第40話 拳聖と聖騎士
『拳聖』
川崎の目的は、暴走している『聖騎士』、クラスの副担任教師の
九条から話を聞いた時は耳を疑った川崎だったが、伊集院が訪れた村々を見て事実と分かった。皆殺しにされた村人達の中で、裸にされ犯されたであろう女子供の遺体をいくつも見た。暴走などという言葉では済まないほどの凄惨な光景だった。
クラスの連中が何をしてようが、川崎にとってはどうでも良かった。しかし、この世界に来た同じ日本人として、子供を強姦して殺すようなヤツと一緒だと思われたくはなかった。
国の中枢を抑えてからは、クラスの連中は好き勝手に過ごしていた。だが、高槻や九条達『王都組』は、この国に住み統治していくと決めた。それからは、王都にいるクラスメイトには国との関係を意識するように『王都組』は働きかけていた。勝手に召喚されて、国やこの国の人々のことなどどうでもいいと考えるクラスメイトは多くいたが、この国を拠点にする以上一定の関係は構築する必要があると、王都に住む者にはそう言い聞かされていた。
それが
そんな中で桐生や伊集院のように、能力に物を言わせて欲望を隠さず過ごされるのは、高槻達の悩みの種だった。だが流石に拘束したり、暴力で従わせることまではしなかった。召喚された者同士での争いは可能な限り避けたかったのだろう。
しかし、『王都組』は方針を変えた。戦争を起こし、これからは『勇者』として表舞台へ出ていくつもりだ。今回の伊集院の件も含めて、消えた桐生達にも捕縛の為の捜索がはじまった。この国にいる限りは『王都組』の意向に沿う必要がある。嫌ならこの国から出ていくしかない。
だが、川崎亜土夢にとって、この国を離れられない理由があった。王宮を離れるのは本意ではなかったが、九条に言われて渋々了承し、こうして外に出てきた。
『王宮も教会も自由に行き来できて、欲望のままに動く者達がいる。不安じゃないのかい? その内キミの……いや、これ以上は言わないでおくよ。けど、
九条は捕縛と言っていたが、川崎にそのつもりはない。性犯罪者は死んでも治らない。それを川崎亜土夢はよく知っていた。自分が守る者の為に、教師の一人や二人始末するのに躊躇いはなかった。
…
……
………
街道の先に、馬に騎乗した騎士の一団が見える。数は十三。中心にいる日本人顔は見覚えがある。この道で当たりだったようだ。
「ん? なんだ……? ありゃ川崎か?」
「よう、伊集院。随分好き勝手してるみたいだな」
「『先生』をつけんか、馬鹿者。こんなところで何の用だ?」
川崎は、伊集院の前に座る子供を見る。十歳前後の少年だ。顔には殴られたのか青痣があり、目は虚ろだ。
「ゲス野郎め」
「……教師に向かって、いや『聖騎士』である俺に向かってなんて口の利き方だ」
「お前にはここで死んでもらう」
「はぁ~? なんだってー?」
伊集院は耳に手を当て、馬鹿にしたような態度を取り、周囲の騎士達もニヤニヤして笑っている。どうやら騎士達は『拳聖』を知らないようだ。
川崎は腰を落とし、攻撃の構えをとる。
「おい、お前達! こいつを殺せ! 目障りだ」
伊集院は、引き連れた騎士達に指示を飛ばす。とても教師が生徒に対しての発言とは思えない。
剣を抜いた騎士達が次々に亜土夢に襲いかかる。『拳聖』の川崎亜土夢の実力を知らないのか、ニヤついた表情を誰もが浮かべ、侮るような散漫な動きだ。
川崎は、襲いかかる騎士達の攻撃を避けることもせずに平然とその身に剣を受けた。頭や体に剣が当たるも、その身体には傷一つついていなかった。
「ちっ、また服が……。脱いどくべきだったか」
騎士達の攻撃や自分の身体のことより、斬り裂かれた服の心配をする川崎。
「「「なっ!」」」
「なんだこいつ!」
「ハッ!」
川崎の正拳突きが、騎士の鎧を貫通して腹部に風穴を開ける。手刀で剣を折り、蹴りで馬ごと薙ぎ倒す。そのまま前進し、次々に騎士達を素手で屠っていく。
「ば、化け物だっ!」
