セミの恩返し

勝利だギューちゃん

第1話

「ジージー」


セミが鳴いている。

うるさい。


特にアブラゼミは、うるさい。

うるさいだけで、儚さも風情もない。


その点、ツクツクホウシは可愛いい鳴き声だ。


「お願い入れて」

ベランダに、女の子がいた。


無視する・・・って・・・

ここは、マンションの三階だぞ。


慌てて、窓を開ける。


「ありがとう」

「ありがとうって・・・君は誰だ?」

「私?セミの妖精」

「セミの妖精?」

「うん。ツクツクホウシの妖精」


あっそう・・・


「驚ないんだね」

「まあね。で、何しに?」

「恩返し」

「何の?」

「助けてもらった」


セミを助けた覚えはない。


「やはり、忘れてたね」

「何を?」

「助けてくれた事」


本当に記憶にない。


「それって、いつ?」

「6年前」

「6年前?」


ますますわからない。


「まあ、助けてもらったのは、私の両親だけどね」

「両親?」

「うん」


・・・


「あっ!」

「思い出した?」


確か6年前に、虫取りに行ったときに、2匹のセミを助けたことがあった。


「もう、両親は死んだけどね」

「それで?」

「私の両親がね、卵を産んだ時に、生き残った者が、彼を助けなさいって」

「卵のの状態で、聞けるのか?」

「うん。で、私が生き残ったの」

「君だけ?」

「うん。セミの世界も厳しいから・・・」


確かに・・・


「そんなわけで、あなたに恩返しをします」

「しばらく待ってくれ」

「待てない。セミの一生は、短いのは知ってるでしょ?」


迷った僕は答える。


「じゃあ、デートしてくれ」

「セミとデートなんて、寂しくない?」

「予行練習だ」

「OK」


当たり前だが、このセミは・・・

虚しいので、言わないでおく。


「で、結局どうやって3階まで来た?」

「ゴンドラに乗せてもらった」

「あっ、そう・・・」


長い付き合いになった。


同じ土の中で眠っている。

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セミの恩返し 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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