第63話 対価ご返済のプラン
通常の対価の支払い内容と言うのは、神力を用いて行われた契約に基づき、願いを叶えるのに使った労力にプラスで利子をつけたものとなっている。
普通は下界で神力を使うと、使えば使うほど消費して無くなる。そして下界にいる限り、その回復にかかる時間はウン十年スパンとかでめちゃくちゃ長くなるのである。
しかし、対価としてささげられたそれなりの供物を食えば、そのロス分が一瞬で回復してさらにお釣りまでもがやって来る。つまり、高値の利子付きの対価が支払われるように仕向ければ、自分の神格を急激に上げることにも繋げられるのだ。
まあその分、契約が失敗した時のリスクも高い(らしい)ものだから、実際に実行するピュアゴッドの方々は少なかったりする。やるとしても、成功率がかなり高いと思った時だけ。ハイリスクハイリターンのリスクが、かなり馬鹿にならない感じだ。
ちなみに俺の場合だと、祟り神でちょいと特殊ですから、通常の神様パティーンとはまた少し違っていたりもする。祟り神の神力は、祟り神個人の怒りとか恨みのエネルギーが原動力だからな。俺の場合は自称神のヤローに対する恨みがそれだ。
でも、割とどこにでも湧いている瘴気飯を食うことで、食った分だけ自分の力に変換して自力回復できるから、力を下界で使かっても割とすぐに回復できるのだ。いや、神気の性質上使う機会はさらさらないのですけれども。
しかし、この特性によって、下界で力を使うことによるデメリットがほとんど帳消し状態になり、利潤だけを吸い取れるという悪用方法が出来るのだ。原作のラスボス君は、そうして力を溜めているような描写があった。
というか、ホント瘴気って最高だ。強くなれるし健康体でいられるし、何より超絶ウマいのである。それに瘴気食べる奴ってそんなにいないから、取り合いが起きることもないところもポイントが高い。
デメリットと言えば、食べてるところ見られると、ドン引きされるってことぐらいかな!
つまり言いたいことは、俺は別に利潤の方はいらないということである。ただでさえ使いどころの無い力を持て余してるってんのに、特にこれ以上パワーアップしたい願望もない。ただ、契約失敗にならなきゃそれでいいのである。
そのためには対価を最低神力を消費した分だけ取り立てる必要がある。というわけで今回使った神力の総量をリストアップせねばならぬのだ。
とそんな時、突然脳内に角縁メガネを光らせた謎のセールスマンが、妙に軽快な音楽と共にスタイリッシュに現れた。
――今回ご利用いただきましたヤトノカミ神力サービスは、”
――ですが……
セールスマンはキラキラと顔を輝かせ、その舌を大回転させる。
しかし、唐突に顔を影らせて、申し訳なさそうに切り出した。
特に、エクストラヒールに関しましては、角蛇一族全員を回復するほどの力を消費いたしましたから、本来ならばそれなりにお値段は張りますが……ここはご安心ください! 今回は眷属割引が効きますのでね。しかも、ジャジャマル様の組まれました契約内容は”神使契約”! 最も会員ランクが高いお客様ですから!!
数秒前までのシリアスモード()がウソのように、彼は太陽のように輝かしい白い歯を光らせた。商売根性に燃える瞳は業火に包まれている。
ここで神使プランのご説明を! 眷属はもともと特殊な縁が結ばれていることで、通常と比べ幾らか割引が効くのですが、今回契約は神力にて行われておりますので、同質の神力の縁の繋がりを持つ神使の皆様には、通常の半額でご提供いただけます!!
そして割引込みで計算して、ここではじき出される値は……な、な、なんと! そこら辺の山に生息しているであろう猪の成体が3体という価格となっております!! いやぁー、これはお買い得ですねェー!!
