第76話 始めまして、勇者様ですか?

 『ヴァレンシア』の立派な砲台が、勇者軍に向けられている。


 ヘルドさん曰く、「クソ勇者が暴れると面倒だ。けん制用に砲台でも向けておけ」との事。


 勇者様って……一体どんな人なんだろう。



 野営地で準備を終えた勇者様と隣に綺麗な金髪の別嬪さん、何人かの兵士達が『ヴァレンシア』の前を訪れた。


 僕とアイリス、ヘルドさんの三人で出迎えた。



「なっ!? 貴様はヘルド!? 今すぐ成敗してや――「おう、あの砲台が見えないか?」――クソ!! この卑怯者!!!」


 あ……はい。


 何となく、今の台詞でどんな性格か分かった気がした。


「一先ず、助けてくださってありがとうございますだろう? クソ勇者」


「な、なっ!? ふ、ふざけるな! 貴様のようなやつに」


 ヘルドさんが右手人差し指で砲台を再度指した。


「く、くっ…………あ…………と……ま……た」


「ん? 聞こえないなー、あのクソ勇者クラフト殿は先程の戦いて喉でもやられたのかな~?」


 ヘルドさん、絶対楽しんでいるよね!?


 二人の漫才みたいなやり取りを見ていると、隣にいた別嬪さんが二人の間に入ってきた。


「ヘルド様。此度の援護、大変助かりました。ありがとうございます」


 別嬪さんは深々とお辞儀する。


 その姿はまるで聖女様のようだ。


「よう、腹黒聖女」


 聖女様なのかよ!!


 しかも、腹黒って何!?


「腹黒だなんて……ヘルド様ったら、意地悪ですぅ……」


 ああ、ちょっと目をうるうるしてて、凄く可哀想です!


 ヘルドさん! ちゃんと謝った方がいいですよ!


「あん? あいつは腹黒だから、自分に害があるやつにはすげぇんだよ。そのうち見れるから楽しみにしとけ」


 へ?


 ま、まあ……いっか。


「それで、何で貴様がここにいて、その……船? は何だ!」


「おう、俺様は俺様の国『自由国』を守る為に、大袈裟な爆発を調査しに来た。それとこの船は『ヴァレンシア』だ」


「は!? お前、国を作ったのか!? しかも、『ヴァレンシア』!? 『ヴァレンシア』って……王国の?」


「ああ、俺様が王国と自由連邦国を滅ぼして作った国なんだぞ」


「は!? 王国を滅ぼした!?!?」


「おう、そんときの戦利品として、この『ヴァレンシア』を手に入れたぜ」


 ヘルドさん……ちょっと嘘入ってませんか?


 『ヴァレンシア』復元させた時は、あんなに狼狽えていたのに……。


 あっ、そんな目で睨まないで!


 事実を述べただけなのに……。



「おい、クソ勇者。先日あった爆発について教えろ」


「は!? 何故貴様に教えねばならないのだ!」


「そりゃ、俺様がお前の国の王様だからな!」


「は!? いつから貴様が俺の王様になった!」


「う~ん、一年くらい前かな?」


「一年も前から!? くっ、納得いかん! 俺の留守中に王国を攻めるなんて、貴様はやはり許せない! 今すぐ成敗――」


 ヘルドさんがニヤニヤしながら、またもや右手人差し指で砲台を指す。


「ぐぎぎ……人質など……最低なやつだ! …………そういや、『ヴァレンシア』の砲って一回撃ったら、暫く撃てないんじゃ?」


 以前の『ヴァレンシア』ならね。


 今の『ヴァレンシア』は、撃ち放題なんですよ~。


「ほう……試してみるか?」


 ドヤ顔のヘルドさんに今一度踏ん切りが付かない勇者様。


「勇者様。ここは一つ、ヘルド様に従いましょう」


 聖女様の意外な言葉に勇者様は驚くも、仕方ないと呟き、ヘルドさんの指示に従おうとした。


 ――その時。



「あら? そちらの彼女さん…………まさか――――――魔女?」


「へ? 私? そうです……けど?」


 アイリスの返答に、聖女様はその可愛らしい目を大きく開いた。


 ――――そして。






「おいクラフト! あのくそ女をいますぐ殺せ!!」


 物凄いしかめっ面の聖女様が叫んだ。

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