第159話 ちょっとしたサプライズ?
俺たちを乗せた馬車が王城の正門に到着した。前回来たときと比べると、大分落ち着いているような気がする。
正門では、招かれているとはいえ、しっかりと持ち物の確認が行われた。持ち物だけではない。身体チェックも行われた。
「まだ警戒は続いているようですね」
「そうだね。当分の間は続くと思うよ」
憂鬱に思っているのか、アレックスお兄様が遠い目をしている。俺も憂鬱だ。隣国との戦争になる可能性が低いのが救いだな。
城内に入るとすぐに騎士たちによって客室へと案内された。ずいぶんと王城の奥まで連れて行かれているような気がするけど、気のせいかな? 俺の感覚が正しければ、王族のプライベートスペースに近い位置まで来ていると思うんだけど。
緊張してきた。何度来ても慣れることはないのだろうと思う。ここから謁見の間に行って挨拶するのだろう。何だか胃が痛くなってきたぞ。こんな奥の客室まで連れて来られたということは、きっと謁見を希望している人が多いんだろうな。これは待ち時間が長くなりそうだ。
チビチビとお茶を飲んでいると、扉をノックする音が聞こえた。もう時間が来たのか。思ったよりも早いな。そんなことを思っていると、扉が観音開きになった。
それを見たお兄様が慌てて立ち上がる。これは大物が来たな。ダニエラ様かな? うん、一番ありそうなパターンだ。もしかするとクロエ様かも知れない。間髪を入れずに俺も立ち上がった。
「国王陛下の御成」
「!?」
近衛騎士がそう言った。思わず声が出そうになるのを何とか堪え、慌てて頭を下げる。
どういうことだってばよ。なんで国王陛下が客室を訪ねて来るんだ? 普通は俺たちが行く方だよね? お兄様の顔を見たいが、今は顔を上げられない。
「アレックス、ユリウス、よく来てくれた。顔を上げるがよい」
そこには国王陛下と王妃殿下の姿があった。俺が困惑していることに気がついたのだろうか。二人とも笑顔を浮かべている。まるでドッキリに成功したかのようである。
「驚かせてすまぬな。だが謁見の間で会うと、色々とウワサになりやすいからな」
いや、客室に来る方がウワサになりそうな気がするんだけど……チラリとお兄様の方を見ると、お兄様も知らなかったのか引きつった笑顔を浮かべていた。
「本日より弟がお世話になります」
「本日よりよろしくお願いします」
お兄様と一緒に頭を下げた。それを国王陛下が止める。
「二人ともやめよ。呼んだのは私だ。そのように頭を下げる必要はない。頭を下げなければならないのはこちらの方だ」
「おやめ下さい、国王陛下」
国王陛下が頭を下げる前にお兄様が止めた。ナイス、お兄様。臣下に国王陛下が頭を下げていたなんて話が広がったら、それがどんな風に飛び火するか分からない。もちろん国王陛下も本当に頭を下げる気はないだろうが、それでも止めなければ。
「ユリウスには世話になる。我が国の魔法薬の発展に努めてくれるとありがたい」
「ハッ! 精進致します」
胸に手を当てて臣下の礼を取った。隣でお兄様も同じポーズをしている。ああ、胃が、胃が痛い。こんなことを言っては失礼だが、早く終わって欲しい。
「ダニエラが会いたがっていたわ。あとで会いに行ってあげてちょうだい」
「分かりました」
お兄様がそう答えた。どうやら予想通り、ダニエラ様にも挨拶に行くことになりそうだ。クロエ様もそこにいるのかな? 気が重くなってきた。
「調合室は用意してある。自由に使ってくれ」
国王陛下が目配せすると、使用人が一枚のカードを持って来た。どうやらこれが使用許可証のようである。なくさないようにしないといけないな。
「ありがとうございます」
「なんのなんの。足らない物があったら言ってくれ。必ず用意しよう」
マジか! まさか何でも買ってくれるとは思ってもみなかった。これなら入手困難な素材を手に入れることができるかも知れないぞ。グリフォンの牙とか、ユニコーンの角、スライムの王冠にゴーレムの芯核。欲しい物はたくさんある。
俺が妄想している間に国王陛下と王妃殿下は帰って行った。そのまま次の仕事があるのだろう。やっぱり王族は大変そうだな。何か疲れが取れるようなものを進呈しようかな? 体力回復薬とかはどうかな? いや、ダメだな。ハイテンションになる気がする。何か考えておこう。
ドッサリとイスに座ったお兄様がため息をついた。お兄様がこんな態度をするだなんて、珍しいこともあるものだ。きっとお兄様もこのサプライズについては知らなかったのだろう。
「頼むよ、ユリウス。少しは兄の胃袋を気遣って欲しい」
「いや、あの……すいません」
どうやら俺のせいらしい。俺もそんな気はしてたけど。
ずいぶんと高く評価されているみたいである。それもそうか。曲がりなりにも命の恩人だからね。
ため息をつきながらお兄様の隣に座る。すぐに使用人がお茶を持って来た。うん、お茶菓子がおいしい。
それほど待つこともなく、王宮魔法薬師の使いの者がやって来た。お兄様も一緒に来るのかと思っていたら、どうやらここからは別行動になるらしい。お兄様の元にはダニエラ様からの使者がやって来ていた。
「ユリウス、お昼は一緒に食べることになっている。その前にはこの部屋に戻って来るように。この部屋は私たちのために空けておいてくれるそうだ」
「分かりました」
「それではユリウス様、ご案内致します」
深緑の丈の長いローブを身につけた青年がそう言った。どうやらこのローブの色が王宮魔法薬師の色のようである。俺もこの色のローブを用意しておくべきだろうか。
俺には専用の白衣があるんだけどなー。白い方が服に薬品がついたときに分かりやすくていいんだけどね。
お兄様に挨拶をしてからついて行く。数人の貴族とすれ違ったが、みんな首をかしげていた。そりゃそうだよね。子供が保護者なしで王城をウロウロしているんだから。
俺は脳内マップを確認しながらついて行った。本当は城内の地図が欲しいところだけど、お城の地図なんて機密情報だよね? あきらめよう。
いくつもの角を曲がり、階段を上り下りしてたどり着いた先には、重厚な木の扉があった。その間に俺は、ここまで自力で来ることをあきらめることにした。登城したら案内人を呼ぼう。ちょっとした迷路じゃん。いや、ダンジョンか。
青年がドアをノックすると、入るようにとの声があった。青年がドアを押し開き、俺に中に入るように促した。
おっと、緊張してきたぞ。さて、王宮魔法薬師団の長はどんな感じの人なのかな?
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