第43話

「軍警察の反応が芳しくありません」


 さらに数日後。放課後の日課となった情報共有の場で、石榴ざくろが溜息を漏らした。

「環境省が施設の存在を隠している以上、陸軍もわざわざ墓穴を掘りたくないのでしょう」

「それじゃ、瓦斯鬼がすきは逮捕出来ないんですか?」

「そもそも襲撃なんてなかった。だから証拠があるわけが無い。故に逮捕などもってのほかだ。だそうです」

 石榴は歯がみする。

「陸軍も環境省も、施設の襲撃を把握した上でシラを切っている可能性すらあります」

「お互い自分のスキャンダルを隠すために、手を組んでだんまりを決め込んでる、ってことですか?」

「ええ。……普段はいがみ合っているくせに、こういうときだけ歩調を合わせるなんて。皮肉も良いところです」

「では、瓦斯鬼少佐は野放しですか?」凜火が表情厳しく問う。

「彼が握っている情報は、《第拾弐トゥウェルブディストラクション》で大バッシングを受けた陸軍にとっては汚名返上のカギです。外部からの干渉には、陸軍が盾となる可能性が高いですね」

「環境省、マタイはどうなんですか?」

魔力災害対策委員会マタイにとって、施設の存在と伶仗れいじょうくんが握っている《第拾弐ディストラクション》の情報は致命的です。ただし、マタイには既に世論が味方についているというアドバンテージがあります。陸軍がスキャンダルを暴き立てたところで、黙殺するというのが最も現実的ですね」

「となると、陸軍とマタイは水面下で交渉して、落としどころを探っている……?」

「そうでしょうね。どちらとしても、派手なヤケドはしたくない。できるだけ穏便な方法かつ自分に有利な条件を引き出そうとする。交渉は長引くでしょうね」

「そんなことしてたら、瓦斯鬼は行動を起こしますよ!」

「あるいはそれが、陸軍とマタイ双方の狙いかも。あくまで伶仗くん個人の暴走として、すべてをうやむやの内に処理することが」

「なんだよ、それ……」

 軍警察もマタイも頼りにならない。打開策を失い、オレたちは沈黙する。

 と、そのとき石榴の執務机の上で電話がベルを鳴らした。表示された番号に、石榴の表情が強張る。

「四神楽です。ご無沙汰しております先生」

 かしこまった態度で、石榴は受話器に耳を澄ませる。その瞳が突如見開かれた。

「それは──承服できません! なにを理由に…………。っ! ……承知しました」

 石榴が受話器を叩きつけた。眼鏡の奥で、彼女の瞳が怒りに震えていた。

「あの、何が……」

伯嶺はくれい学園の理事長を解任されました。機密情報漏洩の疑いで、マタイの捜査官が私の身柄を抑えに来ます」

「そんな!」

 オレが身を乗り出した、そのとき。


 ──ヴーッ!! ヴーッ!! ヴーッ!!


 地下の収容所で聞いたものと同じサイレンが、学園中に鳴り響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る