第171話 王城内の情報収集、その二
アクセルと距離を取り、お互いに礼をする。
木剣での打ち合いなので、ケガをする危険性は少ないだろう。しかし、油断はできない。王城内には治療室があるのでケガをしても大丈夫だと思うが、あのゲロマズ回復薬を飲むことになる。それは避けたい。
コツンとお互いに打ち合う。お互いに小手調べ感覚なのでソフトタッチだ。そのまま俺たちはまるで剣術の型を練習しているかのように、ゆっくりと打ち合った。
アクセルの木剣が俺の頭のすぐ近くでピタリと止まる。俺の木剣はアクセルの胴の近くでピタリと止まっていた。
「へえ、ユリウスは貴族なのにちゃんと剣を学んでいるんだな」
「それはどうも。学んでいない貴族もいるの?」
「たくさんいるさ」
そんな会話をしながら俺たちは再び距離を取った。今度は先ほどよりも速く、鋭く。先ほどと全く同じ動きをたどった。アクセルの剣の軌道にはブレがなかった。しっかりと素振りや走り込みをして体が安定しているのだろう。そのお陰で、俺も安定して受けることができる。
「ユリウスも受け身ばかりじゃなくて、攻めて来てもいいんだぜ?」
ニヤリと笑うアクセル。俺が受け身でいることを、どうやら防戦一方だと勘違いしているようである。やれやれ、ちょっと本気をだそうかな? なんちゃって。
「それじゃ、遠慮なく行くよ」
アクセルのかわいい挑発に乗る振りをして攻撃に転じる。するとすぐにアクセルは防戦一方になった。
そりゃそうだよね。日頃からハイネ辺境伯家の騎士団長と本気でやり合っているんだから、そんじょそこらの子供に負けるはずがない。ついでに言えば、ゲーム内チートもある。
あっという間に追い詰めると、木剣をはじいた。
「俺の勝ちだね」
「くっ! も、もう一回だ」
アクセルは負けん気も強いらしい。剣術も子供にしてはなかなか強いと思うけどね。この負けん気がイジドルにもあればいいのに。イジドルは少し弱気な気がするので心配だ。
今度は先ほどとは違い、アクセルと同じくらいの強さで打ち合った。たぶんこっちの方がアクセルを鍛えるのには良いだろう。
剣術の練習も終わり、ヨンソン騎士団長に挨拶をする。そのころにはなぜか、俺とアクセルのことを尊敬のまなざしで見ている子供がチラホラいた。
何となくいたたまれなくなった俺は、アクセルを誘って談話室へと向かった。使用人にはもちろんお茶の準備を頼んでいる。
「はー、訓練のあとのお菓子はおいしいなー」
アクセルがもぐもぐとパウンドケーキを食べている。おいしいのはたぶん、それが高級菓子だからだぞ。でも黙っておこう。恐縮されると困る。
俺も手に取って食べる。そのあとにお茶を飲むとほっこりとした気持ちになった。
「アクセルの両親は騎士団で働いているのか?」
「そうだよ。父ちゃんが騎士団の部隊長なんだ」
「おお、それはすごいね」
どうやらかなりの実力者のようである。アクセルの剣の腕前が良いのは日頃から父親に鍛えられているからなのだろう。もちろん、アクセルの才能もあるだろうが。
その証拠に、俺と短時間打ち合っただけで、ずいぶんと筋が良くなっていた。
「ユリウス、明日も一緒に打ち合おうぜ」
味を占めたのか、実にイイ笑顔でそう言った。その目には「もちろん一緒にやるよね?」という希望の光が宿っていた。それはさながら散歩を所望するワンコ。
「ああ、それなんだけど、明日は魔法の訓練があるんだ。剣術と魔法の訓練を交互に習うことになってるんだよ」
「大変じゃないか」
「そうだね。でも貴族の子供だから仕方ないね。どっちもできるようになっておかないと」
残念そうな顔をするアクセル。そんな顔をされても困る。それに俺が王都にいるのは期間限定。この社交界シーズンが終われば領地に戻り、それからは王都に来ることも少なくなる。
「アクセルにはイジドル意外に友達はいないの?」
「なんだ、友達を紹介して欲しいのか? そうだな……」
アクセルは色んな子供と知り合いだった。友達なのかは別として、ずいぶんと社交性は高いようである。頑張れイジドル。俺はお前の味方だぞ。
「そういえば、騎士団長の息子のオビディオはどうなの? 話に全然出てこないけど」
気になってそう言うと、ものすごく嫌そうな顔をした。嫌われたな、オビディオ。一体彼の身に何があったのか。
「あいつはなぁ、自分が一番じゃなきゃ気に食わないタイプなのさ。だから俺とは合わない。俺が強いのが気に入らないらしい」
最後の方はなぜか誇らしげだった。アクセルの中では「オビディオには負けない」と言う自負があるらしい。
ダメだぞ、アクセル。そんな傲慢な態度だと成長しないぞ。人に教えることも自分の成長につながるが、人から真面目に教わることも成長につながるのだ。それならば、両方のいいとこ取りした方が良いに決まっている。
「アクセルは強いんだね。それなら騎士団長から教われば、もっともっと強くなれそうだね。騎士団長も期待してるんじゃないの?」
「そうなんだが、それもあいつにとっては気に入らないらしい」
あらら、アクセルが両手をあげている。お手上げのようである。どうやらオビディオは性格に問題があるみたいだな。今のうちにしっかりと修正されるといいんだけど。
「それじゃ、騎士団長からはあまり教わってないの?」
「まあ、そうだな。いつも今日みたいに走り込みと素振り、型の練習で終わるからな。ときどき注意を受けるくらいで、本格的に教えを受けたことはないな。まあそれは俺だけじゃないけどな」
「それもオビディオは不満みたいだったけどね」
「そうだな」
二人で顔を見合わせて苦笑いした。基本は大事なのにね。それをおろそかにしては応用も利かなくなる。それが分かっているから、騎士団長は基礎訓練ばかりしているのだろう。
「そういえば、何でも朝方に国章を掲げた馬車が出入りしているそうだ。ウワサではどこかの国の王子様が、王女様に会うためにひそかに出入りしているのではないかって言われてるぜ」
「だ、だれがそんなウワサを?」
「使用人たちだな。今朝も騒いでいたぞ」
まだ登城二回目なのに、もうそんなウワサになっているだなんて。使用人ネットワークはすごいな。
それもそうか。王城のどこにでもいるもんね。これ以上、妙なウワサが立たなければいいんだけど。
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