第62話 新たな切り札ですか?

 朝日が昇り始めた。


 両軍の睨みが続いていたが、朝日が昇るも、連邦国軍に大きな動きがない事に王国軍の兵士達は大きな不安を抱く。


 戦場となるであろう要塞都市の壁面に少しずつ陽の光が当たり、その高い要塞の防壁が見え始めた。


 少しずつ、少しずつ――――要塞都市の防壁は全ての陽の光で照らされた。


 その光の先に一人、青い髪をなびかせて、鋭い目をしている中年が、静かに連邦国軍を睨んでいた。


 賢者の末裔。


 かの有名な『賢者ハイリンス』の家系にして、当主であるヴァイク・ハイリンスである。


 いつでも冷静沈着な彼は、能力『賢者』ではないが、賢者の次ぐ『魔導士』の能力を授かった者であり、高い能力だけでなく常に物事を冷静に見極める事が出来る逸材であった。


 彼が……もしも能力『賢者』を授かっていれば、今の連邦国は崩壊しているとまで言われる程に……。


 そんな彼の隣には同じ青い髪の少女が一人、連邦国を見つめていた。



「ユーリ。向こうには届かせ・・・そうか?」


「はい、お父様。恐らく届かせられると思います」


「そうか、クックックッ、連邦国の馬鹿共に一泡吹かせてやろうではないか」


「はい、お父様」


 ユーリと言われた少女は、ヴァイクと共に笑顔を見せる。


 ――――そして、彼女は連邦国に向かって両手をあげた。


「大魔法!」


 彼女の周辺に大きな魔素の動きが渦巻く。


 遠くからでも分かる程にその魔素の渦巻きは大きく、その力を誇示した。




 ◇




「おいおい、ヴァイクの野郎。あんな切り札を隠していたのか」


 ヘルドさんが苛立った口調で言葉を放つ。


「ヘルドさん……あれってもしかして……」


「やばいな、あれは『大魔法』の一つだと思われる」


「『大魔法』…………」


「しかも、あれを一人・・で使おうとしている。大した切り札だよ」


 遠いから見えないけど、髪の色だけでお父様なのは分かっていた。


 いま魔法を使おうとしているのは、隣の同じ髪色の女の子な感じかな?


 元々『大魔法』は一人では決して使えない。


 複数人の上級魔法使いが『共同魔法連想』にて数十分は掛かる。


 こういう睨み合ってる時には絶大な効果を持つけれど……。


 それをたった一人で使うように見える。


 しかも、ただのハッタリではなさげだ。


 魔素の動きがどんどんそれらしくなっていく。


「アレク」


「はい」


「あれ、任せていいんだな?」




「――――勿論です」




 ◇




「はあはあ……」


 一人で『大魔法』を構築している女の子は、次第に苦しそうな激しい息を吐くようになっていた。


 まもなく完成するであろう『大魔法』の魔素が渦巻き膨大な大きさとなり、周辺には絶望を与える音を発していた。


 王国軍の大きな希望となる『大魔法』は――――遂に完成となる。




「発動! はあはあ…………、大地を切り裂く爆風ギガントブラスト!!!」




 彼女が完成させた魔素の渦巻きは一瞬、ピタっと止まった。


 急速に縮まった魔素の塊は、黒い色に変わり、轟音と共に目に見える真っ黒い暴風を作り、連邦国軍に向かって放たれた。


 グゴゴゴゴゴゴ――――


 大地を、空気を、空を、切り裂く暴風が連邦国軍を襲う。


 連邦国軍達に逃げる者はいなかったが、全員絶望した表情のまま、自分達の命をこれから刈り取る死神の暴風を必死に見つめていた。




 あと数秒。




 連邦国軍の命はまさに灯火。




 王国軍の勝利と終わるであろう。




 ――――全ての兵士両軍達はそう確信した。




 その時。




 連邦国軍と暴風の間に、大きな――――――盾が現れた。




 あまりの突如な登場に、両軍もヴァイクもユーリも啞然とする。




 ただ一人、ヘルドだけが不敵な笑みを浮かべていた。




「お前の負けだ。ヴァイク・ハイリンス」




 ヘルドの声の直後、暴風がに直撃した。




 暴風と盾の衝突の轟音が周辺に響く。




 しかし、盾は微動だにせず、暴風を受け止めた。




 数分後、暴風はその力を無くし、消えっていった。

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