12.ぎゅうぅぅ

「由香奈ちゃんは小さいし」

「子どもたちよりは大きいです」

「あちこち柔らかくて加減がわからないし」

「春日井さんは赤ちゃんを抱っこするのも上手じゃないですか」

「怖いんだよ」

 ぽそっと、その一言の声のトーンがわずかに違って。由香奈はすくいあげるように目の前の彼を見上げた。


 由香奈にとって、この人はいつもまぶしい人で、自分なんかが触れてはいけないと思っていた。ぎゅっとしてほしいなんて身の程知らずだと。

 ――俺、間違えてないと思う。

 だけど彼は由香奈の願いを見透かして。

 ――ダメじゃないし、汚くない。

 ちゃんと、受け止めてくれた。


 なのに自分はいつまでもくよくよと同じところをぐるぐるとして、彼を混乱させてしまった。

 由香奈に迷いがなければ、春日井だって戸惑わない。そういう人なんだ。

 でも、これまでさんざん由香奈を弄んだ男たちの手とは違う、春日井に触られるのは、恥ずかしすぎて緊張して。大好きだから。それならば。


「それなら、私がぎゅってします」

 え、と指の隙間から目を覗かせた春日井の返事を待たず、由香奈は腕を伸ばして彼の腰に抱き着いた。おでこが彼の胸の下にこつんとあたる。身長差があるからこれで精一杯だ。そしてしまった、真正面からではバストが邪魔だ。

 それでも由香奈はぎゅうっと腕に力を込めた。これくらい、もっと。もっとされたって、自分は壊れたりしないのに。ぎゅっ、ぎゅうぅぅと恨みがましいくらいの気持ちで。


「ちょっ、ヤバ。ヤバいから、由香奈ちゃん!」

「何がですか!? これくらい平気ですっ」

「ちが……、俺がヤバい、俺がヤバいから!」

「やばくなんてないです!」

 目を閉じて、ぎゅうううっと、息が詰まるくらい胸をつけて、はたと気づいた。由香奈のおへその下に固いものがあたっている。


 目を開けて、彼との間でぎゅむっと押しつぶされている自分の胸の谷間をよくよく眺めてから、由香奈は恐る恐る首を曲げて彼を見上げた。また両手で顔を覆ってしまっているが、首元まで真っ赤で。日焼けで赤いのではなく。


「ごめ……」

「大丈夫です」

 みなまで言わせず、由香奈は横向きにからだをずらして改めて春日井を抱きしめた。片方の耳を彼の胸の素肌に押しあてる格好になって、素早く飛び跳ねている心臓の音が聞こえるようになる。

「やばくなんてないです」


 下腹部にあたる固いものは海の中でも熱くて。彼の鼓動に合わせて昂りそうになる気持ちを、さざ波のリズムに集中することでなんとか落ち着かせる。

 そう。こんなことで飛びのくほど純情じゃない。大丈夫。


 心音がゆっくりとなり、やがて落ち着いた春日井は、そうっと優しすぎる力で由香奈の背中を抱き寄せた。

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