X-32話 救いの女神!
俺たちが野営地で集落の人達と共に生活を送るようになって、3日間が経過した。その間、特に代わり映えのない日々を送ってきた。強いていうならば、怪我で寝込んでいた人が次々に回復していったことだろうか。
彼らが日に日に回復していくのを見守るのは何とも表現し難い感情が芽生えたものだ。実際に、医師として幾人という人を救うというのはどういう気持ちになるのか、と本気でその道を思案してしまうほどに。
一方で、俺に対しての集落の人の態度はこの数日で変わることはなかったが、コルルに関しては異常というほどに変化を見せていた。彼らが言うには彼女は『救いの女神』とのことだ。確かに、集落内を逃げ惑っている助けたのはコルルだ。
しかも、普通の助け方ではない。天恵を使って先ほどまで炎に襲われていたと思ったら、次の瞬間には安全な場所にいるというまさに神業と言った代物で救出。
それを体感した彼らは、コルルに感謝し、崇め、言うなれば神格化されるように、皆んなから慕われていた。彼女自身そこまで感謝されることに慣れていないようで、集落の人から声をかけられるたび、顔を赤くしながらそれに反応している。
ちなみに、あの二人はまだ目を覚まさない。彼らの様子やその後の移行を見守っている医師の意見では、そろそろ目を覚ますとのことだが、確証は持てずにいる。空は見上げる人が目を細めてしまうほどの晴天から、再び漆黒を取り戻そうとしている。と言うより、もう半分以上暗闇が上空を染め上げている。
「ちょっと彼らの様子を見てくるよ」
夕飯を集落の皆んなと食べ終わると、俺は隣で一緒にご飯を食べていたコルルに告げる。キリの村の時とは打って違い、テーブルもなければ、椅子も当然のようにない。直接地面に座り込み、集落の人と円を作るようにして中心に焚き火とそれを利用して大釜で作られた料理が中で沸々と沸騰して、湯気をモクモクと空に向かって上昇している。
コルルの膝下には小さな子供達で溢れかえっていた。既に食事を終え、手無沙汰になると毎夜彼らはまだ食事中の彼女に向かって走ってきては、この場所を複数人で取り合う。彼らの親もこれを咎めるのだが、当のコルルがそれを承認しているので、食事中は無法地帯と成り果てている。
だが、彼女の顔にはいつぞやの鬼の形相とは打って変わり、笑顔が絶えず溢れている。それを見ているだけで、俺自身も自然と嬉しい気持ちになってくる。
その光景を一通り目に収めると、俺は満腹になった重いお腹を抱えながら、腰を上げ、依然として目覚めない彼らが寝ているテントに向かって歩き出すのであった。
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