第183話 未来の義姉に会いに行こう
「いやー、ユリウスがいてくれて本当に良かったよ」
「何ですか、その言い方。それだと今までは別にいなくても良かったように聞こえますよ」
「そんなことはないさ」
うーん、どうやらアレックスお兄様の中で俺は、完全に問題児として認識されているようだ。何を仕出かすか分からない爆弾のように思われているのかも知れない。俺も好きで問題を起こしているわけじゃないんだけど、運命が俺を離してくれないのさ。なんちゃって。
カインお兄様は落ち着きを取り戻したようで、恥ずかしそうにしながら、ようやく俺から離れた。ひどい顔になっていたお兄様の顔を使用人たちが何とかしようとしていた。
そして俺の服はもっとひどいことになっていた。使用人は諦めたのか、特に何も言って来ない。服、着替えて来よう。被害が拡大する前に部屋へと戻った。
「すまない、ユリウス。この通りだ」
「顔を上げて下さい、カインお兄様。気にしてませんから」
時刻は夕食時。久しぶりに三人そろっての夕食の席で、カインお兄様が平謝りしていた。
本当に俺は気にしていない。もし逆の立場だったら、同じようになっていたことだろう。どうやらカインお兄様は素直な子供に育っているようだ。……貴族としてはどうかと思うが。
「ユリウスが作った魔法薬を飲めばすぐに治るのかい?」
「ええ、恐らくは。少なくとも、今日、孤児院で使った限りではすぐに治りましたね。でも、もしかしたら違う症状かも知れません」
あえて困ったような顔をした。これはカインお兄様の思い人である、ラニエミ子爵令嬢を見に行くチャンスなのでは? チラリとアレックスお兄様を見た。お兄様の口角が少しだけ上がった。あのかすかな動き。俺じゃなきゃ見逃してたね。
「なるほど、ユリウスが言うことにも一理あるな。カイン、心配だから私たちもついて行こう」
「えええ! それは」
嫌そうであるが、背に腹はかえられない。そう思っているかのように顔をしかめながら考えている。ちょっと追い込み過ぎたかな? でもどんなご令嬢なのか、知っておく必要があると思うんだよね。将来、義姉になるのならなおさらだ。今のうちから良い関係を築いておきたい。
「分かりました。よろしくお願いします」
「それじゃ、明日はカインはいつも通りに学園に登校するように。その間に私たちが孤児院に行って魔法薬を受け取って来るよ。昼休みに会おう」
「はい」
どうやらアレックスお兄様は俺が通う孤児院も気になっているようだ。俺との関係がどのようになっているのか気になるのだろう。ついでだからネロとリーリエを紹介しておこう。コネ作りは大事だからね。
その後アレックスお兄様は使用人にいくつか指示を出していた。きっと明日、孤児院に行くことと、俺が学園に行くことに対する先触れを出していたのだろう。次期辺境伯として、しっかりと地位を確立しつつあるようだ。安心して見ていられるな。
俺も明日の登城を取りやめることを、王宮魔法薬師団と騎士団に伝えておかないといけない。使用人を呼んで、こちらも指示を出した。
肺の病が広がりつつあるのかも知れない。王宮魔法薬師団に猛毒蛾の鱗粉を集めておくように指示しておこう。
何だろう。何か、俺が王宮魔法薬師団の親玉になったような気がする。気のせいだよね?
翌朝、心配そうな顔つきでカインお兄様が学園へと出発した。俺たちを疑っているようなことはないだろうが、安心してはいないようだ。これは早くラニエミ子爵令嬢を元気にしてあげないといけないな。
俺たちも準備を整えて孤児院へと向かった。最終試験を終えたアレックスお兄様は、卒業式までは学園に行かなくてもいいらしい。それでも社交の場に出席したり、ダニエラ様に会いに行ったりと、毎日、忙しそうではあるが。
「ユリウスも人が悪いね。ラニエミ子爵令嬢がどんな人物なのか気になったから、あんなことを言ったのだろう?」
馬車の中でアレックスお兄様がそんなことを言ってきた。否定はできないな。
「そんな言い方はひどいですよ。お兄様もそれに乗ってきたじゃないですか」
「まあ、それはね。カインが選んだ子がどんな子なのか気になるからね」
何だかうれしそうである。腹黒仲間ができたと思っているのかな? 俺は無実だ。俺は腹黒ではない。たぶん。
「孤児院に気になる子がいるみたいだね?」
「え?」
「そうでなきゃ、ここまでやらないだろう? 女の子なのかな?」
ニンマリと笑うお兄様。どうやら俺が手土産を持って孤児院に行ったことで、色々と察しているようである。ちょっと方向性が違うが、鋭いなお兄様。
「女の子ではないですが、私の専属の使用人として欲しい人物がいます」
「ほう」
何だか楽しそうである。これなら頭ごなしにダメだとは言わないだろう。あとは俺のセールストーク次第だな。今日は顔見せだ。領都に帰るまでにはお持ち帰りしてみせるぞ。
「アレックス様、ユリウス様、お待ちしておりました。魔法薬はこの通り、用意してあります」
「ありがとう、ネロ。助かったよ」
さすがはネロ。お陰ですんなりと学園に向かうことができるぞ。
「朝からすまなかったね。君がネロ君だね。ユリウスと仲良くしてくれているようだね。ありがとう」
「い、いえ、お礼など不要です。お世話になっているのは私たちの方ですから」
どうやらお兄様は使用人からの報告でネロのことは知っているようである。色々とネロについての報告を聞いているのかも知れない。
朝早くからやって来た俺たちを、子供たちが静かに見守っていた。中にはお兄様の顔を見て、ほほを赤くしている子もいる。大人のイケメンだもんね。
「今度、あらためてお礼にうかがわせてもらうよ。すまないが、今日はこれから急用があってね」
「ごめんね。また今度、お菓子を持って遊びに来るからね」
待ってるー! という子供たちの声を受けて、俺たちは孤児院をあとにした。今から向かえば、昼休み前には学園に到着することだろう。ちょっと早い気もするけどね。
「学園でも風邪が流行りつつあるみたいなんだ。それでちょっとその様子を後輩たちに聞いておこうと思ってね」
「生徒会室に行くのですか?」
「まあ、そうなるね。今の生徒会がどのくらい学園の実情を把握しているのかを確認しておこうと思ってさ」
試される新生徒会。生徒会役員になるのも楽ではなさそうだ。俺なら絶対にノーサンキューである。領都の学園に通うとなれば、生徒会役員をやらされそうだけど、何とか回避できないかな。今から対策を練らなければ。
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