数人の騎士が逃げようと踵を返すも、
「逃げてんじゃねぇ!」
伊集院が容赦なく逃げようとした騎士を斬りつける。
「ぎゃっ!」
「俺に斬られたくなければアイツを殺せっ! この役立たずがっ!」
「ひっ」
何とも下種な行いを平然とやってのける伊集院だったが、そうした間にも亜土夢は騎士達を殴り殺していた。
…
……
………
「後は、お前だけだ」
瞬く間にすべての騎士を殴り殺した川崎亜土夢は、一人残った伊集院力也と対峙する。
「来るんじゃねぇ川崎ぃ! このガキ殺すぞ?」
伊集院は馬に乗ったまま、少年を盾に恫喝する。教師としての倫理も人としての道徳も最早失ってしまったようだ。いや、元から持っていなかったのかもしれない。
「まるで漫画の雑魚キャラだな。恥ずかしくねぇのか、センセイよ?」
「うるせーぞ! 俺は『聖騎士』だ! 選ばれた人間だ! 俺が正義なんだよ! 第一、お前等だって好きにやってんだろっ! そーだ、お前だってこの国の女を孕ませて楽しんでんだろ? 知ってるぜ、公爵令嬢だっけか? 流石、ヤクザの息子だ。孕ませた女の実家をしゃぶろうってんだろ? 確かありゃなかなか上玉だったな……へへっ、ガキが生まれたら女も一緒に俺がたっぷり可愛がってやるよ。だからお前は死んどけっ!」
伊集院は下種な言葉を吐き散らした途端、盾にした子供を投げつけた。
「もらったっ!」
川崎が子供を受け止めると同時に、伊集院が馬から飛び降り、その勢いで亜土夢に剣を振り下ろす。子供ごと両断する気だ。
川崎は、だからどうしたと言わんばかりに腕を伸ばして剣を素手で掴む。
「何ぃ! 聖剣だぞっ!」
剣を掴んだ反対の手で子供を脇に置くと、拳を握り伊集院に放つ。
「『聖盾召喚』!」
ギャイィィィン
まるで金属同士がぶつかるような不快な音を鳴らして、川崎の拳が盾に阻まれる。
伊集院は剣から手を放し、川崎に前蹴り放って後方へ飛び、距離を取る。再度、剣を召喚し、何度も亜土夢に剣撃を見舞う。
意外にも実践慣れした動きに、驚く川崎。掴んだ剣はいつの間にか霧散していた。
「へっ、舐めるなよ? この空手バカが! てめぇの
川崎は、伊集院の連撃を腕で受け止める。ブレザーの袖が斬り裂かれるも、腕には傷一つついていない。それでも伊集院は連撃を止めない。
「はぁ、はぁ、はぁ……。このバケモンがっ」
傷一つつかない川崎に焦りながらも、尚も連撃を続ける伊集院。
「くそがっ! そんなに
「もう気は済んだかよ? 下種野郎」
「何ぃ?」
川崎は正拳突きの構えを取り、力を込める。
「へっ無駄だっ!」
盾を構え、余裕の表情の伊集院。だが、川崎から放たれた拳は、伊集院の盾を貫通し、腕を千切った。
「ぎゃああああああああ! お、俺の腕がぁぁぁ 聖盾がぁぁぁぁ」
「弱点が何だって?」
川崎は続けて拳を連打し、伊集院を殴りまくる。鎧はひしゃげ、ひびが入る。骨が砕かれ、内臓が破裂し、伊集院は大量の血反吐を吐いて、崩れ落ちた。
「ぶはっ、ごふっ……かひゅ、かひゅ……ひゅ……」
歯が何本も飛び、顎も砕けているのか、口が半開きでまともな呼吸ができていない。顔面を中心に全身を殴られ、ピクピクと痙攣しながら倒れている伊集院に、川崎は唾を吐きかける。
「そのまま野垂れ死んどけ、クソ野郎」
…
……
………
「おい、ガキ、しゃーねーから送ってやる。村はどこだ?」
「……も、もう無い……です」
「は?」
「さっきの人達に……」
蹲った少年は涙を堪えながら、絞り出すように答えた。
「ちっ、……しゃーねーな、ならついてこい。……お前、名前は?」
「……アイシャ」
「お前、女だったのか……?」
「う、う、うわぁぁぁあああん」
「くっ、泣くな!」
川崎は頭を掻きながら、伊集院の乗っていた馬に少女を乗せ、王都へ向かって歩いて行った。
カリッ
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