第363話 温室設計

 ウンウンとうなずく親方たち。彼らも俺が魔道具を作っていることは知っているはずだ。何せ、シャワールームを作ったときに、一緒に魔道具を設置した仲だからね。

 ちょっと考えていたアレックスお兄様も渋々ながらうなずいた。


「ユリウスとロザリアが温室を管理する魔道具を作れるのならお願いした方が良さそうだね。でも、その魔道具は表には出さないから、そのつもりで」

「外に出すとまずいことがあるのですか?」

「温室を持とうとする貴族はほとんどいないからね。需要はないはずだよ。それに、二人が関わるのなら、とんでもない代物ができあがるだろうからね。秘密にしておこうと思う」

「なるほど」


 アレックスお兄様からの厚い信頼。ただし、また何かすごい物を作り出して、問題を引き起こすという方面での厚い信頼である。ロザリアに悪いことしちゃったかな~? でも、俺が魔道具を作っていたら、絶対に「お兄様、それ、何ですか? 私も一緒に作ります!」って言うはずなんだよな。


 魔道具の出所が決まったところで、温室内の配管などを決めて行く。水やりが面倒くさそうだったので、スプリンクラーを設置することにした。ロザリアが似た魔道具を作っているので、それの応用だ。ただしこれは天井から雨を降らせることになる。


 温室内を暖める用の配管は地面にも埋設する。土が冷たいのは困る。ハイネ辺境伯領の冬は厳しいのだ。前面ガラス張りにしたいなーなんてことを言ったら、さすがにお兄様からはあきれられてしまった。


「良くそんなにポンポンと考えが思いつくね。天井から雨を降らせるとか、普通は考えないよ」

「それはまあ、植物は外で育てるのが普通ですからね。思いつかないかも知れません」

「さすがはユリウス様。シャワーの魔道具を開発しただけはありますな」


 その一方で、大工さんたちは楽しそうである。次にどんな魔道具がお目見えするのか楽しみな様子である。

 そうこうしていると、お父様がやって来た。席に着くと、すぐにアレックスお兄様がこれまで話し合っていたことを簡潔に話した。お父様、忙しそうだもんね。さすがは領主。


「なるほど、全面ガラス張りか……できるのか、ユリウス?」

「え? まあ、大きな一枚ガラスを作ることはできますが……ただ、耐久性が気になるので強化ガラスにした方が良いでしょうね」

「強化ガラス?」

「ああ、えっと、とても割れにくいガラスのことですね」


 まずい、みんながあっけにとられている。ガラスはパリンと簡単に割れる物だよね。割れないガラスなんてものがあるのはおかしいよね。でもゲーム内では普通にあったんだよね。強化ガラスという名前で。


 ガラス製の高級家具を作るときに必須の素材だった。あとは、ガラス製の武器とか鎧とか。ガラス製の武器とか鎧って、今考えるとむちゃくちゃだな。まあ、キレイではあったけどね。


「ううむ、そうだな、まずはその強化ガラスとやらを試しに作ってもらおう。どうするか決めるのはそれからだな」

「分かりました。早急に準備をしておきますね」

「本当にそんなガラスがあるなら、馬車のガラスに使っても良いかも知れないね」

「アレックスお兄様、馬車も売りに出すおつもりですか?」

「それは……」


 苦笑いするお兄様。さすがにそこまでは考えていないようである。強化ガラスだけ売りに出すか? 強化ガラスは魔道具でも魔法薬でもないので、どのように取り扱ったら良いのかな。ただの素材として売りに出すのかも知れない。


 その後はいくつかお父様からの質問があって終わった。温室に設置する魔道具に関してはノーコメントだった。もはや諦めの境地にあるのかも知れないな。お父様には苦労をかける。本当にごめんなさい。


 細かい建物の設計については親方たちが工房に戻ってから詰めてくれるそうである。なるべく早く設計図を持って来てくれるらしい。こちらもこちらで準備しておかなければならないな。強化ガラスが使えるのか、使えないのかで、親方たちの設計も大きく変わっていることになる。


 屋敷に戻ったころにはお昼の時間に差し掛かっていた。いかん、ちょっと温室の設計の話で盛り上がりすぎてしまった。急いでファビエンヌのところに向かわないと。

 調合室からはとても良い香りがしていた。いくつもの花の香りが混じっているようだが、不快なものではなかった。


「ただいま、ファビエンヌ」

「お帰りなさいませ」


 う、なんかこの会話、夫婦みたいだぞ。

 そう思ったのは俺だけではないらしく、ファビエンヌの顔が赤くなっていた。たぶん俺の顔も赤くなっていると思う。そんな状態の自分を隠すかのように、何事もなかったかのように話しかける。


「日焼け止めクリームは完成したみたいだね」

「はい。こちらになりますわ」


 ファビエンヌが花の模様が施された陶器に入った日焼け止めクリームを見せてくれた。どうやら入れ物にまでこだわってくれたようで、見ただけでも高級品だと分かる品物になっていた。


 これはすごい。センスのない俺では無理だな。事実、いつも通りの容器に入れようと思っていたくらいだ。

 これからは貴族向けの魔法薬を作るときはファビエンヌに任せた方が良いな。その分、俺が庶民向けの魔法薬を担当することにしよう。


「これはいい。お義姉様たちもきっと喜ぶよ」


 鑑定結果も問題なし。むしろ、香りの効果の分だけ性能が向上しているようである。品質が良くなっていた。

 なるほど、付加価値を付けることでも品質を上げることができるのか。勉強になったな。


「すぐに送ってあげよう。おっと、その前に、コールドクッキーの効果を確認しないといけないな。問題なさそうなら、一緒にコールドクッキーも送らないと」

「そうですわね。王都は暑いと言われておりますからね。お義姉様たちもそのことを話すときはちょっと顔が曇っておりましたわ」


 俺はまだ体験したことがないんだけど、きっとかなり暑いんだろうな。その分、冬はそこまで寒さが厳しくないみたいで、過ごしやすいみたいだけどね。

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