第389話 勉強も試験もするよ

 翌日、ファビエンヌをハイネ辺境伯家に迎え、今日の予定を確認する。午前中は家庭教師についてもらっての勉強、午後からは騎士団の鎧に魔法薬を塗布し、それが終わればはっ水剤を作る予定である。


 ロザリアも午前中は俺たちと一緒に勉強の時間だ。どうも一緒じゃなければ勉強に身が入らないらしい。本当に困った子だ。まさか、ブラコンじゃないよね? お兄ちゃん、ロザリアがちゃんとお嫁に行けるのか心配になってきたよ。


 まあ、お父様もお母様もロザリアを手放すつもりがあまりなさそうなのだが、それはそれで良いのか? そろそろお茶会にどんどん参加させて、未来の旦那捜しをさせるべきではないかと思うのだが。


「ユリウス様、何だか上の空ですわよ」

「お兄様、どうしたのですか? あ、分かりました! また新しい魔道具を思いついたのですね」

「違うから」


 俺たちのやり取りを見た先生が眉をハの字に下げている。困った生徒たちだと思っていることだろう。すいませんでした。

 この時間はネロとリーリエも授業に参加している。こちらは真面目に紙と鉛筆に向き合っているようだ。ちなみにミラはお母様と一緒である。今頃お母様に餌付けされているんだろうなぁ。


 算数の時間も終わり、ようやく昼食の時間になった。先生から習う授業の中でも、算数の時間が一番退屈である。全部知っているし、それ以上のことも知っている。それだけに、どうしても雑念が入ってしまうのだ。つい、あれこれと考えてしまう。


「ユリウス様は算数が本当に得意ですわね。教え方もお上手ですわ」

「そうかな?」

「すごく分かりやすいです。先生もビックリしてましたわ」


 ロザリアもファビエンヌと同じ意見のようである。でもね、ロザリア。なんでもかんでも俺に聞くのは良くないぞ。魔道具の設計では算数が必要になる場面もあるからね。おろそかにしてはいけない。


「午後からは騎士団のところに行くのですよね?」

「そうだよ。ファビエンヌにはその間に初級回復薬を作っていてもらいたいんだけど、良いかな?」

「もちろんですわ。もう在庫が切れそうなのですか?」

「騎士団に備蓄してある物にはまだ余裕があるんだけど、商会に置いてある分が足りなくなっているみたいなんだよ」


 昨日の夕食の席でアレックスお兄様から追加を頼まれたのだ。急ぎではないみたいだが、早めに作っておいた方が良いだろう。何があるか分からないからね。それにファビエンヌを退屈させなくて済むので一石二鳥だ。


 ファビエンヌも納得してくれたようでうなずいてくれている。ロザリアは午後からは魔道具作りに励むはずだ。午前中は誘惑に耐えて、頑張って勉強してくれていたからね。今日こそ完成させるんだぞ。


 昼食が終わるとそれぞれの持ち場へと向かっていった。もちろん俺は騎士団の訓練場へと向かう。なるべく早く終わらせてファビエンヌと合流したいな。

 訓練場に到着すると、そこにはすでに鎧が五つ準備してあった。


「ご苦労様。それじゃさっそく始めようか」

「ユリウス様、御足労をおかけいたします」

「気にしないでよ。必要なことだからさ」


 ライオネルが頭を下げてきた。もしかしてわがままを言ってしまったと思っているのかな? 俺が言い出したことなので、そんなこと気にしなくても良いのに。

 準備してある鎧は騎士団が装備している中でも一番良い装備だった。隊長クラスが装備する鎧である。めったに触る機会がないので、ちょっとドキドキしながらも塗布剤を塗りつけていく。


「ライオネル、色が他と少しだけ違うこの鎧を『伝説の鎧』にすれば良いんだね?」

「はい。おっしゃる通りですが……『伝説の鎧』にするおつもりでしたか」

「たぶんそうなるんじゃないかなと思っている」


 ライオネルや作業を手伝ってくれている騎士たちが沈黙した。どうやら冗談と思っていたようである。俺は冗談では済まないような気がしてるんだよね。

 そう思いながらも最後の鎧に「聖なる塗布剤」を塗りつけていく。事前に試し塗りしたように、ちょっとツヤが出て来た。


「これで完成だ。あとは完全に乾けばしっかりと鎧に塗布剤が定着するはずだよ」

「ありがとうございます。乾くまで宿舎で休まれますか?」

「いや、せっかくここまで来たのだから、それまでみんなと一緒に訓練することにするよ。コールドクッキーをもらえるかな?」


 こうして俺は塗布剤が乾くまで剣術の訓練を行った。もちろんネロも一緒だ。ネロは俺とは違い、朝起きてから騎士団で訓練に励んでいるみたいだ。ちゃんと体を休めているのか聞いたのだが、問題ないとのことだった。


 考えてみれば、ファビエンヌが来るようになってからはちょっと訓練がないがしろになっていたんだよね。たまにはこうして運動もしないと。それはファビエンヌも同じか。明日は外での運動の時間を作ろうかな。


 そうこうしている間に鎧に塗布剤が定着したようである。触ってみてもべたつかなくなった。これでよし。俺の任務は終了である。あとは調合室に戻ってファビエンヌと一緒に魔法薬を作るだけだな。そう思っていたんだけど。


「ユリウス様、よろしければ耐久力試験をやりたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」

「そうだよね、やった方がいいよね」


 気になる、気にならないで言えば、当然、気になる。ファビエンヌには申し訳ないけど、騎士団が行う鎧の耐久力試験に付き合うことにした。

 これでも制作者だからね。自分の作品がどのくらいの性能を持っているのかは気になる。試験の結果次第では使えないかも知れないからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る