが、そこに戦いの跡はなく入り口には敵は居なかったようだ。
「中の作りは前と同じだ。……だが、何か違和感が有るな」
「儂も肌がピリピリと痺れるのう……どうも危険な空気が漂っておる」
俺は入り口に有った商品棚にあるお菓子を掴もうとしてみる。だがお菓子を掴む事は出来ず、積まれた商品棚ごと一つの塊になり、コンクリートのように固まっているような状態だった。
「食糧も期待してたんだが……これは駄目そうだな」
まるでゲームの触れられないオブジェクトのようだ。だがそれらは荒らされた跡もなく、普段通りに営業しているままの形で残っていた。
「もしかしたら、ここを攻略したらダンジョン化する前の状況で戻るかもしれないな。そうなれば……肉や魚が食えるかもな」
ここ最近、缶詰やカップ麺、お菓子等しかまともに食べていない。そろそろちゃんとした料理が恋しくなってきた頃だった。
「ほっほ。なら、ここを攻略した時が楽しみだのう。灰間の小僧、儂は牛丼が食べたいぞ」
「俺は刺身とか寿司が食べたいな。……まあ、どうなるか分からないし、まずは攻略だな」
俺と爺さんは刀を構えながらスーパーを歩く。すると、遠目に青いゴブリンが歩いて来るのが見え、しかもそれは二匹一緒だった。
「小僧、一匹やれ」
「おう」
青いゴブリン達が俺達を見つけ、走って近づいて来る。その手には刃渡りの短いナイフを持っているのが分かる。
俺と爺さんは横に並び、それぞれ青いゴブリンを迎え討つ。爺さんは瞬く間に一刀両断し、俺は安全面を考えてナイフを受け流してから袈裟斬りにする。
二匹の青いゴブリンは倒れ、消失する。
だがそれに安堵している暇も無く、その物音を聞きつけたのか青いゴブリンの姿が見え始める。
「青いゴブリンがわらわらと出て来るのかよ……」
「こりゃ、油断してると危ないのう。小僧、死ぬなよ」
「……分かってるよ」
俺と爺さんはそう言って——次々と集まる青いゴブリン達へと立ち向かっていった。
俺達に青いゴブリンが群がり始め、俺は爺さんと順に倒していく。もし処理が遅れれば囲まれて不利な状況になるのは分かっていた。だから俺は多少のリスクを負ってでも、青いゴブリンを二回の攻撃で仕留める。
爺さんは相変わらず一太刀だ。間合いが妙に広い気がするんだが……俺の気のせいなのか?しかも爺さんの刀が滑るような動きをしてて、腕の差はどうしても感じてしまう。
「おっと」
そんなことを考えてたら青いゴブリンが正面からナイフで斬り付けてきていた。俺はそれを後ろへと一歩引いて躱し、再度踏み込みながら刀をゴブリンへと振り下ろす。
両断され、そのまま崩れ落ちる青いゴブリン。
今のは油断だったが、うまく攻撃を誘えた形になった。恐らく爺さんはこれを自然とやってるんだろうな。
戦いは続き、倒した数も十匹となり、そこからは数えなくなった。そして俺の疲労が溜まり始めた所で、青いゴブリンの襲撃は終わった。
「やっと終わった……」
俺は膝に手をついて休みながらそう呟く。
「中々の数じゃったのう。四十は居ったか?」
爺さんは疲れた様子を見せなかった。この爺さん、本当は何歳なんだよ……。
それから魔石を拾い、俺はどこへと向かうかを考えていた。ただ所詮大型とは言っても一階のみのスーパーなのでそこまで広くはない。同じ建物内にあるホームセンターを合わせてもたかが知れている広さだ。
だが無闇に歩けばまた青いゴブリン達と遭遇する。ある程度の目安はつけて移動したい。
入り口から見て左側へ行けば食糧品、前へ行けばレジが並ぶ。そして右側にはホームセンターと繋がる通路。俺は店内の配置を脳内に浮かべ、一つの可能性を導き出す。
「もしボスのようなのが居るとしたら、右のホームセンター側だろうな」
俺の言葉に爺さんが顎髭を触りながら首を傾げる。
「それは何故じゃ?」
「スペースの問題だよ。スーパーだと通路が狭いだろ?だがホームセンター側には広いスペースが有る場所がある。もしボスがゴブリンよりも体が大きいとしたらそこの可能性が高いと思う」
「ふむ。確かに可能性は高いかもしれんのう」
「まあ……店内の敵の全滅が条件って可能性も有るだろうけどな。」
俺はそう言って右側へと歩き始めた。爺さんも俺の後ろにつき、二人で周囲を見渡していく。
ホームセンターに繋がる通路にも青いゴブリンは居た。俺がそれを倒し、ホームセンターの方へと目を向けると……何か嫌な空気が漂っているのを感じる。
今までの肌がピリピリとする感覚、それがまるで針を突き刺すような痛みへと変わったのだ。
「この先、何か居るな」
「お主の言っていたボスか?儂もこの気配で鳥肌立ってきたのう……」
俺には嫌な空気としか感じなかったが、爺さんはそれが何かの気配だとわかっていたようだ。
……一旦退くか?ボスが居ると分かっただけでも充分だ。それならちゃんと準備を整えてからにするべきだ。
「小僧。ボスとやらを遠目に見れんかのう?姿と大きさだけでも分かれば対策も立てれる筈じゃ」
「だが、危険じゃないか?」
「危険を犯す価値は有ると思うがのう。絶対にそうしろ、と儂の直感が言っておる」
そんな風に言われると見るしかないじゃねえか……。
「分かった。だが一目見たら相手が動こうが、動くまいが、すぐに入り口まで走るぞ」
「それで良い。小僧は先に逃げろ、儂は後ろにつく」
俺は爺さんの言葉に頷き、深く息を吐く。そうして気持ちを切り替え、覚悟を決める。
「よし、ゆっくり進むぞ」
俺は足音を立てないように、ゆっくりとホームセンター側歩き始めた。
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