第76話 収監

 魔戦斧隊のドワーフ達に連行されたレイ達三人は、街の牢屋にいた。


 牢屋の中で、レイは目を瞑って座禅を組み、リディーナはうっとりとした表情でレイに寄り添い、イヴは看守のドワーフに責任者を呼ぶよう訴えていた。



 (マリガンの野郎、何が国の代表と同等です、だ。話が違うじゃねーかっ! いや、違う違う、責めるべきは俺自身だ。なんだあのザマは。勇者と分かってたのに腕? なぜ首を刎ねなかった? オカシイ、冷静になれ、俺! )


 チラリと目を開け、側にいるリディーナを見る。


 (無意識にと口走ってしまったが、今更ながら小っ恥ずかしくて逃げたくなる。一体どうしたんだ俺は……。あのガキがリディーナに触れようとした瞬間、気づいたら刀を抜いていた。まるで、十代の頃に戻ったみたいだ。それと、勇者を三人共逃がしてしまった。かなり拙い。この街に何人いるかわからんが、探索組は十数人いたはずだ。しかも大半の能力が不明……。しくじったな、くそっ! )


 …


 座禅を崩さず、己を反省し精神の統一を図るレイ。一方で、リディーナはレイに項垂れる様にして寄り添って、先ほどレイの発した言葉に酔っていた。


 (俺の女、俺の女、俺の女…… )


 今までリディーナに言い寄る男の中に、同じようなことを口走る男はいた。リディーナが無視していることも意に介さず、勝手に言い放つ男に殺意が芽生えたものだったが、こうも言われる相手によっては嬉しいものだとは思ってもいなかった。


 (もっと言って欲しいな……エヘヘ~ )


 リディーナの頭にはもう勇者のことなど微塵もなかった。


 …


 「早く責任者を呼んでくださいっ! 」


 イヴは看守らしきドワーフの男に必死に訴えかけていた。「S等級」の冒険者証をレイが提示したにも関わらず、魔戦斧隊の男も収監された牢の衛兵達もその存在が認知されておらず、こうして収監されたことにイヴは憤慨していた。


 (くっ、こんな所にいつまでもお二人を…… )


 「今に衛士長が来る。「A等級」の冒険者は間違いねーみてーだが、もうちょっと大人しくしてろっ! 」


 看守のドワーフは、そうイヴに言い放ちその場を後にする。


 チラリと振り返ると、目を瞑り座禅を組むレイに、項垂れる様に寄り添うリディーナがいた。


 (もう少しこのままでもいい……のでしょうか? )


 早く二人をここから出すことと、このまま邪魔をしないでいることの葛藤に悩むイヴであった。


 …

 ……

 ………


 「痛え……痛ぇよぉ…… 」


 加藤拓真は、失った右腕を押さえながらベットで蹲っていた。腕の切断箇所は加藤の氷の魔法で凍らせて止血してあり、包帯が巻かれていた。


 「何アイツ、ヤバくない? 一瞬で拓真っちの腕斬り落とすとかマジ、ヤバいんだけど? 」


 「あのイケメンの剣、日本刀じゃなかった? 」


 「えー、見てなかったなぁ……。でもそんなものこの世界に無くない? 」


 「んなことより、俺の腕、拾ってきてくれよぉ~ 」


 「「……無理」」


 「まだ間に合うからさぁ~ 頼むよ~ 」


 「間に合うって何がよ? 凍らせて保存しても、この世界の医療じゃ繋げるなんて無理でしょ」


 「うぐ……。くそっ! あの野郎……。絶っ対ぇ、ただじゃ済まさねぇ…… 」


 「仕返ししたいのは分かるけど、あと三日は待って欲しいんだけど? 」


 「あっ、例のフルーレ? どうせ殺るならゲットしてからがいいよね~ 」


 「そうそう。だから拓真はもうちょっと静養してなさいよ。リベンジには協力してあげるから」


 「……仕方ねぇ。でも、三日もアイツがこの街にいる保証があんのかよ? 」


 「それは分からないけど、どうせ列車は使うでしょ? 最悪、駅を張り込めばいいんじゃない? 」


 「なんかワクワクしてきたねぇ~ 」


 …

 ……

 ………


 「で? コイツらが魔戦斧隊が捕まえたって奴らか? 」


 鉄格子の向こうで、年配のドワーフがレイ達を見て看守のドワーフに言う。


 「はい。「S等級冒険者」とか訳の分からないことを言っております」


 「……。そいつが冒険者証か? 」


 「「A等級」の証は確認できましたが、魔金剛アダマンタイトのようなものが一緒についてました」


 「そいつが「S等級」の冒険者証だ。鍵を開けろ。釈放だ」


 「えっ! 釈放ですか? 」


 「腕飛ばされたってヤツもいなくなっちまったんだろ? 治療院にもそれらしいヤツは来てねぇみてぇだしな。それにいくら『魔封じの牢』でも「S等級」に暴れられちゃあ堪らんからな」


