第204話 アポなしの訪問者
タウンハウスに戻って来てからやることは一つ。そう、シャワーの魔道具作りだ。完成したらアクセルとイジドルの家にお邪魔しなければならない。もちろんそれも狙いの一つである。両親にも顔を覚えてもらおう作戦だ。
なんか、嫁の両親に顔を見せに行くみたいだな。そんなことないよね?
孤児院にも作って持っていこうかと思ったけど、たぶんお風呂には頻繁に入れていないと思うんだよな。少なからずコストがかかるからね。支援があるとはいえ、お風呂はまだ贅沢品だ。厳しいだろう。
そう言えば、アクセルとイジドルの家にはお風呂があるのかな? シャワーを作ると言ったときに否定しなかったので、きっとあるのだろう。どちらの両親も、騎士団と魔導師団でそれなりの地位にいるみたいだからね。だからこそ、お城での訓練に参加させてもらっているのだと思う。
タウンハウスの俺の部屋には魔道具作成キットが準備してある。前回、王都に来たときに準備してもらっていて良かった。すぐに作業を開始できるぞ。
ここのところ、魔法薬しか作っていなかったけど大丈夫かな? うん、大丈夫そうだ。『クラフト』スキルを使いながらササッとシャワーの魔道具を作っていく。
明日には氷室を改良するための素材が届くのかな? さすがに昨日の今日では難しいかも知れない。そうなると暇になるな。明日も一日、みんなが万能薬を作っているのを観察するだけだからね。
そうだ、アクセルとイジドルの家にシャワーを設置しに行こう。そうとなれば、急いで作らないといけないな。
翌日、調合室の視察が終わるとすぐにアクセルの家に向かった。万能薬作成は問題なし。昨晩は俺の作った行動予定表に従ってみんな動いてくれたようである。鍋を管理している人は少し疲れた様子だったが、それ以外の人たちは元気そうにしていた。
「あちらがホルムクヴィスト家になります」
「おお、なかなか良い家だね」
アクセルの家は少し郊外にあったが、小さいが庭もついていた。王都でこの大きさの家はかなりの値段になるだろう。結構裕福なようだ。
ドンドン、とアポなしでアクセルの家に突撃する。使用人がアクセルとイジドルの家を調べておいてくれて良かった。家の中からは子供たちの声が聞こえて来る。
「どちら様です……か?」
「やあ、アクセル。昨日ぶり」
「ユリウス!? どうしてここに」
困惑するアクセルにシャワーの魔道具を見せた。これで全てを察してくれるはずだ。兄の知り合いと分かって安心したのか、アクセルの弟と妹が興味深そうに足に捕まりながら見ていた。
「……魔道具って一日で作れるものなの?」
「あー、まあ、そうだよ?」
「それができるのはユリウスだけだよな?」
アクセルの視線を感じるが必死にそちらを見ないようにしておいた。うかつ!
そうこうしているうちに、アクセルの母親がやってきた。ちょっとふっくらとした感じの、包容力のありそうな女性だ。
「アクセル、知り合いなの?」
「あー、その、あの、俺がいつもお世話になっているユリウス様だよ」
「まっ! とんだ失礼を」
慌てて頭を下げるお母さん。ついでにアクセルの頭を手で押さえていた。しまったな、やっぱりアポなしはまずかったような気がする。脅かすつもりはなかったのだが、そう言えば俺、貴族だったわ。それも、それなりに身分の高い貴族。
「頭を上げて下さい。アクセルにはいつもお世話になっていますから気にしていませんよ。いつも通りにしてもらえるとありがたいです」
俺の言葉に頭を上げてくれた。興味津々な感じで、弟と妹がこちらを見ていた。
「ほら、俺が言った通りだろ?」
「こら! 口の利き方」
どうやらいつも通りに接してもらうのは難しいみたいである。おっと、ここで時間を取られるわけにはいかないぞ。このあとはイジドルの家に行かなければならないのだ。念のためアポを入れておこう。下手するとイジドルが燃やされるかも知れない。
「早速だけど、取り付けさせてもらうよ。大丈夫、すぐに終わるからさ」
「何の話でしょうか?」
「ほら、夕食のときに話しただろ? シャワーをつけてくれるって話」
え? え? みたいなことを言っていたが、アクセルは俺の手を引っ張ってお風呂場へ連れて行ってくれた。その後ろから弟と妹が目を輝かせてついてきた。
お風呂の隅に魔道具を設置する。この位置ならあまり邪魔にはならないだろう。本体の上には物が置けるような構造にしたので、タオルや石けんなどを置くこともできる。
配管を壁に取り付けてたら完成だ。室内用なのでコンパクトサイズにしてあるが、多人数で使わないなら十分にその機能を発揮してくれるはずだ。
「よし、設置完了」
「手際よすぎない?」
「フフフ、発案者ですから」
「もう魔道具師になれば?」
現実は無慈悲である。アクセルが半眼でこちらを見ている。使い方を教えると、早速使ってみたいと言われた。でもな、朝からシャワーを浴びるのは、まあ、有りと言えば有りか。
「どうする?」
「せっかくだから四人で入ろう。母さん、タオルを用意しておいて!」
そう言うと、アクセルが弟と妹の服を脱がせ始めた。まあ、良いか。良いのか? 妹がいるんだけど……ロザリアと一緒にお風呂に入っているくらいだから良いのか。まだ許される年齢だと思っておこう。
シャワーはとても好評だった。何ならそのあと、母親も入ったくらいである。
「簡単に汗を流せるのは良いな。頭も洗いやすいし、すごく良いよ。なんで売ってないの?」
「俺の領地では売ってるんだけどね。まだ王都まで届いていないみたいだね」
「良いのですか? こんなすごい魔道具をいただいても」
不安そうに眉を曲げている母親に笑顔で答える。不安を与えてはいけない。あくまでも、一日俺を護衛してくれたことへの感謝の印である。
「もちろんですよ。そのために作って来たのですから。断られても、他に持っていくところがないですからね」
「ん? イジドルのところはどうするんだ?」
「大丈夫、同じものがもう一つ馬車の中にあるから」
「……大魔道具師って呼んでもいいか?」
「やめてよね」
俺とアクセルのやり取りを温かい目で母親が見守っている。これで少しは安心してくれたかな? アクセルは俺の大事な友達なのだ。今後も仲良くしていきたい。
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