脳内のセールスマンがいい笑顔でサムズアップしてくるのに頷きながら同意する。それくらいなら、普段こいつらの狩っている得物の中から、対価分を分けてもらうってくらいで十分だ。
――だってのに、このアホの
『ええ、我が一族を守り通していただいたのです。もちろん対価にはそれ相応のものを。
――私めのこの命、受け取ってくだされ』
『はい却下ァ!!』
思わず発動していた変化の術が乱れ、ヒトガタ形態に戻って即答した。いらねーよそんなもん。
いやさ、確かにジャジャマルほどの妖怪を一匹丸々食べれば、それ相応のパワーアップは望めますけれどもね。でも今回は俺は利子を取る気はないの。契約不成立を起こさない最低値、つまり原価の徴収だけでいいって言ってんだよ。
あっ! この場合の”食べる”ってのは、エロいほうじゃなくて言葉通りの方だよ! そこのところ間違えないでよねっ!! いや、エロい方も嫌だわボケェ!!
一体誰に向かって(脳内で)(一人で)叫んでいるのか分からなくなるほどには、只今絶賛憤慨していた。触手は見事に赤く染まり果て、ぽこぽこと瘴気が湧き出して来たのを飛び散る前に回収する。
『し、しかし、元の住処を失った今、私にはこの身以外に返せるものはございませんのです!
ぶ、無礼を承知で申し上げる!! どうか、どうか私の身一つでご勘弁を! 我が眷族までには手を出さないでいただきたい! こ奴らには、こ奴らには……ッ! これ以上何も失わないでもらいたいのです!!』
ジャジャマルは俺の触手が赤く輝き始めたのを見て、おろおろと焦りだした。しかし、しどろもどろに告げられるその言い訳はむしろ全く逆効果。ファイヤーオイルスプラッシュの怒髪天ボンバーである。
自然とつり上がって来る口角を震わせながらも、努めて優しい顔になるよう意識する。しかし、怖がらせないよう極限に配慮しているというのに、ジャジャマルの挙動不審具合がどんどん加速してゆく。最早視線が定まらなさ過ぎて壊れた時計のようにぐるぐると回っていた。
『ねーえ、ちょっと待ちなよジャジャマルくーん? お前俺のことなんだと思ってんの?? もっと欲しいとかそんな鬼みたいなこと言ってんじゃないのよ。てか、俺はお前のことを食べないし、他の子たちも当然食べる気はないからね!? 誰が大事な部下だと思ってる奴を食いたいと思うよ、どんなサイコパス野郎だよそれ!!
――て、え、ちょ、おま……、それ、俺のことそんなん思ってたってこと!? え、まって。俺、ちょっとショックだよ! いや大分ショック!! もう立ち直れない!!』
『わ、我が主……』
今度は触手がさみしく悲しみに青色へと染まって行く。へっ、身も心もブルーってな。
顔面を覆いながら、とりあえず言いたいことを投げやりにぶちまけた。
『一括で払おうなんて思わなくていいから! 分割払いで全然いいから! そんな物騒な話に持っていかないで頂けますこと!?
ほらさ、獲った獲物をちょいちょい分けてくれるとか、なんかおいしい木の実取ってきてくれるとかでいいんだって。お前たちが俺を思って捧げてくれるものは何でも対価になるんです。その程度でいいんだよ……』
『な、なんと……かように微々たるもので……!?』
『今回はオマケなんだからねっ! それでいいようにこき使われるようなアタシじゃないんだからっ!!』
『わ、我が主ぃ……! 感謝、感謝いたしますぞぉ!!』
くねくねと腰をくねらせる俺に対し、ジャジャマルもまたくねくねと長い体をもみくちゃにして叫んだ。それを見た角蛇達は、何かの儀式と勘違いしてジャジャマルと同じようにくねくねと細い体を躍らせたことで、場はあっという間にカオスと化した。
この状況を作り上げた俺が言うのもなんだが、なんだこれ。
のた打ち回るウナギの大草原かな。ちょっとこわい。
結局、対価返済のプランは数回にわたる分割返済に落ち着いたのだった。俺が山に遊びに来るたびに、何か美味しいものをくれるという約束だ。うんうん、それでいいんだよ。
ジャジャマルが急に変なこと言い出したときはビックリしたが、とりあえず俺は傷心旅行にでも行こうかと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます