第十話 夜空の星に誓って


『倉斗、このサイトを見てみろ』


 叔父さんが送ってきたURLをタップすると、そこにアイドルの一覧表が作られていた。明莉と諸星愛衣の名前もある。


『これは――』


『新人フェスの公式サイトに載せられている、現時点のファン数だそうだ』


『ええ? どうやってそんな数字を』


『SNSのフォロー数とライブの観客数を足したものらしい。二次予選は100位以内。そこに入らないとダメだ』


『なるほど。明莉は344位か……厳しいね』


 ファン数も150人ちょっとしかいない。いや、まだ活動を始めたばかりでライブを二回しかやっていないのに150人もファンがいるのはすごいことかもしれないけれど。

 だが、テレビに出るにはまだ足りない。


『こっちも業者に明莉の公式サイトを作ってもらった。だが、水着写真と砂浜のステージ録画だけでは弱い。何かこう……アイドルが出すようなコンテンツを考えてくれ』


『ええ? それを考えるのは叔父さんの役目でしょ?』


『そうだが、PVくらいしか思いつかん。作る金もちょっと足りないからな』


『ふむ……ああ、ひとついいものがあるよ』


『なんだ? 言ってみろ、倉斗』


『料理のインスタ。今、明莉が焼きナスと天ぷらを作ってくれてるから、それをアップすれば、家庭的なイメージで好感度が上がらないかな?』


『いいだろう。やってくれ』


 データのあげ方とパスワードも教えてもらい、明莉を写真に撮る。こんなことならスマホを高級機種にしておけばよかったが、そんなに違いが出るほどでもないだろう。


「んん? どうかしたの? 倉斗くん」


「いや、記念にね。笑って笑って」


「ふふっ、変なの」


 明莉に公式サイトに載せる宣材だと言ってしまうと緊張してしまうだろうから、家庭的なイメージのコンセプトということで、悪いけど黙ったまま撮らせてもらう。エプロン姿の明莉は少し照れくさそうにしながらも、普通に写真を撮らせてくれた。


「あとは、この料理の写真を撮ってと」


「あぅ、ひょ、ひょっとしてネットに上げるの?」


 気づかれた。


「まあね」


 さすがに嘘はつけない。


「そ、そんな……先に言ってくれればいいのに」


「ごめんね。でも、言うと明莉は緊張するでしょ」


「それはそうだけど……はぅ。いい感じに撮れてた?」


「僕はそう思うけど。叔父さんに送ってからだね」


 送信すると、叔父さんも太鼓判を押してくれた。


「いい写真だ。自然な感じで撮れていて雰囲気がいいぞ。それに、こういうのはあまり見かけないから、他のアイドルより目立つ」


 叔父さんはそう言ったけれど、SNSだとわりとアイドルの家庭料理も流れている気がするけどね。ま、どちらにしても何も流さないよりはいいだろう。

 さっそく公式サイトにアップし、僕はトリッターにも公式アカウントを作って明莉につぶやかせてみた。


『ナスの肉詰めと天ぷらです……おいしくできたかな?』


 ちょっと自信がなさそうなのは普段のしゃべり方と同じだな。

 続けて明莉のエプロン姿も投稿っと。

 ……。

 一つもいいねが付かなかったら、こっそり僕があとでいいねを押しておこう。

 そう思ったら、いいねが続けざまにつく。フォローも増えだした。


「おお、いいねがついたよ」


「良かった……」


 ほっと胸をなでおろす明莉。可愛いもんな。そりゃつくさ。

 しかも、プロフィールにはバッチリと僕がアイドルだと紹介文を入れてある。ピロリンピロリンと通知がうるさくなったので、設定を変えておくことにした。


『可愛い!』


『誰これ?』


『ペロペロしたい。ハァハァ』


 返信がいくつもついたが、誰が明莉をペロペロ舐めさせるものか。料理なら許すけど。

 ブロックや削除をしたくなったが、叔父さんなら放っておけと言うだろうし、そんなのにいちいち反応しても炎上しそうだ。


「これって……返信したほうがいいかな?」


「いや、数もすごいことになってるし、大変だからやらないほうがいいよ」


「でも……」


 この言い方だとダメだな。


「マネージャーとして許可できません。明莉はみんなのアイドルだから、特定の人だけに返信するとほかのファンが悔しがっちゃうよ」


「ああ、そっか。でも、それなら全員……ううん、トリッターのアカウントを持っていない人もいるかも」


「だろうね。だから、公式サイトとかであとでまとめてお礼を言えばいいと思う」


明莉は歌のレッスンもあるのだ。なるべく彼女の負担にならない形ですむようにしないとな。


「うん、じゃあ、文面を考えておくね」


「ああ。そうしてくれ」


「じゃ、倉斗くん、ごはんにしましょ」


「そうだな」


 明莉の手料理を男子である僕が食べているなんて知ったら……嫉妬されそうだ。

 パシャっと音がして、見ると明莉が僕を撮っている。


「お、おい……」


 箸を持ったまま、僕は固まる。


「ふふっ、お返しだよ。安心して。私のアルバムに入れておくだけで投稿はしないから」


「ならいいけど」


 僕はそう言うとサクサクのえび天にかぶりつく。今まで食べた天ぷらの中でも間違いなく最高の味だったが、この情報をファンの間で共有することはできない。惜しいな。


「倉斗くん、天ぷらはまだ残ってるから、足りないようだったら言ってね」

「じゃ、遠慮なく。えび天を追加で!」

「はぁい。ふふっ」

「ははっ」


 ファンが増え始めていることで、僕と明莉は上機嫌だった。

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