第304話 雪の精霊、現る!
翌朝、天気は快晴。開け放たれた天井からは暖かな光が降り注いでいた。この天気なら山の調査もはかどるだろう。俺も調査に行きたかった。『探索』スキルを使えば早く異常を見つけることができるのに。
騎士の中にも『探索』スキルを持っている人はいる。今回はそのスキル持ちの人を連れて来ているみたいだが、周辺を調査する人数は多い方が良いと思うんだよね。
「ライオネル」
「いけません」
まだ何も言っていないのに否定された。どうして俺の言うことが分かったのだろうか。俺の隣ではカインお兄様が気まずそうな顔をしていた。たぶん俺と同じように言うつもりだったんだな。さすが兄弟。
調査隊の最終装備確認が終わり、「いざ出発」となったときにそれはやって来た。
「ゆ、ユリウス様、ユリウス様に会いたいという人物? がお見えになっているのですが……」
「え? こんな山奥で?」
「はい」
何だかものすごく微妙な顔をしている騎士。ライオネルの顔は異常を察知したのか引き締まっており、カインお兄様は首をかしげていた。このままここにいてもしょうがないので拠点の入り口へと向かった。後ろからはライオネルとカインお兄様、ネロがついて来ている。
「おお、我が友よ。たくましくなったようだな」
「いや、雪の精霊様、会ってからまだ半年もたっていませんよ。そう簡単には変わりませんよ」
「そうか? はっはっは」
俺の「雪の精霊様」発言を聞いて騎士たちの顔が青くなった。まあ、そうだよね。二足歩行するカメ。その顔には白い仮面。どう見ても不審者だもんね。そう言えば、川の精霊がハイネ辺境伯家を訪れたときも、騎士たちはその場にいなかったっけ。
そしてどうやら、この中に俺たちを王都から領都まで護衛した騎士はいないようである。まさか、クビになってないよね? もしそうなっていたら、俺のせいでもあるんだけど。
おっと、今は目の前の雪の精霊に集中しないと。詮索は後だ。
「どうぞお入り下さい。外は寒いでしょう?」
「ありがたくお邪魔しよう。これから調査に向かうのかな?」
「ええ、そうですけど」
「ふむ」
何やら考え込む雪の精霊。もしかして、異変の原因を知っているのかな? それなら話が早い。期待を胸に雪の精霊を見る。どう見ても変態なんだよなー。
「連絡はどうやって取るつもりなのかな?」
そう言って雪の精霊は、俺の後ろに立っているライオネルに目を向けた。ライオネルが一歩前に進み出る。
「日が暮れる前にここへ戻って来て、報告をするようになっています」
「なるほど。それならその途中で何かあっても連絡は取れないわけだな?」
「そうなります」
「ならばこうしよう。ワシがお主とこやつらをつなごう」
雪の精霊がライオネルと、今まさに出発しようとしていた調査隊を指差した。わけが分からないようで、困惑の顔を浮かべる騎士団の皆さん。電話なんて知らないだろうから、そんな顔をするのも無理はないか。ゲーム内ではグループを作ってチャットをしていたけど、ここだとどうなるんだろう。ちょっと気になるな。
「雪の精霊様、もう少し詳しく説明してもらえないでしょうか?」
「おお、それもそうだな。念話とワシらが呼んでいる、遠くの者と話す力があってな。それを一時的にここにいる者たちに使えるようにしようと思ってな」
「おおお!」
拠点内がざわついた。いつの間にか全員がこの周辺に集まっている。特に魔導師たちが興味津々だ。魔法に転用できないかと思っているのだろう。確かにそんな魔法があれば便利だな。
「だがさすがに全員は無理だな。何人か選んで欲しい」
「分かりました。それでは彼と、彼と……」
ライオネルは自分を含めた、調査隊の隊長を選び出した。無難な選択だな。これなら問題はないはずだ。俺が選ばれなかったのがちょっと不満だけど。だが不満そうにしていたのは俺だけじゃなく、カインお兄様も同じだった。
雪の精霊の何だか良く分からない力によって、念話が付与されたようだ。使い方を教わり、色々と試していた。どうやら精霊のみが使える特殊な魔法のようなもののようで、人間が再現するのは無理そうである。それでも魔導師たちはあれこれと話していたけどね。
「雪の精霊様のおかげで、準備は万全に整った。大変な任務だが、しっかりと遂行するように」
「分かりました!」
調査隊が次々と雪山へと向かって行った。拠点に残るメンバーはその姿が見えなくなるまで見送った。
拠点に入り、火を囲む。
「雪の精霊様は何かの異変に心当たりはありませんか?」
「そうだな、考えてはみたのだが、サッパリ分からん。ワシの担当は雪が降る場所全部じゃからな。ここだけじゃないのだよ。範囲が広すぎる。雪崩などあちこちで起きておるわ」
なるほど。範囲が広すぎて何が異常なのか分からないのか。もし聞くのだったら、カシオス山脈の精霊に聞くべきだったな。そんなのがいるのかどうかは分からないけどね。
初日は大きな異変は見つからないまま終了した。みんなが無事に帰ってきたことに安心する。だが、おかしな点はあった。
「魔物の姿が見えないか。確かに変だな」
調査隊の報告を聞いたライオネルが考え込む。カシオス山脈にはスノウウルフだけではなく、他にも色んな種類の魔物が生息している。その全ての姿が見えないのは妙ではある。
「ええ。でもそのおかげで、特に戦闘をすることもなく帰って来ることができたのは事実ですね」
調査隊の隊長の一人がそう言った。そうなると可能性があるのは雪の精霊だな。みんなが聞きづらそうにしているので遠慮なく俺が聞いた。
「雪の精霊様、何かしましたか?」
「いや、何も。ワシができるのは雪を管理することぐらいじゃよ。よほどのことがない限り、魔物を倒したりはしない」
おっと、何やら不穏な言葉を聞いたぞ。つまりそれは普段は手出しをしないが、何かあれば手を出すってことだよね? 精霊が動いたら、とんでもない被害が出るんじゃないかな。なるべくそうならないようにしないといけないな。精霊の力を借りるのは最後の手段。切り札として取っておくべきだな。そしてできれば使わない方が良い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。