第3話 プ女子の警告 その2
「桜咲さんは、
次第に人影が減っていく教室の中に、結愛たち陽キャギャルグループの姿はなかった。ついさっき結愛が、親友である桜咲を置いて早々に教室をあとにしたから妙だとは思ったのだが。
「それとも今日は、あっちのグループと遊ぶのか?」
教卓の周りに集った、これまた華やかな雰囲気で陽のオーラを発する女子たちが、楽しそうに何やら話し合っていた。
「
桜咲が言う。
うちのクラスにもやはりスクールカースト的なものがあって、カースト最上位にいる桜咲は同じく目立って華やかな女子とよくつるんでいた。それだけに、放課後の付き合いがないのは意外ではあった。
「永見たちんとこは、生徒会に入ってたり部活やってたりする子ばかりだから。放課後に遊んでるヒマなんかないでしょ」
「そういえばそうだな……」
結愛たちギャルグループも、華やかさでは同じだが、結愛を含めて部活に入っている人間はいなかった。その分、バイトやら遊びやらに精を出しているようだが、同じ陽キャグループでも正統派っぽい感じはしないんだよな。ちょっとだけワルの雰囲気がある。
「名雲くんでもわかるように言ってあげると、あっちが本隊だとしたら、瑠海たちはCHA◯Sなんだよね」
「なるほどなぁ。微妙な違いがあるんだな……」
俺は納得してしまうのだが。
「おい、ここで言っていいのか……ってもうだいぶいなくなってるな」
実は桜咲は、大のプロレスファンだった。
そのことは親友の結愛にすら秘密なので、誰かに聞かれていないか周囲を警戒してしまう。幸い、瑠海と密な関わりを持つ陽キャグループはいなくなっていた。
桜咲から嫌われまくっていた俺が、こうしてまともに話せるようになったのは、俺が自分と同じく『名雲弘樹』というプロレスラーのファンだと思われているからだ。
別に俺はファンじゃないけどな。ついでに、プロレスオタクことプオタでもない。準関係者なだけだ。名雲弘樹は俺の親父である。知られると絶対に面倒なことになるから、桜咲には教えていないけどな。
「ふっ……時は来た」
「言ってるお前が笑ってどうするんだよ」
「ねぇ、名雲くん、名雲くんならもう知ってるでしょ!?」
声を1オクターブくらい高くしながら瞳を輝かせる桜咲は、俺の両手を握ってぶんぶん降った。だから、手ならいいけど両手首を握るのはやめろって言ってるだろ。プオタならそれがどれだけ危険なことを意味するか、わかってそうなもんだけどなぁ。
「ああ、名雲弘樹のアメリカ遠征の話か?」
「そうそうそ!」
ご機嫌極まりない桜咲は、俺の手首から両手に手の位置を変えると、がっぷり手四つになっているような姿勢になった。身長差があるから、桜咲はつーんとつま先立ちをしている。肉離れしないように気をつけろよな。
「今のシリーズが終わったら、アメリカ行くんだって! まー、まだ噂レベルだけどー」
「でも確定じゃないかな。たぶん、行くだろ。名雲弘樹の性格を考えたら……」
親父のアメリカ行きの話しは、噂ではなく事実だ。ソースは本人。
俺にとってはただのデカいおっさんでしかない親父だが、海外ではジャパニーズ・レジェンドとしてやたら持て囃されていて、規模の大小問わず海外のプロレス団体からの参戦オファーが絶えなかった。
その手の話は数年前から頻繁にあったらしいのだが、親父は1人息子の俺がまだ義務教育を終えていないことを理由にオファーを断り、日本で、それも、都心やビッグマッチ限定で試合をする契約をしていたそうだ。
俺は高校生になり、たいていのことはもう1人でもできるし、懸念だった紡希の問題も結愛のおかげでどうにかなっているから、親父には今までの分も好きなだけ試合をしてもらいたいと思っている。親父が海外へ遠征することに何の異論もない。
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