第373話 勇者合流②
「殺された? ……響も?」
夏希が佐藤優子を見る。しかし、その顔は無表情で、落ち込んでいる様子も、感情を押し殺しているようにも見えない。幼馴染の親友が死んで人が変わったのか、以前の天真爛漫な優子の姿はどこにも無かった。
「優子?」
「白石さんだけじゃない。南、桐生、高橋、本庄、須藤、田中、ジェシカ、加藤……それと、伊集院先生。城と藤崎さんも既に死んでる」
「……なんで九条が城と亜衣の生死まで知ってるのよ? 二人は王都にはいなかったはずでしょ?」
「今まで黙ってたけど、僕の『鑑定士』の能力は見た人間の生死が分かるんだ。勿論、全員を鑑定したわけじゃないからみんなの能力までは知らないよ? でもそういう能力もあるんだ。上手く説明できないんだけどさ、クラスメイトが死んだら分かっちゃうんだよ」
九条は嘘を織り交ぜ、そう説明する。正確には『鑑定』の能力ではなく『強奪』の能力でそれぞれの生死を判別しているのだが、それでも全員を見ていない九条がそれを把握しているのは、ザリオンが川崎亜土夢に憑依する前に伝えられていたからだ。無論、ザリオンの存在は誰も知らないし、それを言うつもりは九条には無い。
夏希は九条を訝し気に睨むも、すぐに視線を外して鑑定されるのを避けた。自分の能力を他人に知られて良いことなど一つも無い。クラスメイトとは言え、よく知りもしない人間になら尚更だ。
「確か、名前はレイって男だったかな? 他にも仲間がいて、僕らの命を狙ってる」
「僕ら? ちょっと意味が分からないんだけど、どうして私達が命を狙われるわけ?」
「さあ?」
「は?」
夏希から殺気が漏れる。元々、軽薄な男や回りくどい男が嫌いな夏希は、九条とのやり取りに苛立っていた。
「な、夏希っ、私もメルギドでそのレイって男と遭遇して、ジェシカと拓真を殺されたわ。一緒にいた仲間の特徴から南と響をやった連中と一緒だと思う。同じ連中が私達を殺してるのは確かよ」
吉岡莉奈が横から口を挟み、夏希を宥めるように説明する。この場にいる『王都組』の中では唯一、夏希の怖さを知っている莉奈は、普段の態度とは一変して遠慮がちな態度だ。
「……そう。じゃあ、ここにいるみんなと、本田君しかもういないわけね」
「だから人手が全然足りないんだ。この城の地下にある遺跡の調査と、『鍵』の捜索の為に協力してくれないか?」
高槻がまとめるように夏希に提案する。
「わかったわ。地下の遺跡は明後日以降に潜ってみる。色々準備したいし、長旅で疲れてるから今日明日はゆっくり休ませてもらう」
「『鍵』の捜索は?」
「マリアと里沙に行ってもらう。元々、彼女達の所為だしね。そっちも人を出しなさいよ?」
「それは香鈴に行ってもらうつもりだ。彼女のテイムした魔獣で送るよ」
「……」
高槻に話を振られても林香鈴は口を開くことなく頷くだけだった。その姿は痩せこけ、髪もボサボサで生気が無かった。
(みんな、随分変わったわね。まあ、それは私達も同じか……)
夏希は詳しいことはまた明日と言って、パーティーメンバーと一緒に会議室を後にした。
…
……
………
夜。
夏希達は、用意された客室の一つにパーティーメンバー全員が集まっていた。四人それぞれに部屋があったが、男子の渡辺大輔を含めて全員がこの部屋で過ごすつもりだ。
「じゃあ、夜番はいつもどおりのシフトでいいわね?」
「「「了解~」」」
C等級、十代の少年少女達が古代遺跡で様々な成果を上げることに他の冒険者達が良い感情を持つはずはなく、夏希達は宿で夜襲を受けたり、遺跡内や街で襲撃されることが常だった。その為、全員が一斉に就寝することを避け、野営のように一か所に集まって交代で睡眠をとることが当たり前になっていた。
「まさか、こっちに帰って来てまで安心できないなんてね~」
「仕方ないでしょ。見た? あいつらの顔。アタシ達も人のこと言えないけど、マジ変わったよね~」
「……」
「大輔、どうしたの?」
「夏希さん、九条ってどんな奴だったか覚えてる?」
「……あまり興味なかったから覚えてないわね。どうして?」
「不思議なんだ。あんまり思い出が無くてさ。みんな変わっちゃったなと思ってたんだけど、九条だけ変わったのか判断ができなくて……以前の九条を思い出せないんだ」
「アタシらも分かんないなー てか、大輔のことも同じパーティーじゃなかったらあんまり話したことなかったし?」
