第37話 竜王国ドライゼン③
竜王国ドライゼンの王宮、玉座の間に五人の少年少女達が、用意されたテーブルと椅子で寛いでいた。壁際には
氷古龍ヘーガーの討伐後、高槻達四人と合流した九条彰は、四人から王との決闘の話と、その後の王宮内の聞き取り結果を聞いていた。
「えー 王女様、逃げちゃったの?」
「不死化した
南星也は王宮へ入った後、カリム王の他にも身分が高そうな数人を不死化して情報を聞き出していた。城に居て決闘を見ていなかった家臣達への見せしめの意味合いも込めてだ。
「じゃあ、クシャナ王女の捜索はボクがやるよ。偉そうなこと言っといて『龍』を殺しちゃったしね。王女を捕まえたらそのままオブライオンに帰る。王女は人質ってことでいいよね?」
「いいんじゃないかな。この国でやることもあんまりないし」
「それより『龍』はどうしたんだ?」
「
「ちぇっ……。次は譲れよな」
「わかったよ。じゃ、ボクはもう行くよ」
九条は飛翔の魔法で窓から飛び出して行った。
「いいなー あれ。私も飛んでみたいなー」
「やめときなさいよ。落ちたらどうするのよ? それよりこれからどうするの? 私、ちょっと武器庫を見たいんだけど」
「武器庫?」
「何か使えそうな剣はないかなって」
「自分の刀があるじゃないか」
「さっきも見たでしょ? 威力があり過ぎるのよね。普通の剣で多少は斬り合わないと腕が鈍りそうで嫌なのよ」
「ハハハ……。あまり理解できないな。ねえ、そこの偉い人、……そうキミ」
高槻は、震えて立っている家臣の一人を指差して尋ねる。
「この城に武器庫はある? もしくは宝物庫とか」
「ご、ございます! 宝物庫が上階に。武器庫は一階にありますが、一般兵士用でして大したものは……」
「そう。じゃあこの後、白石さんを案内してあげて」
「はっ、はい! 畏まりました」
「ってことで白石さん、それでいいかな?」
「ええ。ありがとう高槻君」
「話は戻るけど、この後どうするかだったね。一応、もう暫くこっちにいて統治のテコ入れしたら第二騎士団に任せてオブライオンに帰ろうと思う」
「騎士団の連中で大丈夫なの?」
「まあ帝国以外に交流がある国が殆どないから前哨戦としてこの国を選んだだけだしね。海じゃなくて残念だったけど塩湖で塩は取れるみたいだし、亜竜の使役方法も手に入った。後は帝国の介入を遅らせる為に情報封鎖をするだけだから、
「帝国にこのことが漏れたら?」
「この国の人間を不死化して対応するだけだね。いずれ帝国とぶつかるんだ。この国の人間が口火を切るならそれはそれで構わないさ。その辺りも言い含めておけば、情報を漏らそうってやつも抑制できるしね」
壁際で立っていた家臣達の背中に冷たい汗が流れる。占領された情報が洩れれば、自分たちを不死化して帝国に攻めさせると少年は言っているのだ。隣に立っている
「そんなことより、オブライオンとの交通はどうすんだ? 一々、山を越えるのは面倒だぜ?」
「それについては考えてあるんだ。封鎖されてるトンネルを開通させる」
「「「トンネル?」」」
「オブライオンにあった古い文献に載ってたんだけど、この竜王国とオブライオン王国を結ぶトンネルが遥か昔に在ったらしい。まあトンネルといっても大きな洞窟レベルなんだけど、調査が間に合わなくて今回は山を越えたけど、開通できればかなりショートカットできそうなんだ。この国に来てその入り口がどこに繋がってるか分かったから、本格的に調査して開通しようと思う」
「誰がやんだよソレ」
南は面倒そうに言う。今回の戦争では殆ど南の不死者軍団が働いていた。洞窟の調査などやりたくは無いのだろう。
「それは冒険者ギルドに依頼しようと思う」
