第399話 鹵獲
「「……」」
巨大な
「これしか入ってないんだけど?」
「申し訳ありません」
頭を下げて謝罪するザリオンを他所に、九条は『鍵』の探知機を取り出して画面を確認する。魔法の鞄に入っていても『鍵』を探知できる優れモノだが、残念ながらこの場には一つしか反応は無かった。
「すぐに戻って――」
「いいよ、いいよ。ボクはもう今日はシンドイから付き合うのは無理だし、ザリオンも人間のままじゃ転移できないだろ? 天使になって戻るのも論外だ」
「しかし……」
「次で取り返せばいいさ。もう一つの『鍵』はゲットできたんだし、鈴木さんはいずれここにボク達を殺しに来る。その時に奪えばいいよ。けど、彼は予想外に強かったからちゃんと対策を考えなきゃいけないね。他の仲間も厄介そうだし、こんなモノも用意してるんだから油断できないよ」
九条は金色の魔操兵を見上げて感心したように呟く。
「それにしても、凄いねコレ。装甲全部が
「これはどうしますか?」
「後で調べて使えそうなら使うのもいいし、本田宗次に見せて複製できないか試してみるのもおもしろいだろうね。まあ、魔金はこんなに用意できないだろうけどさ。いっそのこと全部バラして騎士用の装備を作ってもいいかもね。でも、とりあえず今は休もう。キミも傷をちゃんと治すといい」
「……わかりました」
…
……
………
同時刻。
冒険者ギルド本部、トリスタンの応接室ではこの部屋の持ち主であるトリスタンとアイシャが床に寝かされ、レイと志摩恭子が対峙していた。
志摩の喉元には黒刀が突き付けられ、先程見せた防御結界を展開する隙も余裕も無い。不審な動きをすれば、レイは即座に首を刎ねるつもりだ。
「九条は何者だ? それと川崎だ。知っていることを全て話せ」
「貴方も血だらけよ? 治療を――」
「さっさと答えろ」
レイの迫力に、志摩はそれ以上傷のことには触れずに緊張した面持ちで質問に答え始めた。
「……あの青髪の男、
「女神が九条を狙う理由は?」
「わからない。聞いてもはぐらかされた。私は洗脳されてない、以前のまま、欲に染まっていないと思った川崎君と王都から逃げたわ。けど、九条に追いつかれて、川崎君は拉致された。私の方はいらないといってその場で斬り捨てられたわ。まさか、また現れるなんて……しかも、さっき私を見ても、私が生きていたことに驚いてなかった……きっと私が能力を使って傷を治したのを見てたのよ……そして追跡されてた……きゃっ」
レイは最後の言葉を聞くと同時に志摩の胸倉を掴んで立たせると、何かを探すように志摩の顔や体を凝視する。
「九条と最後に会った後、当時から身に着けていた物、持っていた物を全て外せ」
「え?」
「追跡されたと自分で言っただろうが。ヤツが使ったのは恐らく転移魔法だ。吉岡莉奈も同じ魔法を使っていた。転移魔法であれば、九条がいきなり部屋に現れたことにも説明がつく。だが、任意の座標に転移するには何かしらの条件があるはずだ。思い描いた場所に自由に転移できるなら俺はとっくに殺られてる。漫画みたいに相手の魔力を辿れる可能性もあるが、距離が離れた特定の人間をピンポイントに探るには何かカラクリがあるはずだ。発信機、もしくはそれに近い何かが絶対にある」
指紋のように個々の魔力には固有の波長、特徴がある。冒険者証のように個人を識別できる程に人ぞれぞれ異なるそれを、探知魔法に組み込めないかと色々試行錯誤したレイだったが、魔力の識別はおろか、感じることも無理だった。勇者固有の能力によるものであればお手上げだが、もし、人を追跡できる目印のようなものが志摩恭子の身体か、所持品にあれば転移魔法の仕組みが分かる。
勇者達に転移魔法で自由に移動できる術があるなら、その対策をする為にも転移の仕組みを解明することは急務だ。メルギドで吉岡が転移して逃げて以降、レイ達の前に吉岡が現れたことはない。それにより、狙った人間の元へは転移することが出来ないという仮説が、今回の件で覆った。志摩恭子を始末する前に、それを調べなくてはならない。
レイは志摩が取り出した時計やアクセサリーや小物類などを調べるが、特に怪しいものは見られない。
「何してる、服もだ」
志摩が着ている服は、何度も洗って繰り返し着ているのか、かなりくたびれている。しかし、縫製や細部のデザインなど、どう見てもこの世界の衣服ではないブラウスやパンツ、靴を指してレイは言う。
「え?」
レイの言葉にサッと身構える志摩。怯えた目が一転、不審な目をレイに向ける。
「お前を死体にしてから調べてもいいんだぞ? 早く脱げ」
「うっ」
レイの殺気のこもった目で睨まれ、志摩は恐る恐る服を脱いでレイに渡す。下着姿になり、両腕で胸や股を隠す志摩の顔は真っ赤だ。しかし、レイはそんなことには気にも留めずに、志摩が脱いだ服や靴を手に取って入念に調べる。
(ちっ、何もないな。そもそも、一見しただけで分かるモノなら自分でオカシイと気づくか……仕方ない、これも後でイヴに『鑑定』してもら――)
「う……うーん」
意識を取り戻し、目を擦りながら起き上がったアイシャが目にしたのは、顔を俯かせ、下着姿で佇む志摩恭子と、志摩の衣服を手にしたレイの姿だった。
「センセー!」
「アイシャっ!」
志摩に駆け寄り、辱められている志摩を守るように両手を広げて、レイを睨むアイシャ。
「センセーから離れろっ! ヘンタイっ!」
「なん……だ……と」
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