第164話 教えてユリウス先生!
王城に入る手続きを省略するため、何とここまでお城から迎えの馬車が来ることになっていた。これは目立つ。間違いない。
だがしかし、十歳の子供が自分の家の馬車で王城に乗り着けて、かつ、入場の手続きをするのは不可能に近い。まず、信用されないだろう。そのためこのような処置になったのだ。
「使用人に委任状を持たせてもダメか。それもそうだよね。だって王城だもん」
「ユリウス坊ちゃま、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもないよ。そろそろ馬車が来る時間かなと思ってさ」
「そうでございますね。あ、ウワサをすれば。来ましたよ」
タウンハウスの門の前に一台の馬車が止まった。正面の鉄柵を守る騎士が門をあけ、中へと導いた。馬車の確認をしなくても良いのかなと思ったが、正面にデカデカと国の国章が掲げられていた。もう一度言う。これは目立つ。間違いない。
俺の顔は引きつっているはずだ。そして一緒についてくることになっている使用人たちの顔も引きつっていた。良かったな、俺たちは仲間だぞ。
「ユリウス様、王宮魔法薬師団長のジョバンニ・マドラス様の命により、迎えに参りました」
「ありがとう。でも次からはもうちょっとどこの馬車なのか分からなくして欲しいかな? この周辺がに騒がしくなっているんじゃないの?」
「多少は」
どうやら思うところがあったらしい。騎士は目をそらした。そうだよね。きっとこの人はそのことを進言してくれるはずだ。これなら明日からは大丈夫……いや、不安だ。俺からもジョバンニ様にひとこと言っておこう。
馬車に乗り込むと、タウンハウスに残る使用人たちが頭を下げて見送ってくれた。その中にはもちろん、このタウンハウスを取りまとめている家令の姿もあった。
きっとこのことはアレックスお兄様に伝わることになるんだろうな。そしてそこからお父様に伝わることになる。
俺は悪くないのに、また俺が何かやらかしてしまったように取り扱われるんだろうな。理不尽だ。
馬車が王城の前までたどり着いた。閉め切っているカーテンの隙間から外を見ると、周囲の人たちが何だ、何だとこちらに注目していた。それはそうだよね、何事かと思うよね。カーテンを閉め切っていて良かった。
俺たちが乗った馬車は城門をノーチェックで通過した。ヤバいなこれ。完全に国賓扱いだ。あとで城内が騒がしくなりそうで怖い。その前に何とか目的地まで移動しておかないといけないな。
城内奥深くまで進んだ馬車は、先日とは違う停車場に止まった。
馬車から降りて確認すると、どうやらこちらは王城に勤めている人たちが利用する場所のようである。今も数人の騎士や、ローブを着た魔導師のような格好をした人たちがこちらをガン見してる。何事かと思っているのだろう。
その中に、先日見かけた深緑のローブを着た三人組を見つけた。その三人は迷わずこちらに向かって一直線に向かって来た。ダッシュで。
「ユリウス先生! お待ちしておりましたよ!」
笑顔でこちらに手を振る三人。その先頭を走っているのは、見間違えでなければジョバンニ様だろう。もうヤダ。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いえいえ、とんでもありません。我々が勝手に首を長くして待っていただけですから」
そんな俺たちの様子を騎士や魔導師や役人が見ていた。これは明日にはウワサになってるなー。俺のせいになるのかな。ちょっと憂鬱になった俺をジョバンニ様たちがせかすかのように王宮魔法薬師団のある区域まで連れて行ってくれた。
「ユリウス先生、そのお召し物は何でしょうか?」
「あ、これは白衣ですよ。これを着ていれば、薬品が服に付いたときにすぐに気がつきますからね。それにほとんどの服を身につけた状態で着られるので便利ですよ。それから先生はやめて下さい。普通に呼んで下さい」
「なるほど……! それは素晴らしい! すぐに全員分と予備を用意しておきましょう!」
ジョバンニ様が言い終わるか終わらないかの間に研究員の一人がダッシュで部屋を出て行った。忠誠度たけぇなオイ。それよりも、俺の先生呼びはやめてもらえたんですかね?
「それでは、早速ですが完成した万能薬を見せてもらっても良いでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。こちらに用意してあります。何とか三つ、完成させることができました」
案内された部屋の奥にある重厚なウォルナットで作られたテーブルの上にそれはあった。まずはどのような品質なのかをチェックしなければ。それによって、何か打つ手が思いつくかも知れない。
万能薬:最低品質。あらゆる毒を無効化する。まずさで死ねる。どうしようもなく臭い。体力減少(小)。
何だこれ。体力減少って何……もしかして、体力が弱っている人に使ったら死んじゃうことになるんじゃないのか? これはまずい。成功してるけど、成功してない。
「あの、ユリウス先生、どうでしょうか?」
「これはダメですね」
「……」
さすがに大丈夫とは言えない。もしこの万能薬を使って死人が出たら大問題だ。これは素材から見直さなければならないレベルだな。作り方の問題ではない。
「あの、素材として使う魔法薬である『上級回復薬』と『強解毒剤』を見せてもらえませんか?」
「も、もちろんですよ。すぐに持って来ます」
俺がハッキリとダメだと言ったことに衝撃を受けていたのか、一瞬止まっていたジョバンニ様だったが、声をかけるとすぐに動いてくれた。もしかして、薄々感じていたのかも知れない。国王陛下からはどんな魔法薬だったのか、ある程度は聞いているだろうからね。
「こちらになります」
テーブルの上に追加で魔法薬がおかれた。どちらも品質が最低品質である。どうしてこうなった。いや、間違った作り方をしているのだろう。こうなって当然か。
これはどうやら、「上級回復薬」と「強解毒剤」の作り方から教える必要がありそうだ。これは先の長い戦いになるぞ。
アレックスお兄様からは社交界シーズンは王都で過ごすように言われているし、気長にやるか。そんなことを思いつつ、ジョバンニ様に魔法薬作成に必要な素材を持って来るように指示した。
目の前で俺が作った方が分かりやすいだろう。どうせ王家専用の魔法薬だ。作り方が知れ渡ったところで問題ないはずだ。
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