第99話 七つの遺跡

 ―オブライオン王国 国王執務室―


 執務室には、高槻祐樹と吉岡莉奈、九条彰、東条奈津美の四人がいた。


 「……『探索組』の収穫は未だ無しってこと?」


 九条彰が、吉岡莉奈の報告を聞いて口を開く。ここには先日帰還した吉岡莉奈の報告を聞きに、『王都組』の主要人物が集まっていた。


 吉岡莉奈が、テーブルの上に、ゴルフボール大の球体をコトリと置く。文字のような模様が一面に刻まれているその球体に、先に反応を示したのは東条奈津美だった。


 「それ、『鍵』の一つじゃない……。見つけてたの?」


 「ある古代遺跡の最奥で見つけたわ。ここの地下の壁画と同じ彫刻があって、四つの窪みの内、一つにはめ込まれていたのよ。一緒に攻略した面子は、ここの地下のことは知らないから、これを持ち出したのは誰も知られてないわ」


 「まさか、本当に見つかるとはね……。てか、そんな小さいの? もっとデカいモンとばかり思ってたよ」


 「壁画のまんまってことは、これをあと三つか……。莉奈、目星はついてるのかい?」


 「一応ね。確実じゃないけど、可能性のある遺跡は七つ。


  モザク国にある、古代都市『フィネクス』の巨大遺跡『ゴルテア』、

  エルフ国『エタリシオン』の森林遺跡『ナタリス』、

  ザメル国の砂漠遺跡『ハリード』、

  ドワーフ国メルギドの地下遺跡『パドギア』、

  サイラス帝国の海洋遺跡『ネビル』と、

  同じ国内にある氷に閉ざされた都市『アルティカ』

  それと、情報が一切無い空中都市『ノエル』、


 『フィネクス』はさっき言った通り探索を中断してるわ。砂漠遺跡『ハリード』は攻略して、この『鍵』を見つけたけど『フィネクス』の遺跡の規模はそれより遥かに大きくて、どれだけ時間が掛かるか分からないわ。先に他の遺跡を行った方がいいかもしれない。けど、問題は『ノエル』はその場所が一切不明。エルフの国の『ナタリス』も、国そのものの場所が分からない。海洋遺跡と氷の遺跡は、場所が同じサイラス帝国内にあるって分かってるけど入国制限が厳しくて、遺跡探索は難しいわね」


 「しかし、空中都市とか、ほんとファンタジーだね〜w」


 「空中都市……。情報が一切無いのになんでそんなのがあるって分かったんだい?」


 「二百年前の勇者の足跡よ。『探索組』はまず、『勇者伝説』を追ったの。お伽話でも一人が帰還したってあったでしょ? それに何かヒントがあるんじゃないかってね。『勇者伝説』に出てくる舞台がいくつか遺跡の場所と被るのよ。こっちの文字を現地で雇った冒険者に翻訳させて、夏希達がそう推測したの。正直本当にあるかどうかは分からないけど、都市の名前と遺跡の存在は、いくつかの文献に記載があったわ。さっき言った七つの遺跡の一つに『鍵』があったことは確かな事実だから、残り六つの遺跡のどれかに『鍵』があるんじゃないかしら」


 「もう夏希さんに任せちゃえば良くない?」


 「コレと同じ物を見つけたら取っておいてくれって? 理由を絶対聞かれるでしょそれ。夏希達は純粋に日本に帰る方法を探してるだけなんだし、ホントのこと言える?」


 「の説明をしなきゃならないのか……。平気かな?」


 「「「……」」」


 「実は、もう一つ報告があって、二百年前に『勇者』を召喚した設備があるかもしれないのよね……」


 「へ?」


 「あくまで夏希の推測よ? 私は眉唾だと思ってるけど、その設備がある可能性が高いのが『フィネクス』の巨大遺跡『ゴルテア』なのよ。アレの説明をしても多分、夏希達は他の遺跡は行かないと思うわ。それに説明する役目、私は嫌よ? 死にたくないもの」


 「確かに今更説明して怒らせたらヤバそうだよね~。でも死ぬってw」


 「はっきり言って、今の夏希は怖いわよ? こっちに召喚された当時の夏希じゃない。『暗黒騎士ダークナイト』の能力があんなヤバイものだったと思わなかったわ」

 

 「『暗黒騎士』……。そんなにかい?」


 「南の『死霊術師』と響の『剣聖』を足して二で割らない感じって言えばわかるかしら?」


 「そ、そりゃあ……怖いね」


 「遺跡の探索も楽じゃないからね。夏希のチームは結構ガチだから、かなりの修羅場を潜ってるわ。邪魔したら容赦しないわよ」


 「「「……」」」


 「じゃあ、僕らで独自に遺跡を探索して『鍵』を見つけなきゃいけないか……」


 「それは私がやろうかしら? 丁度、手駒も増えたし」


 「東条さんがそう言うなら任せようかな。それにしても……ね」


 「飛竜ワイバーンを何匹か借りるわね」


 「それは構わないけど、遺跡の場所はわかるのかい?」


 「まあ、とりあえず行ってみるわ。あてが無いことも無いから」


 東条奈津美はそう言い残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。吉岡莉奈は、何故この場に奈津美がいるのか疑問に思っていたが、後で祐樹に聞けばいいと、敢えてこの場では問い質さなかった。


 (暫く見ないうちに、奈津美も随分雰囲気が変わったわね……)


 「そう言えば、コレ、どうするの?」


 吉岡莉奈は、テーブルの上の球体を差して、高槻と九条に尋ねる。


 「そろそろ本気で地下を攻略しないといけないか……」


 「二人がやるなら、私も手伝うわよ? 遺跡探索の経験が役立つと思うし、あまり経験ないでしょ? 遺跡探索」


 高槻と九条は、互いに顔を合わせ、暫し考えをまとめる。あまり急ぎの案件ではないが、いずれやらなければならない事ではあった。


 オブライオン王国、王宮地下深くに存在する古代遺跡。代々、国王のみが引き継ぐ機密の一つで、高槻達の最終的な目的が眠る場所でもあった。


 「言っておくけど、いくらチートがあっても、油断したら死ぬわよ? それに、攻略には少なくとも一か月以上掛かるから。フィネクスの遺跡は三か月経っても走破なんてできてないのよ? あまり悠長に構えてたら知らないわよ~」


 「「……」」


 「地下の攻略は『鍵』が揃ってからでもいいと思ってきたけど、少しづつでも進めないといけないか……」


 「あーもう、全然人手が足りないよねっ!」


 「あまり広めたくないけど仕方ない。王都こっちで遊んでるクラスの連中を上手く使うしかないね」


 「大丈夫かしら? 多分何人か死ぬわよ?」



 「「別にいいだろ」」

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