第32話 思い出はアナログ その2
結愛と一緒に物置部屋にやってきて、奥の本棚を見せる。
「もしかして、これ全部?」
「ああ。……そんなびっくりするほど多いのか?」
他所の家庭よりは多いと思ってはいたのだが、まさか驚かれるほどだとは。
「まぁねー。普通は2、3冊あるかないかって程度だと思うんだけど」
結愛は何気なく答えてくれるのだが、俺は質問したことを後悔する。
結愛は両親と不仲なのだ。家族用のアルバムがたくさんできるくらい一緒に写真を撮った思い出なんてないのかもしれない。
かといって、ここで謝れば、なんだか親との仲でマウントを取っているような気がして、何も言えなかった。
「ていうか、めっちゃ綺麗に分けてあるよね」
「俺がやったんだ。わかりやすいと思って」
アルバム用の本棚は、本屋の小説コーナーみたいに、幼稚園から中学校まで一年ごとに分類した状態で並べてあった。
「まめだねぇ」
ニヤニヤしながら、結愛が俺の頭をなででくる。
「やめろよな……それより、ほら、見たいなら見ればいいだろ?」
「めっちゃ見せたがりじゃん。慎治ってなんか恥ずかしがって見せてくれなさそうなイメージあったんだけど?」
「そりゃ恥ずかしいけどさ」
俺は、結愛から視線をそらす。
「……こんないっぱいアルバムがあるのに、ごくたまーに俺しか見ないんじゃ、せっかくファイリングした時間が無駄になっちゃうだろ?」
恥ずかしさより、手間ひまかけた意義が勝っていた。
「そうかもね」
結愛の興味は、アルバムの背表紙に向かっている。
「今日だけで全部は無理そうだから、気になるの何冊か持ってリビングで一緒に見ようよ」
本棚を上から下まで眺め、かがみ込む結愛。そのせいでショートパンツのウェストから下着らしき白いものがはみ出てしまっているのだが、見ないようにしなければ……。
「でも、時間かけてでも全部見ちゃう気はあるから」
屈んだまま俺を見上げる結愛は、白い歯を見せて微笑む。
アルバムを見せる、とは言ったものの……全部の写真を覚えているわけではないから、もしかしたら結愛に見せて恥ずかしい一枚が混ざっているのではと心配になってしまう。
「やっぱり、幼稚園時代のヤツはナシで……」
ひょっとしたら、無邪気だった俺の全裸写真が写っていてネヴァーマインドしているかもしれないから。粗末なものを結愛に見せたくない。
「じゃあ、慎治が幼稚園の時のは紡希ちゃんと一緒に見る用に取っておくね」
「いや、紡希に見せようとするなよ。どうしても見たいなら1人でこっそり見てくれ」
「慎治はー、私に1人でこっそり自分の恥ずかしい写真を見せてどうなってほしいの?」
手に取ったアルバムで口元を隠しながらも、目だけは笑っている結愛。
「別にどうなってほしくもないよ……」
「早く見よ見よ」
もう待ちきれん、という態度の結愛は、抱えたアルバムの背表紙を俺の背中に押し付けて急かすのだった。
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