最終話 星空ステージを永遠に

 明莉は僕だけのために歌っていた。

 青く光るステージの中、その光景は彼女が初めて歌ったステージとよく似ていた。

 そう、星空の下の簡素なステージで、声を詰まらせていた彼女。

 あのとき僕が応援して、彼女は今そこにいる。


 星空の下

 あなただけを信じて

 共に歩きたい

 いつも見守ってくれるあなたに

 あなただからこそ

 遠くない彼方に きっと 二人で 行ける場所

 

 届け この想い 私のすべてをあなたに

 大好きだから 


 満ち足りた笑顔で歌う彼女。

 それは最初からすべて僕のために歌ってくれていた――と考えるのは僕の思い上がりだろうか?

 柔らかな微笑み。

 潤む瞳。

 あどけない唇。

 その視線は僕を見つめたまま、完璧な動作とステップでリズムを取っている。

 やがて、歌は終わりを迎え、彼女は右手を前にゆっくりと出す。

 これが、彼女にとって本当にステージの最後になるだろう。

 だから僕は彼女の一挙一動を心に刻み付けておこうと思った。絶対に忘れないように。この夏の、いや、これまでの彼女の努力を無駄にしないためにも。

 ステージ下の観客もそれを静まりかえって見ている。

 曲の伴奏がフェードアウトして、やがて静かに止まる。

 彼女のシルエットだけがステージに浮かび、月ノ明莉は応援してくれたファンに対して深々と頭を下げた。

 終わった。すべてが、終わってしまった。

 周りから万雷の拍手が湧き起こると、僕の体の芯からこみ上げるような何かが湧き上がってきた。

   

 お疲れ様、明莉。

 よくやってくれた。

 そして、感動をありがとう。

   

 もう二度とアイドル月野明莉を見られないのかと思うととても寂しく胸が締め付けられる思いだ。

 だけど、これからは――

 月野明莉は僕の彼女だ。

 これからもっと一緒にいられる時間も増えるし、引退しすればおおっぴらに付き合っても問題ないはずだ。

 明莉を僕の独り占めにできる。僕だけのために笑いかけてくれるたった一人のアイドルとして。

 僕は明莉との恋と二人の甘い生活に、否応なく胸が躍ってしまうのだった。    

 マネージャーとしては失格かもしれない。

 だけど、叔父さんは言った。

「マネージャーは常にアイドルの味方じゃなくちゃいけない。周りの全てが敵になろうとも、アイドルを否定するな。どんな些細なことでもだ」と。

 それはファンへの痛烈な裏切りだったかもしれない。許されない行為かもしれない。だけど、明莉の幸せにとってはこれが最善なんだ。

 君のために――

 そして、僕のために――


「倉斗くん!」


 駆け寄って抱きついてくる明莉を受け止めたときには、僕も心地良い笑顔に包まれていた。

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星空のステージで歌う君に まさな @masanan

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