第20話 王都の勇者達①
桐生達四人が、森でレイに殺された日。正確には『魔物使い』である高橋健斗が殺された直後に、オブライオン王都では突如、街中で魔物が暴れる騒ぎが起こっていた。
高橋健斗に
「一体どうなってるの?」
王都に居た
様々な爬虫型の魔物達、その中で
「これって高橋のテイムしてた魔獣よね?」
王宮の厩舎で飼われていた魔物達のことは、クラスメイトの殆どが知っている。だが、その飼い主である高橋が今どこにいるかは知る者がいなかった。
「でもまあいいか……」
響は退屈していた。この世界に召喚されて約半年、最初の一ヶ月で初めて剣で生き物を殺してから、色々なモノを斬ってきた。
――『
あらゆる剣、剣技を使いこなし、能力で生み出した白い日本刀は尋常ではない斬れ味を誇る。近接戦闘に於いて最強に近い能力を持つ響は、自身の能力に辟易していた。幼い頃から鍛錬してきた技術を使うことも無く、身体強化と白刀だけで殆どのモノが紙のように両断できてしまうからだ。
「もっと強いモノを斬りたいわ」
そう呟く響の側に、
「ごっめーん、響ぃー、大丈夫ぅー?」
建物の屋根からピョンと飛び、響の側に着地した少女、
「大丈夫ぅー? じゃないわよ優子。危ないじゃない」
「いやいや、ちゃんと墜落場所に人がいないのは確認してるよ? 響しかいなかったし、響なら大丈夫でしょ?」
「……まあいいわ。それよりここら辺は粗方終わったわ。城に帰りましょ」
「了~解〜♪」
――『
佐藤優子は、響とは幼馴染の間柄で、ショートカットの黒髪に童顔、可愛らしいといった印象の少女だが、その顔に似合わぬ大きな胸は、常に周囲の男の視線を集めていた。光る弓と矢を能力で生み出し、高い射撃能力と威力を誇る。効果が同じような魔法もあるが、優子のそれは、威力、射程、連射、追尾能力と全てに於いて魔法を凌駕する。また、白石響の白刀と同様、魔力を必要としないので、本庄学の『
「これって高橋君の従魔だよねー? 殺しちゃって怒るかな?」
「何言ってんのよ。ペットの粗相は飼い主の責任でしょ? 結構被害が出てるみたいだし、怒られるのは高橋よ」
「そっかー そうだよねー」
まるで散歩に訪れたかのように気軽に重竜や飛竜を殺した二人に、窓の隙間から外を窺う住民達は、畏怖の眼差しを向けていた。
…
一方、王宮城内の庭園では、一人の少年が
――『
「ちっ、また汚れちまった……」
全ての走竜を素手で屠った『拳聖』川崎亜土夢は、返り血を浴びた上着を脱ぎ、そのまま城の風呂に向かった。
…
王宮のバルコニーでは狙撃銃のようなモノを構えた少年と、その銃口の先を双眼鏡で眺める少年の二人がいた。
『
「どう? 改良した
「問題無い。
「いけると思うよ。でもまだ試作段階だからね。他に気になるところがあったら言ってよね」
「量産すんのか?」
「まだ無理だねー。それ一丁創造するのも結構大変なんだよ? この国の鍛冶職人に作らせてもダメだったし、金属も碌なのがないしね。火薬は作れるけど、雷管は僕が創造するしかないから量産するならマスケット銃が精々だね」
「先込め式とか面倒臭ぇな!」
お揃いのブレザーの制服を着て、いかにもオタクの高校生といった風貌の二人は、一見、銃で「ごっこ遊び」をしているように見えるが、銃口の先には十数匹の魔物が死んでおり、死体には眉間に穴が開いている。
「そういや、あの死体どうすんだ?」
「
「うへぇ。相変わらずキモイよな」
「確かにヤバいよね」
「あっ! こんなとこにいた! 二人共、
「
「わかんない。でも多分そうじゃないかな? 結構真剣な顔してたよ、高槻君」
「「?」」
――『王宮会議室』――
