第104話 古代魔導具

 『龍』の素材を取り合う代表達を置いて、迎賓館の会議室をそっと出てきたレイ達は、メルギド郊外の森に来ていた。


 目的は核撃魔法によってできた爆心地の放射性物質の除去と、加藤拓真の捜索だ。


 直径約五十メートルのクレーターに向かい、レイは集中して魔力を練る。空間魔法による『亜空間』をクレーター範囲と同一になるように生み出し、クレーター内の放射性物質を含むすべての物質を『亜空間』へ飛ばす。


 (あの二つの武具が無いと時間が掛かる上、八割以上の魔力が持っていかれるな……)


 「一体、何をしているの?」


 不思議そうに見つめるリディーナとイヴ。創り出した『亜空間』も放射性物質も目には見えない。レイはどう説明するか暫し考えるが、口頭で説明するのは何時間かかるか分からないと考え、その場で答えることを諦める。


 「この街を出る時に、魔導列車内で説明する」


 「「……」」


 興味深々な表情のイヴに対し、小難しい講義が苦手なリディーナはあからさまに目を反らす。


 (俺だって学者並みに詳しいわけじゃないからな、二人に理解出来るように上手く説明できるか分からない。イヴ、そんな期待した目で見ないでくれ……)


 「改めて見ると凄い威力よね……」


 「ちょっと理解が追い付きません……」


 「……」


 (そりゃ、核爆発なんて、俺だって映像でしか見たことない。だが、現代地球の核の脅威は何も大国同士の弾道ミサイルだけじゃない。旧ソ連解体の際に流出した核兵器や技術者は、今や世界中に拡散しているといってもいい。それに、核兵器だけじゃなく、その材料となる放射性物質の闇取引は裏では普通に行われている。それらがテロ組織や反政府組織に流出するのを防ぐ特殊作戦は未だに行われてるし、それを行う人間は、放射性物質の取り扱いに関しての知識は当然押さえている)


 …

 ……

 ………


 『鬼猿オーガ』の魔力弾によって切り開かれた森を進んだ先に、踏み潰された加藤拓真らしき姿があった。巨大な足跡に、不自然に集っていた虫を払うと、黒いローブと辛うじて黒髪の死体と分かる無残な姿があった。


 「ぺちゃんこね」


 「だな」


 「ですね」


 「イヴ、すまないが詳しく『鑑定』してくれるか? 特殊な装備や、魔導具があるかが知りたい」


 「承知しました」


 イヴが加藤拓真だったものを鑑定している間、レイとリディーナは、周囲に気になる物を見つけた。


 「山本ジェシカの装備品か……」


 山本ジェシカが『鬼猿』に変化した時に、破れた衣服や装備が散乱していた。魔金オリハルコン製と分かる、光り輝く籠手ガントレット。多少ひしゃげながらもその存在感は一際目立っていた。


 「イヴ、そっちが終わったらこっちも頼む」


 「わかりました。すぐ参ります」


 イヴが『鑑定』している間、レイとリディーナは周囲の警戒にあたる。レイは探知魔法を展開しているが、『空間転移』の使える吉岡莉奈が襲ってくる可能性も考えていた。


 (去り際の吉岡の態度からして、すぐに襲って来る可能性は低いが、場所が場所だからな)


 レイは、吉岡莉奈の『転移』に関して、仮説を立てていた。転移できる距離や範囲は不明だが、目視できる場所か、予め設定もしくは特定の場所しか転移できないと踏んでいた。仮に特定個人の魔力を目印に転移できるとしたら防ぐ手立てが無いので諦めている。だが、あの時戦闘で使用しなかったことから、そこまで便利に使える魔法でも無いとも思っていた。相手の固有魔力に向かって転移できるなら、勝負は一瞬でついていた。無論、確定情報などは何もないので、このことはリディーナとイヴには話していない。

 

 「レイ様」


 「どうした、何かあったか?」


 山本ジェシカの装備を『鑑定』していたイヴが、手に金色のブレスレットを持ち、レイを呼ぶ。


 「レイ様、『古代魔導具アーティファクト』です」


 「『古代魔導具』?」


 「古代遺跡で発掘される希少魔導具よ。市場には殆ど出回らない代物ね。因みに私達の『魔法の鞄マジックバッグ』も『古代魔導具』の一つよ?」


 「この籠手とブレスレットですが、籠手の方は『封魔の籠手』、中位魔法までは無効化する効果のある籠手で、こちらのブレスレットは、環境変化を無効にする効果があるみたいです」


 「環境変化?」


 「熱や冷気による影響が無効になります。これを起動すれば先日行った火口でも熱による影響を受けません。ただ、直接的な炎などを無効化できるわけではありません」


 「とんでもない魔導具だな……。ファンタジー過ぎる。加藤拓真が作った極低温の中でも平気だったのはこれのおかげか。吉岡莉奈も同じものを持ってた可能性が高いな」


 「この籠手もそうだけど、一体どこで手に入れたのかしら? 魔法を付与する魔法武器は、ドワーフ達も作れるけど、ここまで効果のある物はそこらでは手に入らないはずよ」


 「古代遺跡でしょうか? それでも相当深くまで潜らないと、ここまでの物は出てこないと思うのですが……」


 「そうね。未攻略の遺跡も含めて表層は発掘されてるし、ここまで効果のある『古代魔導具』は市場には殆ど出回らないしね」


 「まあ、コイツらは、元いた世界に帰る為にオブライオンを出てきた奴らだから、その道中で見つけたんだろう。加藤拓真の持っていた杖も、あの極低温を作り出していた魔導具だったし、未探索の遺跡でも発掘したんだろうさ」


 「「……」」


 「どうした?」


 「確かにあの三人は強かったわ。でも強いだけじゃ『古代遺跡』は探索できないのよ」


 「特に未探索の古代遺跡は、様々な仕掛けや未知の暗号も多く、単純な戦闘力だけでは攻略は不可能です。この者達が単独パーティーで攻略したというのは、些か疑問に感じます」


 「ということは、探索が得意、もしくは有効な『能力』をもった『勇者』がいるかもな。まあ単純に、持ってるヤツから奪っただけかもしれないが……。まったく、ただでさえ厄介な能力ばかりなのに、こんなファンタジーアイテムを装備されちゃあ、かなわんな。爺さん達に装備は頼んだが、俺達も遺跡を探索してみるか……」


 「いいんじゃないかしら? 丁度この国にも一つ、未攻略の遺跡があるし」


 「不死者アンデッドの遺跡ですね。レイ様が楽勝と仰ってた……」


 「俺じゃない、リディーナが言ったんだ」


 「あの威力の聖魔法と、古代語が読めるレイなら割と楽勝だと思うわよ?」


 「古代語?」


 「そうでした。古代語が読めるレイ様でしたら、遺跡内の文字や暗号が分かるということですね。それなら楽勝かと」


 「古代遺跡の多くが、千年以上前の遺跡で、古代語の表記が多いのよ。古代語が読めれば回避できる罠もあるって昔聞いたことがあるわ」


 「なら魔力が回復したら行ってみるか。爺さん達に頼んでる武具ができるまで時間もあるだろうしな。それに興味もある」


 「了解♪」


 「了解です」


 その後は、山本ジェシカの装備を回収し、レイ達は街へと戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る