第276話 掃討

 「まずはコイツらを片付けるか……。リディーナ、いけるか?」


 「私はいつでもいけるわよ? って、やだ! レイ、血だらけじゃない!」


 「殆ど返り血だ。問題無い」


 「ほとんど?」


 「話は後だ」


 「んもうっ! 無茶し過ぎよっ!」


 リディーナは『龍角細剣』を抜き、銀色のロボット『魔導無人機』を黒刀で薙ぎ払いに行ったレイに続いた。


 レイとリディーナは、互いに背中合わせになり、まるで竜巻の様に周囲の無人機を斬っていく。レイの『魔刃メルギド』と、リディーナの『龍角細剣』、そして二人の剣技の前に、『魔導無人機』は只のまとでしかなかった。


 瞬く間に、百機近くの無人機を破壊したレイとリディーナは、途中、魔力が使えることに気付くと、二人で雷魔法の『雷撃』を四方に放ち、残りをまとめて片付けた。



 「どうやら魔法が使えるようになったみたいだな」


 「そうみたいね~」


 …


 騒然とする城内にいた者達。近衛騎士達とロダス、ラーク王は目の前の出来事が信じられなかった。


 「な、何者なんだ……?」


 ラーク王の呟きに、ロダスが王の前に出てレイ達に向かって身構える。敵か味方か、味方の可能性の方が高かったが、高い技量の剣技と知らない魔法、それらを同時に使いこなす人間をロダスは知らなかった。いくら一つ一つが大したことのない敵であっても、二人の技量の高さは、あれが本気ではないということも含めて、ロダスには十分理解できた。長年掻いたことのなかった冷や汗がロダスの背中に流れる。


 「陛下っ!」


 メサが城門の操作盤からラーク王の元へ駆け、王の前で膝を着いて首を垂れた。


 「メサ……無事だったか」


 「遅れて申し訳御座いません!」


 「よい。あの者達は?」


 「『女神の使徒』……だと。私には真偽のほどは分かりませんが、少なくともウォルト・クライス侯爵の敵であることは間違いありません」


 「「女神の使徒だとっ!」」



 「陛下、ロダス団長、お話のところ申し訳ないですが、『魔封結界』が消えました。まずは城内へ……」


 ロダスの部下であるハインが話を遮り、王の避難をロダスに進言する。


 魔封の結界が消えていることはロダスも気付いていた。結界が消えたということは、魔導具が設置してある城壁塔が制圧、もしくは魔導具が破壊されたことを意味する。第二分隊の隊長であり、近衛騎士団の副長であるナタリーが守備に向かったそうだが、やられた可能性が高かった。魔法による攻撃の心配がある以上、王を速やかに城内に退避させなければならなかったが、まだ城門が安全かは分からない。


 「ハイン、何人か連れて城壁へ向かえ」


 ロダスは、レイに目線を外さぬまま、ハインに数名の近衛を付けて城壁塔へと向かわせると、手にした大剣を下段に構えながら、レイに質問する。


 「儂はラーク王国、近衛騎士団団長のロダス・バリモアだ。お主達は何者だ?」


 「……S等級冒険者、『レイブンクロー』のレイだ」

 「同じく、リディーナよ」


 「S等級冒険者だと? ……目的は何だ?」


 「この国へ来る道中、野盗団に村を襲われ拉致された子供達を保護した。野盗団は壊滅させたが、野盗団と奴隷商人、それとこの国の貴族が関係していたことが分かった。子供等をどこに預けるか迷ってるうちに、この騒ぎに巻き込まれたってとこだ。

ここが一番安全そうだったんでな。詳しくはそこのメサに聞け」


 ロダスがレイの後方にある馬車をチラリと見ると、イヴとアンジェリカが、怪我をした子供達を馬車から下ろしていた。


 (あの修道女、どこかで……?)


