第105話 武具製作

 レイ達が森から帰り、迎賓館に戻ってくると、七家代表の内の三人、ニコラ、ユマ、カインがいた。そして三体の石像……。


 「なんだこれは?」


 「な、なによこれ……」


 「か、勘弁してくださいっ!」


 迎賓館のホールには、レイ達三人の石像が置かれていた。


 「おおっ、帰ってきたか! 待っておったぞ! 気づけば消えておって焦ったわい」


 白髪白髭の老人、ニコラが待っていたとレイ達を出迎える。


 「と、とりあえずの説明をしてもらおうか」


 「そ、その前に服っ! 何か着せてよっ!」


 「……」


 イヴは顔を真っ赤にしてしゃがみ込んでしまった。一体いつの間に? いや、どうやってこんな精巧に三人の裸体を再現できたのか? 大抵のことには驚かないレイも、頬をひく付かせて代表達に説明を求め、リディーナが自分とイヴの外套を自分たちの石像に急いで着せる。


 「あー? アンタ達の装備を作るのに必要だからに決まってるさね。これぐらいちょいと触れば造作もない。それより詳細を詰めるからそこに座んな」


 「「「……」」」


 (ひょっとして型紙、いやマネキンのつもりか? ユマ婆が俺達の体を触って作ったってのか? あれから一週間も経ってないぞ……。それにどうやってこんな細部まで……)


 自分たちの裸体が隠れて落ち着いたのか、リディーナはチラチラ目の動きだけでレイの石像に視線を送り、イヴは顔を隠した指の隙間から同じくレイの石像を見ている。


 「二人共……」


 サッと目を反らしたリディーナがユマ婆に詰め寄る。恥ずかしさと怒りで髪の毛が逆立ち、今にもユマ婆を斬り捨てそうな勢いだ。


 「一体どういうつもりよユマ婆! 前はこんなモノ作ってなかったでしょっ!」


 「あー?」


 「ワシらも本気ということじゃよ。勿論、普通はここまでせんが、素材が素材じゃからな。『炎古龍バルガン』という最高の素材とそれを纏うに相応しい使い手。『黒のシリーズ』に匹敵、いや、超えるモノを作って見せるゾ!」


 「『黒のシリーズ』?」


 「ん? ああ、レイ殿の腰にある『魔刃メルギド』をはじめとした『黒龍』の素材から作られた武具のことじゃ。『魔刃メルギド』、『闇の衣』、『黒の杖』、『漆黒の甲冑』、『墨焔の弓』の五つの武具じゃ。ワシらの先人が作った「伝説」じゃからな。久しぶりに腕が鳴るわい」


 「まあ、今回は『闇の衣』と『黒の杖』の手直しがあるからシリーズを作るまではいきませんけど、職人魂を込めて作らせて頂きますよ」


 カインは、眼鏡をクイッと上げながら不敵な笑みを浮かべて自信ありげに語る。仕草が一々ドワーフらしくない。


 (最高の武具を仕立ててくれるのは有難いが、ここまで精巧な石像が必要なのか?髪までリアルに彫ってあるし……。まったく職人のこだわりはちょっと理解出来んな)


 「お三方の戦闘スタイルと要望を聞いて、剣や短剣はワシ、ニコラ・ソド・メルギドが」


 「『黒の杖』の形状変更と魔法関係の強化装備は私、カイン・ロド・メルギドと、ここにはおりませんが、マルク・マジク・メルギドが承ります」


 「『闇の衣』の手直しと、衣服はこのユマ・クロズ・メルギドがやるさね」


 

 その後は、レイ達三人の要望や、戦闘スタイルを話し合い、色や形状、付与する効果などを決めていった。ゲンマ爺にしたようにレイがリディーナとイヴの立ち合いの相手をして見せたときには、代表達は目を丸くしていたが、片手で相手をしたレイに、リディーナとイブは凹んでいた。


 「ゲンマの分もしかと請け負わせて貰おう……」


 「すまん。仇には逃げられたままだ。だが、いずれ殺す」


 ゲンマ達の遺体の状況から犯人は吉岡莉奈だ。ゲンマとは一日二日、話しただけだったが、自分と関わった人間が殺されるのは、何とも言えない気持ちになる。


 (犯人を殺しても、殺された人間は戻ってこない。だが、人を殺した時点でそいつの生きる権利は無くなったんだ。俺も人のことは言えないが、吉岡莉奈だけは依頼抜きでも始末してやる)


 「本来なら我らやらねばならぬことじゃが、レイ殿にそう言ってもらえるなら、あ奴も安心して旅立てよう……」


 …


 「そうだ、アイツらの装備を拾って来たんだが、俺達には必要ないから良かったら使ってくれ」


 そう言ってレイは魔法の鞄マジックバッグから『封魔の籠手』と金のブレスレットをテーブルに出した。籠手は使う人間がいない。レイは使えるが、刀を振るには適していない形状だし、何より色が目立ちすぎる。金のブレスレットは有用だが、一つしかないので研究用にでも役立てて欲しいと思ったのだ。


 「これは……『古代魔導具アーティファクト』か?」


 カインが食い入るように二つを手にして観察する。カインは主に魔法関連の武具が専門らしいが、魔導具に関しても造詣が深いらしい。イヴが自身の『鑑定』結果を伝えて説明を加える。


 「有難く頂戴致します。……これは興味深い。こ、こんな細かく魔法文字ルーンを? いや、それより文字の組み合わせが……」


 なにやらブツブツ呟きだしたカインを置いて、今日はお開きとなった。石像には新たに布が掛けられ、リディーナが他人に見せたら殺すと、本気のトーンで代表達を脅していたが、レイはそれを見て見ぬふりをして寝室に戻る。まだ日は高かったが、魔力の回復に少しでも睡眠を取りたかった。イヴに夕食には起こしてくれと頼み、一人寝室に戻りベッドで横になる。


 

(三人の『勇者』のうち、二人は始末できたか……。あと二十一人、いや、行方不明者が一人いたから二十二人か。最初は楽勝だと思っていたが、能力が特殊なヤツは厄介過ぎるな……)


 今まで偶然の出会いで勇者を始末してきたが、そもそもこんな広い大陸で特定の人間を探して殺すなんて無理ゲーなんだよ。てっきりその辺りは女神がその手段を用意してるもんだと思ってたが、まさかの素っ裸で下ろされた上、顔と名前しか情報がないとはな。この世界に慣れたらいずれ『聖女』にコンタクトは取ろうとは思ったが、逃がした『剣聖』や『弓聖』、吉岡莉奈がどう動くか分からなくなった。こちらからは能動的に攻めないと予期せぬ襲撃がありそうだ……。


 レイは、今後の予定を思案しながら暫しの間、眠りについた。

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