 「…… 」



 「というわけで、アンタらは釈放だ。「S等級」なんざ、一般には知られてねぇから失礼は勘弁してくれ」


 年配のドワーフは、レイ達にそう告げて牢の鍵を開ける。隣にいる看守のドワーフは納得してないのか、怪しむ目で三人を見ている。


 「いや、いい。騒ぎを起こして済まなかった」


 レイは年配のドワーフに軽く頭を下げる。


 「アンタ若ぇのに珍しいな。お前さんぐれぇの歳で「S等級」ならもっと調子くれててもおかしくねぇのによ」


 「それより聞きたいんだが、さっき『魔封じの牢』とか聞こえたがどういう仕組みだ?」


 「それを教えると思ってんのか? 」


 「…… 」


 「まあいい、別に秘密って訳じゃねぇしな。ここの石材や金属は、魔素や魔力を霧散させる特性を持たせてる。この国の商品でもあるが、卸先は各国の政府で、一般には卸してねぇがな」


 「そうか、教えてくれてありがとう」


 「へっ、こんなもんで「S等級冒険者」に礼を言われるとはな。アンタ変わってんな……。言い忘れたが、俺はこの街の治安を預かってる衛士隊長のゼンって者だ」


 「冒険者のレイだ。色々済まなかった」


 …


 「衛士隊長、いいんですか? 釈放しちゃって。碌な取り調べもまだしてませんでしたよ? 」


 「オメーも覚えておけ。あの魔金剛アダマンタイトの冒険者証は、「A等級」の上、「S認定」された冒険者だ。『龍』と同じって扱いだ。まあ『龍』ほどじゃねぇとは思うが、街の一つや二つ、簡単にぶっ潰すことができるのは間違いねぇヤツらのことだ。連行してきたのが魔戦斧隊だって言ってたが、よくブッ殺されなかったもんだ」


 「え? あの魔戦斧隊ですよ? いくらなんでもそんな…… 」


 「あのゴルブの爺さんと同じだ。「S認定」はそんな簡単に認定されねぇ、あのレイってやつもバケモンだろーよ」


 「あのゴルブ老と同じ…… 」


 …

 ……

 ………


 「レイ、これからどうするの? 」


 釈放されたレイ達三人は、全員がフードをかぶり、通りを歩いていた。日も暮れて街灯が灯ってる通りでは、ドワーフ達があちこちの路上で酒盛りをして騒いでいる。


 「とりあえず、宿に帰ろう。「勇者アイツラ」のことを考えなくてはならないが、今はどうしようもない」


 「ごめんなさい。私がすぐに始末しておけば良かったわ」


 「お役に立てず、申し訳ございません」


 「気にするな二人とも。俺も同じだ。他にも勇者の女が二人いた。他にもいるかもしれない。あの男を逃がしたのは俺の失態だ」


 宿に戻った三人は、部屋で夕食を食べながら、今後について話し合っていた。念の為、隣りの部屋に移り、部屋を変えてある。顔は見られたが、それ以外の情報は漏れていない。リディーナがエルフということと、イヴが珍しい青髪ということで、聞き込みされればこの宿に辿り着くことは想像できたが、人探しはそんなに簡単ではない。人間用の宿にしても、この街には十数軒ある。ファンタジーな特殊能力でもあれば別だが、今夜に襲われる可能性は低いとレイは考えていた。だが、警戒は怠らない。


 「野営と同じように交代で睡眠をとって、今夜は様子を見る。そんなすぐに襲ってくることはないだろうがな…… 」


 「明日はどうするの? 」


 「予定通り、ゲンマの爺さんの所へ行く。今ある装備じゃ心許ないからな」


 「そうね。既製品でも、今よりマシな武具はあるはずだからゲンマ爺に聞いてみましょう。イヴもお金のことは気にしないで、欲しいものはちゃんと言うのよ? 」


 「承知しました」

 

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