二章

第27話 ギルティファングですか?

 大陸の東にはマハト王国が、西には自由連邦国があり、現在も戦争中で毎日のように小競り合いがあった。


 小競り合いも両国のどちらか優勢ではなく、お互いにジリ貧な戦いを強いられていた。


 その最も大きな理由。


 それは『勇者』と『英雄』にある。


 マハト王国の『勇者クラフト』。


 自由連邦国の『英雄ヘルド』。


 この両者のパワーバランスもあり、両国は長年の戦いが更に続くのであった。



 そんな両国とは別に、南側には多くの魔物で溢れている土地があった。


 呪われた森『フルーフ大森林』。


 多くの魔物がいる為、王国も連邦国もこの森には決して近づいていなかった。


 しかし、この大森林の近くでも、賑やかな場所があった。


 大森林と連邦国の間にある町。


 『自由の町、ベータ』。


 この町はでは多種の種族が共存している町であった。


 いつから出来たのか定かではないが、ここ二年で多くのならず者達がこの町に安住を求めて集まっていた。




 ◇




「魔物だ!!! ギルティファングが六体、こちらに来ます!!」


 自由の町ベータの防壁の上から、敵襲の知らせと共に、男が叫んだ。


 ギルティファング。


 その狂暴な性格と強さも相まって、ここら辺一帯では恐怖の象徴の一種でもあった。


 外皮の固さは勿論、速さも兼ねており、一頭でも城壁を崩壊させるとされている魔物だ。


 そんな恐怖の象徴であるギルティファングが六体、ベータ町に向かって猛突進をしてくるのだ。


 そのギルティファング達の前を走っている小さな人影がいた。



 猫耳、尻尾、鋭い眼光と爪、それだけで彼が獣人族だとすぐに分かる程だ。


 獣人族の男はギルティファングと同じ速度でベータ町に向かって走っていた。



「ボス!!! セイ兄貴がども六匹連れてきやしたぜ!!」



 見張りの一人が奥から出て来た男と女にそう告げた。


 その言葉を聞いた周りの町民達――――



「「「ひゃっは~! 今日は豚肉パーティーだ!!!」」」



 と喜んだ。


 世界でギルティファングを目の前にして喜んでいるのはここしかないだろう。


 男と女も防壁の上に上がった。


 向こうに、こちらに向かって走ってくるギルティファングと獣人族の男が見えている。


「セイの奴、まだ遊んでるのか」


「ふふっ、走るの好きなんだし、いいんじゃない?」


「いつも思うけど、転ばないか心配なんだよ」


 恐怖の象徴が追いかけている男に対して転ばないかと心配している人もここにしかいないだろう。


「豚の捕獲はどうする? 今日は私がしようか?」


「うん? この前も君にやって貰ったし、今回は僕がやるよ」


「――分かった」




 凄まじい地鳴りと共に、防壁の上からでもギルティファングがはっきりと見える程に近づいてきた。


 防壁の上の男が右手を挙げると、それを見た獣人族の男は今までの走りが遊んでいたかのように、加速して凄まじい速さになり、町に入っていった。


 ――そして、防壁の上の男が両手を前に出した。



「では、派手に行くとするか! ゴミ・・召喚! 城壁!」


 男の詠唱でギルティファングの正面に分厚い壁が現れた。


 ギルティファング達は構わず壁に突撃するも、壁はびくともしない。


 ギルティファング達の突撃により鈍い音が響いた。


つるぎの雨!」


 今度はギルティファング達の上に鋭い剣の刃が無数現れ、ギルティファング達を襲った。


 分厚いその外皮も、容易く切り裂く無数の刃。


 ギルティファング六体は、一瞬のうちに絶命した。


 それを見ていた町民達は慣れた仕草で、歓声を上げながら素早くギルティファング達を町の中に運んだ。




「ふぅ……流石がアレクニキ、相変わらず恐ろしく強いや」


 走り終えた獣人族の男が防壁の上の男を見て呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る