隠れるよりも、戦いうことを選びます。
鈍足な私ですけど、七人ミサキとはまだ距離があったのが良かった。
建ち並ぶ倉庫の間をクネクネと曲がりながら逃げて、何とか彼らの目から逃れられました。
だけど気づかれたのはやはりよくなかったです。
七人ミサキは探すのを止めずに。私達は置いてあったコンテナの影に身を隠しながら、その様子をうかがいます。
「ドコダ。ドコニ消エタ?」
「手分ケシテ探セ。絶対ニ逃ガスナ!」
シャンシャンと錫杖の音を響かせながら、散らばっていく七人ミサキ達。
まずいですね。あの人数で探されたら、いつかは見つかってしまうかも。戦うだけでなく逃げる上でも、七人という数は厄介です。
「どうします? きっとここも、いずれ見つかってしまいますよ。何か逃げる手だてを考えないと」
しかし葉月君は返事をせずに、考え込むように黙りこむ。そして。
「いや。やつらが分散してくれたのなら、逆にチャンスかも。七人を一度に相手するのは無理でも、一体ずつなら戦えるかもしれない」
「戦うんですか? けど、前園さんは待機するようにって」
あ、でもその時はまだ、七人ミサキに気付かれていませんでしたっけ。
しかし今は状況が違います。もしも見つかって、七人ミサキ全員で襲ってきたら一大事。
それよりは葉月君の言うように、散らばっているうちに数を減らしておいた方が良いのかもしれません。
「分かりました。けど危なくなったら、迷わず逃げましょう」
「だね。おっと、さっそく一人、こっちに来たよ」
見ると七人ミサキの一人が辺りの様子を伺いながら、私達の隠れているコンテナに近づいてきています。
「いったんはこのまま隠れていよう。やつが隙を見せたら、二人で一斉に攻撃するんだ」
「了解です」
まるで蛇が餌となる蛙を探すように、捜索する七人ミサキ。
当然このコンテナの周りも調べ出しましたけど。私達は足音を立てないよう気を付けながら、コンテナの周りを回るようにして姿を隠します。
「イナイ……」
低く重たい声が耳に届く。
見つかってはいけない。気配を消して、バレないようにしないと。だけどそう思えば思うほど、緊張のせいで逆に声をもらしそうになる。
早く……早く行って。
心臓の鼓動がだんだんと大きくなっていき、その音で隠れているのがバレるんじゃないか。そんな気さえします。
だけどその時。
「大丈夫だから」
小さく発せられた、葉月君の声。同時に右手に、暖かな温もりを感じる。
見ると葉月君が、私の手を握ってくれていました。
相変わらず、彼は肝が座っていますね。
私は見つからないかってハラハラしてるのに、葉月君はそんな私を落ち着かせようと手を握ってくれたのでした。
こんな時でも余裕な彼が羨ましい。
けどおかげで、胸が楽になってきました。
あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す。
声を出さないよう口パクでお礼を言って、再び七人ミサキに意識を向ける。
どうやら向こうは私達に気づかなかったみたいで、コンテナに背を向けて歩き出しました。
その後ろ姿は無防備そのもの。仕掛けるなら今です!
私達は頷きあうと、コンテナの影から飛び出した。
「迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――」
「天に星、土に命、還りたまえ――」
「「滅っ!」」
隙だらけの背中めがけて、二人同時に術を放つ。
完全に油断していたのか、彼は「ガッ!?」と声を上げて前のめりに倒れました。
「ナ、ナンダト?」
そもそも獲物だと思っていた私達が攻撃してくるなんて、思っていなかったのでしょう。
体を起こそうとしながら、信じられないといった表情で私達を見る七人ミサキ。
今のうちに、一気に浄化させます。
「迷う者、荒ぶる魂……」
「サセルカ―ッ!」
浄化の光を放てば、倒すことができる。
しかしその直前、七人ミサキが手にしていた錫杖を投げつけてきました。
——っ! ダメ、避けきれない!
放たれた錫杖は私めがけて、一直線に飛んでくる。
だけど当たろうと言う直前、葉月君が間に割り込んできて、飛んできた錫杖を腕に受けました。
「―—痛っ!」
「葉月君! 大丈夫ですか!?」
「俺は平気だから、急いで浄化して!」
平気と言いながらもやはり痛いのか、顔を歪ませている。けど、心配するのは後。今はよりも先に、七人ミサキをどうにかしないと。
再び手に力を込めて、術を発動させる。
「迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――浄!」
「アァァァァァァァッ!」
今度こそ成功。浄化の光を浴びた七人ミサキは、投げつけた錫杖もろとも消えていきました。
「除霊成功……。葉月君、怪我してないですか?」
「平気。それより、早くここを離れるよ。今の騒ぎで、残りの七人ミサキが集まってきてる」
神経を研ぎ澄ませると、こっちに複数の霊気が近づいてくのを感じました。
急いで逃げた方が良さそうですね。
だけど走りながらも、葉月君が攻撃を受けた腕を押さえているのが気になります。
硬い錫杖をぶつけられたのですから、ダメージが無いはずがありません。
「ごめんなさい、私が避けきれなかったせいで」
「何言ってるの。まだまだピンピンしてたあいつを浄化できたのは、トモの力があったからだよ。それより問題は、残りをどうするかだ」
そうです。相手はまだ六人もいるのです。
しかもさっきは不意をつくことができましたけど、仲間を倒されたのですから。きっと相手も警戒するはず。
前園さんは応援を呼ぶと言っていましたけど、まだ時間がかかるでしょうし。
今は私達だけで持ちこたえないと。
改めて状況を理解して、気を引き締めるのでした。
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