 「それだけの為に?」


 ロダスは、アンジェリカの顔に見覚えがあるような気がしたが、レイの言葉に今一納得がいかず、警戒を解くことはできなかった。


 (見知らぬ子供達の為に城に来たというのか? 城門の外には数百人の反乱騎士達がいたはずだ。一体どうやって? それにメサだと? 陛下の隠密が何故一緒にいる? メサが陛下を裏切ることは無いと思うが、ウォルトの手の者ではないとも言いきれん……)

 


 「ちょっと、全然怪我してるじゃないのよっ!」

 

 警戒するロダスを他所に、リディーナがレイの体に付いた血を布で拭きながらレイに怒る。レイは額や、背中など、いくつも切り傷を負っていた。


 「早く治療して!」


 「ああ。だがその前にお客さんだ」


 ドスンッ


 「「「なっ!」」」

 

 突如、ラーク王の周りに七つの筒が突き刺さり、銀色の鎧騎士が姿を現す。前に現れた機体と違い、それぞれが異なる武器を両腕に装備していた。


 『ラーク王を確認。王の確保が最優先だ!』


 『『『了解!』』』


 無線でやり取りしている魔操機兵の操縦者達は、すぐさま行動に移す。城門前の広場に姿を現したラーク王を、上空の魔導船から捉えたウォルトは、王の身柄確保を最優先に命令したのだ。


 七機の魔操機兵がラーク王とロダスを囲み、拳に籠手ガントレットを装備した一機がロダスに殴りかかる。


 「舐めるなっ!」


 ロダスは、瞬時に大剣を拳に合わせたが、拳に当たった瞬間、大剣が砕け散った。


 「なにっ!」


 続く二撃目をロダスは腕でガードするも、腕の鎧が粉砕され、腕全体から血が噴き出す。


 「うぐぅああああ……」


 だらりとした腕を押さえて苦悶の表情のロダスの後ろでは、残りの魔操機兵が護衛の近衛騎士を瞬殺し、ラーク王を取り押さえていた。


 「くっ、陛下ぁ!」


 ラーク王は目の前の魔操機兵を剣で突き刺すも、後ろから羽交い絞めにした一機により、上空へと連れ去られた。


 背面からジェット機のようなノズルが現れ、バーナーのように点火して王を掴んで上空へと離脱した機体は、そのまま魔導船へと吸い込まれるように消えてしまった。



 「あらら、飛んで逃げちゃったけど、あれって王様?」


 「まあそれっぽいけど、仮面なんかして怪しくなかったか?」


 目の前であっという間に王を拉致した魔操機兵達。周囲の近衛騎士達は、いきなり巨大な鎧騎士が落ちてきた状況と、無言のまま護衛の近衛を瞬殺、ロダスがやられて王が連れ去られたことが信じられなかった。


 「それより、アレ、飛んだわよ?」


 「ああ、まさか飛べるとは思わなかったな。射出した後の回収はどうすんのかと

思ったが、ああやって離脱すんのか……。推力と形状から自由に飛べる訳じゃないとは思うが、面倒だな。それにあの装備、剣や鎧が粉々になったぞ? どういう原理だ?」


 「な、何を悠長に! 陛下が連れ去られたのだぞっ!」


 冷静なレイとリディーナに、メサが悲痛な表情で叫ぶ。


 「王様を守るのは、お前らの仕事だろうが。まあ、あの状況で咄嗟に動けたそこのオッサンは惜しかったが、相手が悪かったな」


 いきなり上空から自分達の倍はある正体不明の敵に囲まれ、咄嗟に反応したロダスには感心したレイだったが、未知なる兵器を前に為す術が無かったのは運が悪いとしか言えない。普段、どんなに訓練していても、見知らぬ巨大なモノがいきなり現れ、一撃で装備を粉砕するような未知の兵器を使われれば、やられて当然だ。



 『後は残りを始末して終わりだ』


 王に刺された胸の剣を摘まむようにして引き抜いた魔操機兵が、残りの五機に指示を出す。


 『全員殺すのか?』

 

 『どうせ、近衛は王にしか従わん、近衛は全員殺せ。だが、先にアイツらをやる。さっきの借りを返すぞ。全力でやれ!』


 六機の魔操機兵が、レイとリディーナに一斉に単眼の赤い光を向ける。それぞれ異なる武器を構え、慎重に二人を囲むように陣形を組む。



 「見た感じ、近接武器だけだな。手持ちの銃器でも持ってれば欲しかったんだが……まあいい。ブラン……は、へばって無理か」



 『すびばぜん、ばにぎスミマセン、アニキ

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