第369話 運休
バルメから
「本当に宜しいのですか?」
「ああ、元々ロマン兵器だしな」
「ろまん?」
「なんでもない。もし壊れたらメルギドに送るよ」
「わかりました。何かありましたらメルギドは全面的に協力しますので何でも仰って下さい」
「それにしても、
それぞれの機体は専用の魔法の鞄に収納され、レイとイヴに渡されている。
「この大きさのモノをそのままお渡ししても迷惑だろうとのことで、鞄もご自由にお使い下さい。レイ殿の様々なご提案がメルギドの利益になりましたので、これぐらいは当然かと」
「確かに、私達の鞄にこんなの入れたら他の物が入らなくなるわよね……」
「まあ、ありがたく貰っておくよ」
(色々な物が収納できて便利な鞄だが、こんな巨大なモノを出し入れするのはなんとも違和感があるな……)
…
「失礼します」
ダニエ枢機卿が、異端審問官を連れて中庭にやってきた。
「レイ様、お時間宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「ご要望のあった『勇者』の遺灰と所持していた荷物をお持ちしました」
ダニエがそう言うと、異端審問官がレイの前に鞄を差し出した。
「あら、教会と一緒に吹っ飛ばなかったの?」
「教会本堂の地下、深い階層は無事でしたので。それにこの魔法の鞄は『勇者』が持っていたモノです。タナカシンヤが所持していた物も合わせて入れてあります」
「本田宗次の持ち物か」
「はい。再収納するのにこの者の魔力で登録しておりますが、中身は尋問の際に本人に開けさせたので全て揃っております」
「じゃあ、見せてくれ」
「はっ」
異端審問官の一人が鞄から田中真也の遺灰と、様々な銃や弾薬、装備品、その他野営道具などを取り出した。
「イヴ、こっちの灰を『鑑定』してくれ。俺はこっちを調べる」
「はい」
「旦那、バルメさんをメルギドまでお送りするんで、俺達はこれで失礼しようと思います」
勇者の荷物を調べているレイにバッツが声を掛ける。
「そうか、色々ありがとな」
「いえいえ、こちらこそ命を助けて頂きありがとうございました」
「帰りは魔導列車か?」
「そうですね。まだ街が混乱してるみたいなんで運行状況はこれから調べますけど……」
「魔導列車は暫く動きませんぞ?」
「「「えっ?」」」
レイとバッツの会話にダニエが横から入って来た。
「車両にあった大量の死体で少々揉めておるそうです」
「「……」」
リディーナとイヴがサッと視線を皆から外す。
「現在、死体の処理と清掃を行っておるそうですが、そのまま車両を使用するかどうかを決めかねておるそうです」
「まあ、それはそうかもしれんな……」
死体を片づけて綺麗にしました。さあ、乗って下さいとはならないのだろう。特に、リディーナとイヴが騎士達を殺したのは一等室から三等室に及ぶ。その内の二両は富裕層向けの車両だ。そのまま運行し、後で虐殺があった車両と判明すれば大問題になるだろう。
「「「そ、そんな……」」」
「神聖国は物資を輸入に頼ってますので、国にとっても魔導列車の運休は死活問題です。貨物車両だけでも運行できないか現在要請中です。列車に乗りたいのなら口添えをしますが?」
「「「貨物車両か……」」」
バッツ達は自分達だけならそれでも問題無いと思っているが、依頼人であるバルメを貨物車両で送るには本人の了承が必要だ。ここから次駅のラーク王国のフィリスまで三日掛かる。その間、トイレもない貨物車両に詰め込まれたまま移動するのは流石に厳しいだろう。
「私はなんでも構いませんけど?」
「バルメさん、貨物車両は座席はおろか、便所も無いですよ? 窓も無いし、真っ暗の中、押し込まれた状態で三日間は我慢してもらいますけど?」
「別に平気ですけど?」
「「「え?」」」
バルメにとって、狭い空間や暗闇は大したことではなかった。元は地下で暮らしていた種族のドワーフは、他の種族に比べて閉鎖空間における耐性が非常に強い。
