(2)

「ほら、明莉」


 悲鳴を上げて落ちてきた彼女の手を引っ張ってやり、プールから上がる。


「ふう、わりと怖かった」


「そうだね」


「でも、もう一回やってみたいかも」


「じゃあ、行こう」


 気に入ったのか、今度は明莉が先に階段を上がった。彼女の丸いおしりとくびれた腰、歩くとわずかにしわが入る水着に目が行ってしまう。僕は罪悪感を覚えながらも、彼女に気づかれないとあってじっと見つめてしまった。


「じゃ、行きますよ。それっ」


 再び上で係員の人に背中を押してもらい、チューブの中を滑り降りる。


「ひゃっ」


 続いて僕も滑り降りたが、明莉が回転して体がひっかかってしまったのか、チューブの途中で止まっていたので、ちょっと焦る。


「おっと!」


 彼女を蹴らないように注意して上手く受け止めたが、ぶつかった勢いのおかげで再び明莉も滑り出したようでほっとする。ただ、僕の体の中に明莉がすっぽりと収まってしまった。


「あぅ」


「動かないで、危ないから」


「はい」


 離れてやるのが理想的だが、うかつに危険なこともしたくない。そのまま僕らは密着したままで下まで降りた。


「ふう」


 安全に降りられてほっとした。


「ごめんなさい。ひっくり返った拍子に引っかかってしまって」


「いいよ。明莉の体重が軽いせいかな」


「ええ? どうかな……」


「もう終わりにする?」


「待って。もう一回、やりたいの」


「わかった」


 明莉がちょっと心配だが、ま、そんなに何度もひっくり返ったりはしないだろう。

 また上まで行くと、今度は係員がウインクしながら言ってきた。


「恋人さんなら、さっきみたいに組んで降りてください。そのほうが安全ですよ」


「「えっ!」」


「あれ、違いましたか」


「ええ、ち、違いますよ。ははは」


「そそ、そうです……」


「それはすみません。でも仲がよさそうだし、友達でもいいんじゃないですか。安全ですから」


 などとウインクして安全を強調してくる。


「どうしようか……?」


「えっと、安全なら……」


 明莉もそのほうがいいらしい。なら、反対する理由はないな。何せ、安全のためなのだ。


「じゃ、先に男の人が座って、その上に乗ってあげてください」


 言われるままに座り、その上に、おっかなびっくり明莉がおしりを乗せてくる。ヤバイ。何がヤバイって、女の子のおしりが密着しているのだ。これは驚異的にヤバイ。


「お腹に手をまわしてください」


「こ、こう?」


「そうそう、しっかり抱きしめて、はい、行きますよ!」


「おわっ!」


「ひゃっ!」


 やはり怖いのだが、明莉が側にいるとそうそうおかしな悲鳴は出せない。僕は彼女をしっかりと抱きしめながら、悲鳴を我慢する。


「あぅ」


「あっ、ごめん、痛かった?」


「う、ううん、大丈夫。何でもないから。でも……」


「嫌なら強くしないけど」


「ううん、大丈夫、強くして」


「わかった」


 強くしてくれと言われれば、安全のためだ、強く抱く。

 下まで降りて、すぐに体を離して、明莉の手を引いてやる。


「ありがとう。……もう一回、いいかな?」


「ああ、もちろんいいとも」


 僕もちょっともう一回やりたかった。堂々と明莉と密着して降りられるのだ。抵抗できるわけがない。このドキドキ感と、明莉の柔らかな体の感触とぬくもりは……最高だ!

 それから気に入ってしまった僕らは、何度もウォータースライダーを周回していたが、五回目に問題が起きた。


「ああ―っ! やっぱり倉斗じゃないか。お、お前、何やってんだよ!」


 知った声に振り向くと、クラスメイトの石川が口を震わせるほど驚きながら僕を指さしていた。

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