第十四話 フェスに向けて
叔父さんが家にやってきてパンフレットを見せてくれた。
「さあ、これが本番、『帝京テレビ主催アイドル新人賞フェスティバル2021』の概要だ。二人ともよく目を通しておけ」
最終予選会場はテレビ局のスタジオで行われる。そこに参加できるのは百組のアイドルだ。
だが、その全員がテレビに映るわけではない。
午後七時から始まる本選の前に最終予選が午前中から行われるスケジュールになっていた。
ここでアイドルはたった五組にまで絞られる。テレビに映るのは優勝を争う本選に出場する五組のみだ。
表舞台に明莉は立てるだろうか?
ここまで彼女は必死に毎日頑張ってきた。歌に踊りに、バイトまで。
それが報われるかどうか、八月三十一日にすべてが決まろうとしている。明後日だ。
「午前中の予選はスタッフだけで評価を行う。参加者の人数の多さや時間から考えてもせいぜい数分、一曲すべてを歌えるわけではないだろう。だから、最初の歌いだしが肝心だ」
「はい!」
「一発勝負ってことか……」
僕は思わずパンフレットを握る手に力が入る。
「まあ、そんなに心配するな、倉斗。二次予選までの順位も当然に考慮されるはずだ。明莉は現時点で26位、かなりいいポジションだからな。少しくらい最終予選でとちっても上げてくれる可能性は高い」
「どうかなぁ……」
叔父さんは自信満々だけれど、それは26位ではなく5位以内のアイドルだけの気がする。
「マネージャーが明莉の実力を信じなくてどうする」
「そうだね」
「予選から衣装を着けて本番と同じようにやるぞ。つまりはリハーサルも兼ねてるってわけだ」
「じゃあ、着替えて、メイクもしっかりしなきゃですね……」
「ああいや、明莉、着替えはテレビ局内の更衣室でやれ。スタイリストがいるからな。メイクも任せてやってもらったほうがいいだろう。イメージはあらかじめオレから伝えておく」
「はい、お願いします」
「それと、明日はこの町で夏祭りと花火大会があるそうだ。二人ともこの機会にちょっと羽を伸ばして本番前にリラックスしてこい」
「ええ? 遊べってこと?」
「そうだ。ずっと緊張しっぱなしじゃ、本番まで持つわけないぞ」
一理ありそうだけど、目の前のアロハシャツの叔父さんが言うと、どうも不安になってしまう。
「二人とも、そんな顔をするな。ああそうだ、明莉、車にジュースが買ってあったんだ。ちょっと忘れたから取りに行ってくれるか」
「はい」
「待った。それなら僕が行くよ」
「いいから、倉斗。そこにいろ。お前は話がある」
「ええ? わかったよ」
明莉が出ていくと叔父さんが切り出した。
「いいか、倉斗、テレビ局では何があろうと堂々としていろよ。明莉も初めての場所だ。緊張するに決まっているが、相方のお前が緊張していたら、どうにもならんぞ」
「ああ……わかったよ」
「それと、もう少し、明莉に自信をつけさせてやれ」
その話は前にもしていたし、僕もことあるごとに明莉を褒めて励ましてきた。ただ、彼女は自信家というタイプではないから、いつもはにかんで不安げな顔をみせている。
「うん……」
「なんでもいい。明莉が元気になるような、そんな励ましをしてやれ。本来はオレがやるべきだったが、資金集めでろくに顔を合わせられなかった。悪いな」
「別に、僕に謝らなくたっていいよ、叔父さん」
「ああ。あとで明莉に謝っておくか」
「何を謝るんですか」
明莉が戻ってきた。
「いや、なんでもない。じゃ、ジュースも来たことだ。明日に向けて乾杯と行くか」
「まだ優勝もしてないのに?」
「ふん、前祝だ。ノリが悪いぞ」
「はいはい。それじゃ」
コップに注いで、三人が掲げた。
「新人賞の優勝、そして明莉のメジャーデビューに!」
「「「乾杯!」」」
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