新旧入り混じる不思議な都市


 木々の間から木漏れ日が輝いている。

 緑に囲まれたベンチにさわやかな風が吹き抜けてすがすがしい。


 そんなすてきな場所にいるのだが、ぞわぞわと寒気がしている。

 神路祇こうろぎに東京の怪異コースを頼んだのは俺だけど、ちょっと後悔している……。


 神路祇が話してくれる奇妙な体験談は作り話とは思っていない。

 でも霊感がない俺は体験することができないから、どこか遠い場所で起きた出来事のように感じていた。


 やばい、怖いぞ……。

 忘れていたけど、神路祇の体験談の舞台はすべて東京だった。


 俺は怪奇な世界との距離が一気に縮まったことを実感した。

 怪異が手の届くところにあり、神路祇は今から現場そこへ行こうと言ってくる。


 いやだなあ、行きたくないなあ。


 怪奇現場だろう……。

 俺自身に恐怖が降りかかる――なんてことにはならないよな……?



 いや、でも、ナニカ起きろと期待して粋がっていたし……

 素人だけど一応ホラー作家だし……?

 ネタの現場検証は大事だし!?


 俺は一生懸命自分に言い聞かせて、クリエイター魂を奮い立たせる。


 ……行くしかない…よな。



「連れて行ってください」



 俺が頭を軽く下げて頼むと、神路祇はいきおいよくベンチを立ちあがった。


 「うっしゃー! 行こっかあ♪」と神路祇のはずんだ声が響き、満面の笑みを浮かべている。すぐに両腕を元気よくふって嬉々として歩きだした。


 まるで遊園地に行く子どもみたいに楽しそうな神路祇。

 俺は怪異に巻きこまれやしないかと不安を抱え、へっぴり腰で後ろにぴったりとついていく。


 怪異に遭遇できたらいいなと安易に思っていたけど訂正します!

 アヤカシさん、どうか出てこないで!!



 このあと、意気揚々とした神路祇が案内する大門の怪奇現場をびくびくしながら見て回った。


 現場の写真を撮ったら、変なモノが写っていないか神路祇に見てもらってからデータを保存し、ホラー小説を書くために必要な情報はちゃんと収集しておく。


 ありがたいことに何事も起きず無事に大門の怪奇現場検証は終了した。






 神路祇が案内してくれた四谷と大門の怪異コース。

 2カ所を無事にめぐり終えて、今は電車で帰路についている。


 なにも起きなくてよかった……。

 しかしめっちゃ疲れた。


 全行程が終了したけど、やるべきことがある。

 記憶が鮮明なうちに、観光して回った内容をスマートフォンのメモアプリに記録しておかねば……。


 恐怖から解放されてほっとした反動なのか、体の重さを感じながら俺はメモしていく。となりにいる神路祇が、ほかの乗客に迷惑にならないようトーンを落として話す。



「東京はおもしろい。

 自動走行する一人乗り用ロボットのシェアリングサービスが中央区で始まっていたり、港区の公園ではロボット芝刈り機が実証実験で走っていたりと、最新の技術があふれている。


 それなのに新宿区には、夜に水浴びしていたという伝承をもつ鬼の石彫りが残っていたり、大田区にある御塚は足を踏み入れるとたたりがあるため、フェンスで囲んで人が立ち入らないようになっているところもある。


 進化のスピードが速い都市なのに古い伝承が今でも息づいている。新旧入り混じってモノゴトがちぐはぐなのに成り立っている。


 古いものを排除せずに未来さきへと残していく度量の大きさがある東京は好きな都市まちだよ」



 俺の趣味で東京観光を計画したら、旅行雑誌やネットで話題に上る商業施設かメジャーな場所しか選ばない。自分の好みで選んでいるから、それなりに楽しいと思うけど、新鮮さはないだろうな。


 今回、神路祇が案内してくれたコースは俺だと思いつかない場所で、しかも奇妙な体験談もついてきた。半日だけだったのに得たものは多くて最高だ!




 友人が選んだおススメコースを散策するのに味をしめた俺は、ビクついていたことも忘れて、また神路祇に東京観光のガイドをお願いしたいと密かに思うのであった。


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街あるき『ホラー雑学』コース 神無月そぞろ @coinxcastle

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