第26話 こんな俺でもやる時はやる その2

 紡希のもとへ戻ると、紡希は腹が減っている怒りを表にすることなく、にっこりした笑みで迎えてくれた。


「結愛さん、シンにぃ、おかえり~」


 天使の笑みである。五体満足で帰ってこれてよかった、と心の底から思えた。


 だが、高良井が未だに俺にくっついていたのはまいった。


「ねー、紡希ちゃん、この人なんだと思う?」

「シンにぃがどうしたの?」

「私の彼氏なんだよ~!」


 そう言って高良井は、俺の腕を掴んで自分の肩に回した。


「? シンにぃは結愛さんと付き合ってるんだから、そうなんじゃないの?」


 紡希からすれば、高良井は俺の『彼女』だから、何を今更当たり前なことを言っているんだ、という顔をしていた。


「だよねー、やっぱ彼氏だよねー」

「?? シンにぃ、結愛さんどうしちゃったの?」

「いや、俺にもさっぱり……」

「わかった。帰ってくるのちょっと遅かったもんね。シンにぃ、結愛さんとチューしちゃってたんだ。だからこんな嬉しそうなんだね」


 今にも飛び上がりそうなくらい嬉しそうな顔をして、紡希が衝撃的な勘違いをする。


「なにもしてないよ。なんでそう思うの……」

「だって結愛さんがメスの顔を」

「そんな汚い言葉使っちゃダメだぞ」


 俺は紡希の口を手のひらで覆った。

 だんだん紡希の耳年増なところが悪化している気がするな。これは本格的に紡希の交友関係を洗って不純物を取り除くよう動くべきか。


 とはいえ、今回ばかりは紡希が勘違いしたって仕方がないかもしれない。


 鈍い俺から見ても、高良井は舞い上がっているのだとわかった。

 どうも俺は、高良井の中では窮地を救った英雄になっているらしい。


 結局ナンパ男たちは悪質な人間ではなかったし、俺がしたことなんてちょっと声をかけただけだ。別にたいしたことなんてしていない。


 そもそも高良井クラスの美少女なら、窮地を救ってくれそうな男子なんていくらでもいるだろうから、珍しいことでもなんでもないだろうに、何故こんな反応に?


「ほら、とりあえず俺が荷物見守っておくから、2人で先に好きなモノ買って来いよ」


 高良井の過剰反応を不思議に思いながら、腹を空かせている紡希のために昼食にするべく、2人を送り出すのだった。

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