第82話 聖剣ですか?

 僕の予想とは真逆に『ゴミの祝福』は最早呪いだった。


 だって!


 全てのステータスを最低のEにした上に、上昇する効果すら受け付けないなんて!


 どこが祝福なんだよ!!


 絶望している僕にアイリスは優しい笑顔で慰めてくれた。


 ううっ……今はその優しさが辛いよ……。



「あ! アレク! そう言えば、さっき、剣を収集したとか言わなかった?」



「うん? あ~勇者の聖剣は収集したよ?」


「見たい! 見たい!」


 アイリスが子供みたいに駄々こねる仕草がまた可愛らしい。


「はいはい、今出すから」


 僕はゴミ箱の中にいた『聖剣グランドクロス』を召喚した。


 僕の右手に現れた『聖剣』は、誰もを祝福するかのように光り輝い――――てはいなかった。


 しかも。



【この、ばかもん!!! 儂をあんな臭いゴミの中に入れるとか許さないからな!! お前なんぞに力は貸さない!!!】



 と、幻聴が聞こえた。


「アレク、聖剣は自我を持っていて、その力を貸す人のみに声が聞こえると伝わる。それは幻聴じゃなくて、本物の聖剣の声だ」


 へ、へぇー!


 聖剣って意志があるのね。


 そうか……。


 そうなのか……。


「ねえ、聖剣さん?」


【…………】


「僕に力を貸さないとどうなるか……教えてあげるよ」


 ゴミの祝福で暗黒化している僕に、誰かを容赦する寛大な心は既に残っていない!


 しかも、この剣、何だかめちゃ偉そう!


 ちょっとムカつくので、そこら辺に投げた。


 ――そして。


「スキル! ゴミ召喚! 地獄風呂!」


 聖剣に地獄風呂をお見舞いしてやった。


 ……


 …………


 あ、どうやら剣と離れていると声は聞こえないみたい。


 まあ、いっか。



 地獄風呂を見た勇者が震え出していた。


「勇者クラフト! 最後聞くよ? 魔族との戦いになった原因は、お前が魔族を攻めたのが原因なんだな?」


「え? は、はい! 聖剣に魔族を倒さないとレベルが上がらないからと、俺のレベルを上げる為に魔族を沢山狩りました!」


 あ……やっぱ救いのないやつ……。


 と言いたかったけど、そもそも勇者のレベルって魔族を倒す事で上がるのか。


 それは……仕方ない事だったのかも知れないね。


 でも……。


 ここまで来る間の町々を見かけると心が痛む。


 そもそも、レベルを上げる為だけの理由で戦いを仕掛けたのなら、やっぱり僕としては人間側が悪いと思う。


 あとで、ヘルドさんにもちゃんと相談しておかなくちゃね。



 それはそうと、『聖剣』が勇者の手から僕の手に渡ってから聖女があたふたしている。


 『聖剣』の行方が気になるみたいだ。


 『聖剣』さんもそろそろ反省したはずだろうし、もう一度手にしてみるか。



【こ、この! 最低野郎! 儂――――】


 ぽいっ――。


 ……


 …………


【や、やめてくれ! もうゴミは――――】


 ぽいっ――。


 ……


 …………


 ………………


【ご主人様! 何でも言う事を聞きます!】


 僕の右手に握られていた聖剣からは、溢れんばかりの光が放たれた。


 聖剣を高々と掲げた僕は、まさしく『勇者』っぽく見えるのだろう。


 『ゴミの祝福』の衝撃から少しは心が癒えるようだ……。




「ぷぷっ、アレクったら、聖剣の手名付け方も完璧なのね」




 偉そうな聖剣はこれくらいが丁度良いと思うんだよ。うん。


 ポカーンと見ている勇者と聖女。


 僕は彼らの前に立った。


勇者! 聖女! お前達には罰を受けて貰う!」






「秘儀! ゴミの祝福~!」


 こうして、人類から勇者と聖女が消えた瞬間だった……。






 って消えてないけどね!!

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