第145話 魔導砲・改

 化け物を結界に閉じ込めたレイは、イヴと宿泊先の宿に戻っていた。


 「イヴ、リディーナを頼む」


 レイは、魔法の鞄マジックバッグから、金色に光る魔導砲を取り出す。


 「そ、それは……」


 「リディーナには内緒だ」


 「?」


 ―『魔導砲・改』―


 レイがリディーナに内緒でマルクに作らせた魔導砲の改良型。砲身は魔金オリハルコン製で、以前の三発で砲身が破裂する欠点を解消。砲身にはレイに合わせた照準器オープンサイトを取り付け、レイの強化した視力で約三百メートルまで狙える仕様だ。根幹の魔力調整部分を高純度の魔銀ミスリル製で作成し、チューブを胸に刺すことなく、レイが任意の属性を砲弾に付与できるようになった。それに、レイの提案により、単発式の装填方法をスプリング式の箱型弾倉ボックスマガジンを新規で作成することで、連続発射を可能にした。この改良型を僅か一日で作って見せたマルク達ドワーフには、レイも驚きを隠せない。


 レイは、弾倉に砲弾を装填しながら思考を巡らす。


 「イヴ、さっき「悪魔」って言ってたな。視たのか?」


 「は、はい。それ以外は視えませんでしたが……」


 (悪魔とかファンタジーかよ…… いや、神もいたんだ、悪魔もいてもおかしくないか……)


 「ここを出る準備だけしておいてくれ。刀を回収したらすぐに撤退する」


 「わ、わかりました……」


 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ……。聖女様を……」


 アンジェリカが苦しそうに起き上がり、レイに懇願する。


 「諦めろ。聖女の安全と悪魔の討伐は、女神の依頼に入ってない。俺は仲間の安全を優先する」


 「そ、そんな……」


 「イヴ、その女を助けたいなら動かさないようにしておけ。背骨と肋骨にヒビが入ってる。回復薬ポーションも飲ませるな。下手に治療すると障害が残るかもしれん」


 「……承知しました」



 レイは、魔導砲に弾倉を装填すると、飛翔魔法を発動させて大聖堂まで戻って行った。


 …


 「あ、あの男は一体……」


 「『女神の使徒』様です。アンジェリカ様」


 「なんだ……と? それに、私を知っているのか?」


 「元異端審問官のイヴと申します。今は、レイ様の従者をしております。オブライオン王国の聖女タリア様の最後のお言葉、『勇者を討つ者の降臨』を知る者です」


 「元異端審問官だと? それにその青い髪……。貴様、『魔眼のイヴ』かっ! 任務に失敗し、姿を消した暗部の人間が何故まだ生きてる?」


 「ダニエ様の計らいで、お恥ずかしながら……」


 「ダニエ枢機卿が? ……それよりあの男だ。『女神の使徒』と貴様は言うが、証拠はあるのか?」


 「私のことをご存じでしたら『魔眼』のこともご存じかと……。それに、少なくともレイ様は神託の通りに行動しておいでです。あの聖騎士ニセモノより遥かに信じるに値します」


 「『鑑定の魔眼』か……。だが、それならば何故あの男は聖女様を見捨てる?」


 「それをアンジェリカ様が仰るのですか? 女神様の神託では此度の『勇者』は悪しき者です。あの聖騎士クズが異世界人の『勇者』なのですよ? それを討つよう、女神様から遣わされたレイ様を、神殿騎士達は愚かにも偽者と蔑み、剣を向けたのです……。 『女神の使徒レイ』様は、教会への不審は当然、女神様への疑いを持つに至っております。この罪は非常に大きいものと存じます」


 「バ、バカな…… それはあの騎士が……」


 「偽者と看破できなかった教会本部の責任は免れないかと……」


 「きょ、教皇様の責任だというのかっ! 貴様っ! 異端審問官の分際で……」


 「聖女様でさえ操られていたのです。教皇様が操られていないという保証はありません」


 「なっ……」


 「今は、レイ様を信じて待つ以外ありません。私は信じております」


 「……」


 イヴとアンジェリカは、窓の向こうに小さく映るレイに視線を向ける。


 …


 (結界は一応の効果はあったようだな。核融合反応を封じ込める結界だ。あれが簡単に破られるようなら、すぐに引き返して逃げる所だ。だが、悪魔と言っても物理的法則は受けるみたいだな。直接攻撃では、すぐに再生されて、今一ダメージらしいものが与えられなかったが、リディーナの電撃では効果がありそうだった)


 「魔導砲・改コレなら殺せるかもな……」


 レイは、悪魔のいる礼拝堂上空にいた。『鬼猿オーガ』の時と違い、『闇の衣』と『黒の杖』の魔力強化増幅ブースト無しの結界だ。そう長くは保てない。それに、メルギドの外部環境と違い、核撃魔法も今のレイには放つことはできない。


 (まあ、放てたとしても街中じゃ、あんな魔法は撃てないからな……)


 魔導砲・改のコッキングレバーを引き、砲弾を薬室に装填する。砲弾は土竜アースドラゴンの魔石から作られたもので、レイが任意の属性を付与できることから火属性では無く、レイの苦手な土属性の魔石砲弾だ。


 「悪魔ってんなら聖属性が有効か? どっちにしろ一発金貨五百枚だ。おいそれと試射も出来なかった。ぶっつけだが、実戦テストの相手としては申し分無い」


 撃鉄トリガーに指を掛け、結界越しに悪魔に狙いを定めるレイ。


 結界内では、神殿騎士を殺し尽くした悪魔が、結界を壊そうと結界を殴り、魔法を放っていた。


 結界が消失すると同時に悪魔とレイの目が合う。



 「食らえ」



 魔導砲・改から聖属性を帯びた砲弾が発射される。


 悪魔は、ニヤリとした顔で片手を振り上げ、その攻撃を受け止める……が、


 眩い光を伴い放たれた砲弾は、悪魔の掲げた右手を腕ごと消失させた。


 唖然とする悪魔。


 レイは、ダメージを与えたと確信した瞬間、引き金を連続で引く。


 続けて二発の光の砲弾を受け、悪魔の半身が消失した。砲弾の衝撃が余波となって建物を吹き飛ばす。


 『バ、バカな……。例え聖属性だとしても、この俺が人間ごときの魔法で…… 再生が阻害される? ……ま、まさかっ!』


 空になった弾倉を排出し、レイは魔法の鞄から予備の弾倉を取り出し装填する。


  

 「拍子抜けするほど呆気なかったな……。いや、魔導砲・改コイツの威力がヤバいのか……。だが、出し惜しみ無しでいく。かなり勿体ないが、これで止めだ」


 レイは装填した『炎古龍』の魔石砲弾に聖属性を付与し、引き金を引く。



 『貴様っ! まさか天使が人間に擬態してただとっ? ありえ…… 』



 悪魔は言葉を最後まで紡ぐことなく、真紅の光に包まれた。 

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