第364話 強化ガラス

 翌日、コールドクッキーの成果を聞くべく、ファビエンヌと一緒に騎士団のところへと向かった。見た感じではみんな元気そうである。


「おはよう。魔法薬の効果を聞きに来たよ」

「ユリウス様、ファビエンヌ様、あれは良い魔法薬ですよ!」


 すぐに騎士たちが集まって来た。昨日、実験台になってもらった騎士たちの姿もある。ひそかに鑑定してみたが、特に異常はなさそうだ。ファビエンヌも鑑定したのか、ホッとした表情になっている。


 もしかしてファビエンヌにいらぬ心労をかけてしまったかな? 今度からは、ファビエンヌのいないところで試験を行った方が良いのかも知れない。

 騎士たちはしっかりとレポートをまとめてくれていた。最高だな、ウチの騎士団。


「なるほど、効き目は半日くらい持つみたいだね。これなら暑くなってきたころに食べれば、その日は十分にしのげるかな」

「そのようですわね。一日一枚なら、なんとかなりそうですわ」


 薬草園から採れる素材とブルースライムの粘液の入手量からしてそれくらいだろうな。薬草はまだ何とかなるけど、ブルースライムの粘液は厳しそうである。だれかスライムを養殖する方法を考えつかないかな?


「ユリウス様、ファビエンヌ様、おはようございます」

「おはよう、ライオネル」

「おはようございます」

「コールドクッキーを騎士団で採用したいと思います」

「決断が早いな」


 思わずファビエンヌと一緒に笑ってしまった。よほど効果があったみたいだ。騎士団が働く環境が良くなるのなら大歓迎だ。俺は二つ返事で了承した。

 コールドクッキーに問題がないことを確認できた。このレポートの内容を踏まえつつお義姉様たちに手紙を送ろう。


「これで王都にいるお義姉様たちに日焼け止めクリームとコールドクッキーを贈ることができるね」

「はい。これからどんどん暑くなりますし、早めに贈って差し上げましょう」


 屋敷に戻るとすぐに手紙をしたためた。もちろん、ファビエンヌも手紙を書いている。ついでなので、ロザリアも巻き込もう。お義姉様たちに手紙を書くことで印象度アップだな。


 準備を整えたところで、すぐに王都へ贈ってもらうように手配した。カインお兄様の分はないが、たぶん大丈夫だろう。暑い中、一人だけ涼しい顔をしていたら、男友達からひんしゅくを買うことになるだろうからね。


「お義姉様たちもきっと喜びますわ!」

「キュ!」

「それでお兄様、私もそのコールドクッキーを食べてみたいのですが」

「キュ!」

「分かったよ。でも、一個だけだよ。これは騎士団が使うための魔法薬だからね」


 基本的に室内にいる俺たちには必要ないのだが、一度くらい体験させても良いだろう。ロザリアとミラにコールドクッキーを与えた。基本的には甘いクッキーでしかないので、二人もご満悦の表情である。


「甘くておいしいですわ。お兄様とお義姉様はお菓子作りの才能がありますわね」

「キュ」

「あ、ありがとう。でもそれ、魔法薬なんだよね……」


 完全に勘違いされているような気がする。確かにドライフルーツを作ったりしているし、お菓子職人に近いのかも知れない。ここでプリンやらシュークリームやらチョコレートやらを作り出したらとんでもないことになりそうだ。黙っておこう。


「なんだか涼しくなったような気がしますわ」

「あはは、無理しなくて良いよ。暑くならないと効果が分からない魔法薬だからね。そうだな、お昼ご飯を食べた後に外に出てみると良いかも知れないね」

「キュ、キュ!」


 散歩大好きミラが「シュッ!」と手を上げている。これは午後からミラの散歩に付き合わされることになるな。俺もコールドクッキーを食べておこう。もちろんファビエンヌにもすすめた。


「これからはどうしましょう?」

「ファビエンヌは追加のコールドクッキーを作ってもらえないかな? 俺はその間に強化ガラスを作ることにするよ」

「強化ガラス?」


 ファビエンヌとロザリアがそろって首をかしげている。しかもそのポーズがそっくりである。どう見ても仲の良い姉妹にしか見えないな。ほほが緩んじゃう。

 昨日、商会で行われた話を二人にすると、ファビエンヌは驚き、ロザリアは喜んでいた。


「私も一緒に温室の空調設備を作りますわ。お任せあれ!」

「それなりに大きな設備になると思うから一緒に頑張ろうね」


 よしよし、思った通り、ロザリアも一緒に巻き込むことができたぞ。これなら空調とスプリンクラーの両方の魔道具を同時に設置することができるはずだ。どちらも大きな設備になるだろう。頑張らないと。


 それに曇りのときに備えて、人工太陽のようなものも設置したいと思っている。こっちはうまくいくか分からないな。まあ、やるだけやってみよう。


「ユリウス様、どのようにして強化ガラスを作るのですか?」

「普通のガラスを溶ける寸前まで温めて、そこから風魔法を使って急速に冷やすんだよ。そうすることでガラスの表面に圧縮力と生み出して、同時に魔力でそれを包み込むんだ」

「なるほど……」


 そうは言ったものの、良く分からないようである。それもそうか。圧縮力とか言われても困るよね。ロザリアも眉をぽよぽよさせている。分かったかのようにうなずいているけど、これは分かってないな。


「簡単に言うと、魔力を帯びた風を当てて、ガラスを強化するってことだよ」

「それなら何となく分かるような気がしますわ」


 本当に魔力は説明するのに便利だな。何かあったらとりあえず魔力のせいにしておけば良いのだ。この世界に魔力があって本当に良かった。

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