「うーん……」
バッツ達は劣悪な環境が嫌という訳では無く、要人の護衛としては貨物車両を使いたくなかった。護衛の仕事は外敵から守ることだけではなく、護衛対象の健康にも気を使わなくてはならないからだ。本人が大丈夫と言っても、プロとしてそれを鵜呑みには出来ない。
「もう暫く待てば、ラークからの列車が来るだろう? それまで待てばいいんじゃないか?」
「いや、旦那、列車が動いてないんで……」
「?」
不思議に思っていたレイにダニエが捕捉してきた。
「レイ様、魔導列車は一路線につき一つの列車しかありません。あの列車一つで神聖国とマネーベルの間を行き来してますので、中間のラークでも車両が戻って来ずに混乱してるでしょう」
「……まるで大昔の西部開拓時代だな」
地球の様に複数の列車でダイヤを回してると勘違いしていたレイは、今更ながら文明が違うと実感した。マネーベルを基点としてそれぞれの路線には一つの魔導列車で運行をやりくりしていたのだ。車両や線路にトラブルがあれば、その路線が凍結されるのだから、脆弱なインフラである。
「今まで気にして無かったが、途中で線路に何かあったら大変だな」
「魔導列車には土魔法の使い手が同乗してますから、補修は都度してるはずです。それに、線路の破壊や窃盗は、運行している各国では死罪になりますから滅多なことでは野盗も手出ししません。神聖国間の路線で何かあれば教会への攻撃と見なして神敵認定されますし、他の路線では護衛の獣人部隊に死ぬまで追跡されます」
「なるほどね。獣人の鼻で追われるからリスクが高いのか。線路の鉄を盗んでも割に合わないな。列車や線路に手を出すくらいなら商人や村を襲った方がマシだな」
「他人事みたいだけど、私達も移動に困るわよ?」
「リディーナ……元はと言えば、車両内で騎士を殺したからなんだが……?」
「え? あら、そうだったかしらね~」
「まあ、いいけどな。それに、列車に乗ると言ってもブランは乗れるのか?」
「うーん……貨物車両に乗れるかしら?」
「かわいそうです……」
「というか、私達は次にどこへ行くの?」
「あの天使、エピオンが言ってた九条彰のことが気になる。居場所がわかってる王都組は後回しにしようと思ってたが……」
「じゃあ、オブライオン王国?」
「……」
レイとしては、先に王都組を始末すれば、帰る場所を無くした他の探索組の行方が分からなくなる恐れがあり、先にオブライオン王国に行くかは迷っていた。
しかし、本田宗次と田中真也の荷物を見て決断する。
(
本田の荷物には、銃器や弾薬、各種
「そうだな、オブライオンに――」
「ちょっとアンタ! 探したわよ!」
そこへ、オリビアが中庭に乗り込んできた。
「アンタにギルド本部から連絡があったわよ。至急連絡しろだって。伝えたわよ?」
「本部? トリスタンか……。というか、連絡しろってどうやってだ?」
「そんなこと知らないわよ」
「なら、お前はどうやって連絡してるんだ?」
「
「「「……」」」
「
「冒険者ギルドの支部があれば、魔導具で通信できます。神聖国には支部はありませんので、ここから一番近い所となるとラーク王国ですね」
「魔導列車を動くのを待つか、馬車で向かうか……というかラークにはあんまり行きたくないな」
「レイ、直接本部に行くのは? オブライオンに行くなら本部から魔導列車を使ってマネーベルに行けるし。私は列車でしか行ったことないから馬車でどれぐらい掛かるかわからないけど。イヴは分かる?」
「いえ、私も列車で移動したことしかありませんし、本部の周辺地理も詳しくありません……」
「馬車なら大体、十日ぐらいよ。山越えがあるからあんまりオススメしないけど」
「オリビア、お前は道分かるのか?」
「そりゃ、分かるけど?」
「なら、お前が案内し――」
「イヤよっ!」
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