第126話 ジェニーの出張②

 ジェニーは「メルギド」に着いて早々、マリガンから渡された高級宿のリストを手に、降り立った駅から一番近い宿に聞き込みに入った。


 レイとリディーナの特徴である、黒髪に灰色の瞳の美少年と、金髪碧眼の見目麗しいエルフ、その二人が宿泊していないかを尋ねたが、宿の主人からは、宿泊していないとの回答が帰ってくるだけだった。そんな簡単にいくわけないかと、次の宿の向かう途中、突然、ジェニーは衛士達に囲まれた。


 「貴様かっ! を嗅ぎまわってる怪しいヤツはっ!」


 「へ?」


 …


 ジェニーはあっさり衛士隊に捕縛され、現在牢屋に入れられている。


 「ちょっとぉ~ 話を聞いてくださいよぉ~」


 「ウルセーッ! 少し黙ってろっ!」


 牢番の衛士が、ジェニーを怒鳴りつける。捕縛の際からずっと、ジェニーは冒険者ギルドの職員で、ジルトロ共和国の正式な依頼で、レイとリディーナを探しに来たと説明していたが、衛士達は聞く耳を持ってくれない。


 ジェニーを怒鳴った衛士は、押収したジェニーの荷物を手に部屋を出ていった。


 (レイさんの名前を出す度に、衛士達がビクついてるのは何故なんでしょうか? まさか、本当に何かしちゃってるんじゃ……。でも「殿」とか言ってるし……)


 

 「ちょっと、アンタ」


 「はい?」


 奥の牢から女の声が聞こえる。


 「冒険者ギルドの職員なの?」


 「え? そ、そうですけど……」


 「なら「S等級」冒険者って知ってる?」


 「え?」


 「職員なら知ってんでしょ? 何しても罪に問われないってマジなの?」


 「……さ、さあ?」


 「何すっとぼけてんのよっ! アタシ達、ちょっとした勘違いで、仲間殺されたのよ? なのにソイツは野放しで、アタシらが捕まったままなんて、オカシイでしょ!」


 「あ、あのー……。そのソイツって……?」


 「……白髪で片腕の男よ。知ってんの?」


 「は、白髪? それに片腕って……。うーん、知らないですね」


 「ちっ、使えないわね。それより「S等級」ってなんなの? ソイツ次第でアタシ達の罪がどうのって、ここのドワーフが言ってたのよ……」


 「……」


 ジェニーの脳裏に、スヴェンとロイという二人のA等級冒険者のことが思い出される。レイ達に失礼な態度を取り、マリガンが問題視していた二人だ。イヴというギルドの本部職員の護衛を解除されてから、しばらく行方が分かっていなかったが、スヴェンとそのパーティーメンバーだけが、マネーベル近郊の森で発見されたのだ。……全員が再起不能の状態で。


 マリガンは、その件について特に何かする訳でもなく、「忘れろ」の

一言で済ませてしまった。十中八九、レイ達の仕業と考えられたが、マリガン的にはそうなって当たり前だと思っていたらしく、スヴェンとそのパーティーメンバーを、出身国へ強引に搬送して終わりにしてしまった。


 ロイに関しては、行方不明なままだったが、マリガン曰く、


 ―『死体も残らず消されたんじゃないか? スヴェン達に事情を聴こうにも、話せないし、字も書けないみたいだしナー イヤー コマッタ コマッタ ハッハッハッ 』―


 だそうだ。


 (まったく、恐ろしい。白髪の男が何者かは分かりませんが、この女、「S等級」に目を付けられてるのでしょうか? ご愁傷様です)


  ジェニーは牢屋越しに女に対して、両手を合わせて黙とうを捧げる。


 …


 「こいつか、あの御二人を嗅ぎまわってる怪しい人間の女ってヤツは……」


 牢の前に、包帯をあちこちに巻いた中年のドワーフとジェニーを連行した衛士達が現れた。


 「はっ! ゼン隊長、駅前の宿の主人から、あの御二人を嗅ぎまわっている女がいると通報を受け、探して捕縛致しました!」


 「バッキャロー!」


 「「「「ヒッ!」」」」


 ゼンの突然の怒鳴り声に、衛士とジェニーが同時にビビる。


 「おめぇら、碌に事情も聴かずに先走ってんじゃねー!」


 「「「す、すいませんっ!」」」


 「ねーちゃん、すまねーな。最近ちょっと色々あって、ピリピリしてるもんでな。勘弁してくれ」


 「は、はい……。ピリピリ?」


 「だが、すまねぇ。一応、あの御二人に確認を取らなきゃならねーんだが、今は森に行っちまってる。二、三日で戻って来るらしいが、それまでここで待っててくれねーか?」


 「えーーー」


 「失礼は承知だが、勘弁してくれ。メシもちゃんと用意するし、旨い酒も用意する。辛抱してくれや」


 「……」


 

 衛士隊の面々は、先の『魔戦斧隊』によるリディーナとイヴの拉致事件で、レイのブチ切れを目にし、レイ達三人に関してトラブルが起こらぬよう、神経を尖らせていた。特に、レイと共に地下の遺跡に同行した者達ほどそれが顕著で、屈強なドワーフ達が恐れる程、レイの存在がこの街では大きくなっていた。


 「ちょっとっ! アタシ達はどうなんのよっ!」


 奥の牢から女の声が再度響いてきた。


 「あー? ……オメーラは諦めろ。あの方達が帰ってきたら代表達から事件の報告があるはずだ。その時の気分次第だろうぜ。まあ精々祈ってな」


 「そ、そんな……」


 (冒険者ギルドの職員として、冒険者絡みの案件なら介入すべきでしょうが、「S等級」が絡んでるのなら、打つ手ナシです。残念! しかもここはドワーフ国でギルド支部がありません。私もただの外国人です。何もできません。残念! この女とトラブった相手がレイさん達なら、ちゃんとお話しはできそうなもんですが、白髪隻腕の男なんて知りません。残念! 顔も名も知らぬ女よ、ゴメンナサイ!)


 ジェニーは出された食事と酒を口に運びながら、見知らぬ女に本日二度目の黙とうを捧げる。

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