X-38話 まとまらない思考

「どうしたの? 顔色が悪いけど・・・」


「いや、ちょっとな。後で詳しく話すよ。少しだけテントの中で休んでくる」


 相変わらず膝に子供を乗せて楽しそうに笑いかけているコルルと彼らの前で先程の衝撃的な話をするのは躊躇われた。あの後、ユウシと名乗った好青年はとりあえず姿を隠せるところに移動してもらった。


この集落で秘密裏に行われていた実験の詳細を握っているものが、隣で眠っていた博士に刺客を送ったとか口にした後、野営地という誰でも侵入できる場所で休みたくないとこぼした。


そのため、今彼がどこにいるのかすらも俺は知らない。誰にも知られることなく、一人で今晩過ごすよとだけ残すと、彼は起き上がり夜の森の中に消えていった。


 俺は正直言って頭を悩ましていた。集落で行われていた人体実験のことやら博士を殺した人がいるといった深く長考しなければいけない事象が立て続けに起きすぎている。


もし、博士を殺した刺客がこの野営地の中のいると仮定するのなら?一番怪しいのは常に医療用テントの中にいた医者が第一候補で怪しいだろう。しかし、彼はとても人が良さそうであり、怪我人の手当をお願いした時一番になってそれこそ寝る間を惜しんで治療に当たってくれた。


それは、ユウシの治療も殺された博士の治療も然り。そんな彼があえてこのタイミングで殺人という行為に及ぶだろうか。そうとは考えづらい。医者じゃなかったとすると、次は誰が怪しくなるだろうか。あのテントには誰でも近づくことはできた上に、誰もあの近くにいないという状況はしばしば引き起こされていた。


特定の人物を犯人だと断定するのはまだしばらく時間がかかりそうである。もし秘密裏に行われていた実験を知っている人がいるのであれば、その人が犯人と何らかの繋がりがあるかもしれないと勘繰ることもできるのだが、生憎誰も関与していたと口にしないことは容易に想像できる。


 人権を無視し、人の命を蔑ろに扱って成立していた実験だ。誰だってそのことに関わっていたとは言いづらいだろう。


 俺はテントの中に入り込むと、はぁーと大きくため息をついて地面に敷かれた布団の上に転がり込んだ。


「だめだな。思考がまとまらない。これは、コルルも加えて2人で話し合わないと見えてこない部分があったりするかもな〜」


 そう溢すと、自然と落ちてくる瞼の誘惑に逆らうことなく従っていくのであった。

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