王宮内にある会議室。その部屋に、先程まで王都で暴走した魔物の討伐にあたっていた面子と、王都に在住、または王宮内にいたクラスメイトが集められた。中には滅多にこういった集まりに参加しないような者もいる。
クラスの面々が会議室に入ってくるのを
担任の志摩先生がこういう場にいるのは珍しい。担任教師のくせに、召喚されてからずっと、皆から距離をとって後宮に引き籠ってなにやら調べ物をしているらしい。副担の伊集院はここにはいないが、好き勝手にやってるみたいだ。ホントに教師かよ? まあウザイこと言って仕切ってくるよりマシだけど。
「みんな集まってくれてすまない」
議長席に座った
祐樹は、某アイドルグループに所属している芸能人で、アイドルながら成績優秀、運動神経も抜群で、実家も金持ち。絵に描いたような主人公系イケメンだ。にも拘わらず、それを鼻にかけずに誰にでも優しさを振り撒き、男女共に人気がある。召喚されてからは、まとまりのなかったクラスのリーダーシップを取ってなんとかまとめている。
「まずは、暴走した魔物を討伐してくれた皆、ありがとう。魔物の暴走に関しては、テイムしていた健斗がまだ見つからないので原因は分からない。隼人と学、雄一の三人も同じように行方がわからない」
そう言えば、確かに高橋がいない。いつも連んでいる二人もだ。その三人を舎弟のように従えてる桐生もいない。いつも王都で俺TUEEEして偉そうにしてる桐生達は、クラスの女子からは距離を置かれている。王宮の侍女や、貴族の娘なんかに手を出しまくっていて女子からはすこぶる評判が悪い。
その女狂いの桐生が『勇者』なんてチートスキルを持ってるもんだからタチが悪い。今日とか役に立っとけよ! と、声を大にして言いたい。
「で、その健斗なんだが……。確定じゃない、事実かどうかはまだ確認がとれた訳じゃないんだけど……」
祐樹が言葉を濁しながら言い淀む。
「はっきり言え」
クラスの強面、亜土夢が静かに突っ込む。風呂上り? 自慢のリーゼントが今は濡れて髪が下りている。アンタそっちの方が絶対イイよ?
「死んだ……かもしれない」
「はーい! 質問ー! なんでそう思ったわけー?」
今度は優子が明るく突っ込んできた。一体何食べたらあんなに胸がデカくなるのだろう?
「詳しくは、
前の方に座っていた
「高橋って、アタシと同じテイマーだったじゃん? だからなんとなく分かるんだけど、基本、テイムした動物との繋がりって簡単には切れないんだよネー。で、今回暴走した魔獣は、厩舎にいた全部でしょ? こりゃアイツ死んだかなーって、そう思っただけだヨ」
優子もそうだが、香鈴も相当だ。仮にもクラスメイトが死んだかもしれないのに何とも思ってないみたい。まあ、あの四人だったら誰でもそうかもしれないし、正直私もどうでもいい。
それに、クラスメイトが死んだのは初めてじゃない。健斗が死んだかはまだわからないけど、魔物に殺されたり、自殺したり、冒険者と揉めて殺されたヤツと、今までで三人死んでいる。それと、召喚されて暫くして行方不明になったのが一人。こんな世界だし、多分どっかで死んでるだろう。
あいつ等はいつも一緒にいた。桐生も一緒だろうし、本庄と須藤のコンビもいて、高橋だけ死んだの? 他の面子はどこいった?
「みんなに集まってもらったのは、誰か健斗達がどこに行ったか知らないか聞きたかったのと、彼らに何か起こったかもしれないと伝えたかったんだ」
スマホがあれば、態々集めなくても良かったのに、ホント不便な世界よね。
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