「「「冒険者ギルドに?」」」
「そ。オブライオンの冒険者に任せれば、自然にこの国とオブライオンの国交が開くでしょ? 大体、この戦争だってオブライオンで知ってる人間なんて殆どいないんだ。僕らとしては、この国の中枢さえ抑えておけばいいんだし、後は下々の民で好きにさせておけば色々手間が省けるでしょ」
「ははっ。やっとの思いで洞窟を抜けたら、自国の領土だったなんて、マヌケな冒険者の顔を見てみたいぜ」
「カワイソー」
…
「じゃあ、私は宝物庫へ行ってくるわ。そこのアナタ、案内して」
「あ、私も行くー」
白石響と佐藤優子は、怯えている家臣に案内させて宝物庫へと向かう。
「さて、僕らもやることやっちゃおうか」
「ああ、さっさとやっちまおうぜ」
高槻祐樹と南星也の二人も席を立ち、王座の間を後にする。
…
「んーあれかなー?」
王宮から飛び出した九条彰は、帝国方面の上空からそれらしい一団の捜索をしていた。王女が逃げ出してから半日。馬に比べて走竜の足は速いが、スタミナは無い。進める距離を計算し、高高度から数時間の飛行で追いつける地点を予測、そしてその予測通りに、街道を走る走竜の一団を捕らえた九条。
九条は十騎ほどの集団に上空から接近し、その進行を塞ぐように着地した。
「よっと。いきなりで悪いけど、キミ達はクシャナ王女御一行かな?」
走竜の集団の前に突然現れた黒髪の少年。一行の先頭にいた者が慌てて手綱を引き、走竜を停止させる。
「何者だっ!」
先頭の走竜に乗った兵士らしき男が声を荒げる。
「この国を頂いた『勇者』さ。クシャナ王女を貰いにきたんだよ。おとなしく従ってくれないかなー?」
「総員戦闘用意! 王女殿下を守れっ!」
兵士達が一斉に槍を構え、九条に向け走り出す。それと同時に後方の兵士は魔法の詠唱をはじめた。
「はー……。ほんと好戦的だねー。『聖剣・聖鎧召喚』!」
九条が光る白金の剣と鎧を瞬時に纏い、さらに能力を発動する。
「『
後方にいた兵士の魔法が霧散し、向かってきた兵士の動きが鈍る。
「「「なにっ!」」」
身体強化魔法を無効化され、動きが鈍った兵士達を九条は聖剣の一振りで走竜ごと斬り捨てる。後続の兵が槍で応戦するも、九条の鎧には傷一つつかずに弾かれた。
「ば、馬鹿なっ!」
「なんだコイツはっ!」
「はっはっは! まるで紙だね! ほらほら斬っちゃうヨ~?」
およそ剣術とは言えない出鱈目な剣筋だが、兵士達は聖剣を受けた剣や槍ごと両断され、飛ぶ斬撃により斬り殺された。
次々に兵士達は斬り殺され、残った者は僅か三名。真ん中のフードを被った者を守るように二人の兵士が九条の前に出る。
「もう止めてっ!」
フードを取り、顔を露わにし声を上げるクシャナ王女。白い髪と赤い目をした幼さが残るも美しい女性だ。額には二対の角。やや長い犬歯が牙のようにも見える。
「……竜の巫女。……竜眼?」
王女の目を見つめていた九条は呟く。
「ッ!」
「なっ! なぜそれを!」
護衛兵士のコロンが驚く。クシャナ王女が竜の巫女というのは周知の事実だが、『竜眼』に関しては王と亡き王妃、王女の専属護衛であるコロンしか知らない事だった。
「へー いいもの持ってるねー 益々欲しくなったよ。生きたままね」
九条は、魔法無効の結界を解除し、呪文を唱える。
『闇の力よ 我が力となり 永久の眠りへ誘いたまへ
「くっ…… 姫……様……」
クシャナ王女と護衛兵士二人は、走竜ごと深い眠りにつき、その場で崩れ落ちた。
「
「……さて、どうやって運ぶかな~」
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