「そうかも~」
「いずれにしても、誰も信用しない方が良さそうね。本当に響達が死んだのかもわからないし、謎の男が私達を狙ってるのも意味が分からない。それに、奈津美と志摩先生がどこかへ消えたって言うのも気になるわ」
コンコンッ
部屋の扉をノックする音に、全員が武器に手を掛けた。
「誰?」
「僕だよ。高槻」
「……どうぞ」
夏希がそう返事をするが、メンバーは警戒を解いたりはしない。
「やあ……って、みんないたんだ。一人一人部屋を用意したはずだけど何か不備でもあったかい?」
「別に~」
「アタシ達が一緒に寝たらダメだった~?」
近藤美紀と太田典子が茶化すように高槻に言うが、二人共、目は笑っていない。高槻はワインの酒瓶とグラスを二脚持っており、夏希と酒でも飲もうとしていたのだろう。こんな夜中に約束もせず口説きに来たのだろうが、男の下心に嫌というほど晒されてきたこの半年で、いくらアイドルの高槻でも、二人は不快感が拭えなかった。勿論、それは夏希も同じだ。
「いや~ ははっ、どうやらお邪魔だったかな? また出直すとするよ」
女子達の空気を読んで、高槻は部屋を後にしようとする。だが、部屋の隅にいた渡辺大輔が目に留まった。
「おい、大輔。なんでお前がいるんだよ? ここ、女子の部屋だろう?」
「え?」
高槻の睨むような目を向けられた渡辺大輔は、なんと答えればいいか言葉に詰まる。
「大輔も私達と一緒に寝るんだけど。何か貴方に関係あるかしら?」
早く出ていけと言わんばかりに、夏希が冷たく言い放つ。
「い、いや、別に。ただ、女子が三人いる部屋に男子一人がいるのはどうかと思ってね」
「だから? 男一人に女が何人も一緒に寝るのはいいわけ? 聞いたわよ? 王女達とハーレム作ってるんでしょ?」
「そ、それは誤解だよ。やだな、九条の言うことを真に受けちゃ――」
「別に貴方が誰と何しようと私達には関係ないし、興味も無いのよね。ただ、邪魔だけはして欲しくない。口出しも無用よ。私達のことは放っておいてくれる?」
「高槻君だってハーレム作ってるんだから、大輔だっていいんじゃな~い?」
「そうそう」
「ちょっ、みんなっ!」
ニヤニヤしながら茶化す美紀と典子に大輔が慌てる。
「……おやすみ」
高槻はそう言って、部屋を出て行った。最後に渡辺大輔を鬼の様な形相で睨みつけていたが、それを見たのは大輔だけだ。
「ちょっと、みんな何言ってんだよ~ 帰り際に高槻君にめちゃくちゃ睨まれたんだけどっ!」
「まあ、いいじゃん」
「気にしない、気にしない」
「そんなぁ……」
「はぁ……。大輔、やましいことをしてる訳じゃないんだから、放っておけばいいのよ。それでも何かしてきたらクラスメイト相手でも本気出していいから」
「う、うん……わかったよ夏希さん」
…
……
………
「くそっ! なんであんなブタが!」
自室に戻った高槻は、手にしたグラスを床に叩きつけ、酒瓶を直接あおる。
「あら、夏希を口説きに行ったんじゃないの?」
「莉奈……」
高槻の部屋では吉岡莉奈がソファで寛いでいた。祐樹が他の女を口説きに行ったのを知ってても気にしていないようだ。
「その様子じゃダメだったみたいね。夏希はこっちでもモテモテよ? フィネクスでは下心丸出しの連中がひっきりなしだったんだから、男に辟易してるのよ。普通のやり方じゃ落とせないわよ?」
「別に口説けなくて苛ついてるわけじゃないよ。あのブタ男がちやほやされてるのが気に入らないだけさ。我ながら子供っぽいと自覚してるけどね」
「あー 大輔のこと? クラスじゃあんまり目立ってなかったもんね」
「あんな陰キャのデブのどこがいいんだか……」
「遺跡じゃ結構、活躍してたからね。夏希を守るナイト様ってとこかしら?」
「ナイト様?」
「身を挺してパーティーを守るって、
「ふーん。デブにはお似合いだけど、気に入らないな」
「手を出さない方がいいわよ? 祐樹みたく、そう思った男達はみんな悲惨な目に遭ってるから。正攻法でいった方がいいと思うけど」
「わかってるさ」
そう言ったものの、プライドが傷ついた高槻は苛つきが収まらない。
(くそっ、九条め、余計なこと言いやがって……)
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