第25話 本当にあった怖い話 その2

「ごめんね、紡希ちゃん。怖がらせちゃって」

「ううん、いいの」


 紡希にはもはや、めそめそした雰囲気はなかった。それどころか、すぐ隣にいる結愛に頭をなでられてご満悦の表情だ。


「結愛さんのおかげで極上のホラー体験を味わえちゃったから、気にしてないよ」


 映画には不満だった紡希だが、結愛が想像させたシチュエーションはダメージを受けつつも、不足していたホラー成分を十分に満たせたようだ。


 それほど恐怖を持ったなんて……俺は今後紡希に、結愛が想像させたようなことを現実にしないように努めなければいけないようだ。


「それに、わたし知ってるから。結愛さんが――」

「……どうした?」


 何かを言おうとしていた紡希だが、途中で止め、じっとこちらを見ているのが気になった。


 俺、またなんかやっちゃいました? とかなんとか言いたくなる。


「シンにぃもこっち来たら?」


 紡希は、隣の結愛の手をきゅっと握りながらこちらを見つめる。


 紡希が突然そんなことを言い出した理由なんて明白だから、俺はテーブルを飛び越える勢いで紡希の隣に座りたかったのだが、あいにく怪我をしている。それに他人の目がある外だ。そもそも俺にそんな身体能力はない。


「仕方ねぇなあ」


 甘えんぼだな、もっと甘えていいぞ、という気持ちを隠しながら、俺はクールに立ち上がるぜ。


「慎治、ニヤニヤしすぎて失敗した福笑いみたいになってるけど?」


 ニヤニヤしているくせにケチをつけようがない顔をした結愛が言う。


 こうなったら隠したって無駄だ。


「紡希から必要とされちゃったんだから、幸せに満たされたってしょうがないだろ」

「シンにぃ、そういうのは結愛さんに激しく求められた時ようにとっておいて」

「言い方に語弊があるなぁ……」


 紡希が時折ぶっこんでくる不穏なワードは、例の大人ぶりモードとキャラを使い分けていることの弊害なのだろうな。


「じゃあ帰ったら早速慎治に言っちゃおっかな。『ね~慎治ぃ~、お風呂の掃除しといて~』って」

「単に雑用言いつけてるだけじゃねぇか」

「私と慎治で入るんだからー、綺麗にしといた方がいいでしょ?」

「あんなことはもう二度としないぞ……」


 紡希のシャンプー係はもちろん続けるけどな。


 とはいえ、最近は結愛もただ俺を徹底サポートするだけではなく、今の俺でもできそうなことは任せてくれるようになった。


 結愛が俺のサポートをするのは、罪悪感によるところが大きいから、遠慮なく仕事を回してくれるようになったのは嬉しかった。そもそも結愛が責任を感じないといけないことは何一つないわけだからな。


「じゃ、そっち行くから紡希も結愛も立ってくれ」


 そして映画を観ている時の座席と同じ配置になる。つまり、紡希をセンターとして、両隣に俺と結愛がいるわけだ。


「落ち着くなぁ」


 ニコニコの紡希は、俺と結愛にそれぞれ手を繋がれていた。


 ホラー映画を観るために出かけた当初からは想像できないくらい、ピースな空気に包まれてしまう。


 ホラーで残酷なことが起きるのは、映画の中だけにしてほしいものだ。

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