まずはポーションの相場を知るところからですね。
「え、もうできたの?」
「はい。お届けに上がりました」
隣の薬屋にポーション五十本の納品と、見本をお返ししに来ました。
おばあちゃんはまじまじとポーションを観察してから、
「合格」
と短く告げました。
「品質に問題もないし、劣化防止の小瓶もちゃんと使っている。文句なしよ」
「はい。お眼鏡にかなって良かったです」
「材料費がかかっただろう。失敗していないのなら金貨五枚ってところかい? 経費として出しておくよ」
「え、材料費を出してもらえるんですか?」
「そりゃそうさ。でなきゃ私の丸儲けだろう。ポーションを作ったのはフーレリア、あんたなんだから。取り分はそっちの方が多くて当然だろ。それに今回の依頼は規定のポーションが作れるかのお試しだったのさ。見事、完璧にこなしてくれたけどね」
カリカリと頭を掻いて、おばあちゃんはバツが悪そうに言います。
なるほど、いきなり前金で報酬の全額を置いていったのに違和感がありましたが、あれは失敗することも込みでの初期投資だったようですね。
実際には失敗などしていませんから、おばあちゃんの言う通り金貨五枚の材料費がかかっただけです。
いえ、本当は〈複製〉して敢えて品質を下げたので、材料費はもっとお安いのですけどね。
劣化防止の小瓶が材料費に入ると、もう少し嵩みますが、それでも金貨二枚いかないくらいです。
ともかくくれるというのなら素材費はもらっておきましょう。
「また依頼を出すからね。今度はアンチドーテポーションだと思うけど、フーレリア、アンタ作れるかい?」
「アンチドーテポーションですか。品質によりますね」
「そうだね。等級でいえば七級が売れ筋なんだよ」
「七級ですか? それなら私でも作れます」
「そうかいそうかい。じゃあまた今度、依頼を出すからそのつもりで」
「はい」
私は初の依頼をクリアして内心で胸をなでおろしていました。
しかしポーションの品質はこれで良かったとは。
市場調査の必要性を感じますね。
* * *
金貨二十五枚の利益が出たので、本屋へ足を伸ばしました。
そもそも私は迷宮都市に本を読みに来たのであって、錬金術で生計を立てるのはついでなのです。
本屋には各地から運ばれてきた書物などが並びますが、大抵の本は王都で読んでいましたので、今回は本命の古代語の本を探し行きたのですよ。
ありました、古代語の本のコーナーです。
見たこともない本が多いですね。
ダンジョン産の本はいずれも魅力的ですが、一冊金貨一枚とは随分と安いですね。
気になるタイトルのものを十冊、カウンターに積み上げます。
「おいおいお嬢ちゃん。こいつは古代語の本だが……読めるのかい?」
「はい。古代語の翻訳は趣味でして」
「へえ。すげえな。こんな本は学者しか買っていかないよ」
なるほど、だからこんなに安いのですね。
ちょっとお得な気持ちになりつつ、十冊の本を購入しました。
* * *
本を買った足で市場調査に出ます。
まずはポーションの相場を知るところからですね。
特に品質と値段は注意して見る必要がありそうです。
結果から言えば、迷宮都市のポーションは薬屋のおばあちゃんの扱っていたポーションと同程度の品質しかないものばかりでした。
それでも値段は金貨一枚。
王都で購入すれば品質の高いポーションが入手できるのですが、この街の錬金術師や薬師は何をしているのでしょう。
疑問です。
そしてアンチドーテポーションやマナポーション、キュアストーンポーションなどの品質と値段も確認していきます。
やはり品質はさほど高くありませんね。
質より量ということなのでしょうか。
冒険者たちが日常的にポーションを必要としている迷宮都市での需要を満たすために苦労しているとか?
そう思いながら市場調査を続行します。
リンゴと小麦粉と卵を購入して、リンゴのクッキーの素材も確保しておきました。
リンゴ農家の方とは顔なじみになってますね。
「いつも沢山のリンゴを買ってくれてありがとう」
「いえいえ。こちらこそ美味しいリンゴを毎日のように買わせていただけて助かっています」
「お嬢さんは料理人なのかい?」
「いいえ、錬金術師です」
「錬金術師? なんでウチのリンゴが必要なんだい」
「ご存知ありませんか、錬金術でも食べ物を作れるのですよ」
「そうなのかい。錬金術でねえ……」
なんとなく釈然としないというか、理解しがたいものを見る目で見つめられてしまいました。
美味しいお菓子、作れるんですよ!
市場調査も終えて、必要な素材も確保できたので、帰宅します。
〈加速の魔法陣〉を書かなければならないので、読書はしばしお預けかな。
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