第136話 実験終わり
俺たち三人を見て、口をパクパクさせながら見比べている女性の騎士たち。どうやら室内訓練場にあるシャワールームを使いに来たようである。訓練が終わったあとなのか、汗と汚れで服が汚れていた。
「あっ、あっ」
「ゆ、ユリウス様が三人に!?」
「増えてる~!?」
騎士たちがアワアワと騒ぎ始めた。これはまずい。その光景を見たミラが動きをまねし始めた。俺はどのユリウスがミラでライオネルなのかが分かるが、他の人には当然のことながら分からない。いきなり奇妙な行動を取りだしたミラに注目が集まっていた。
「ゆ、ユリウス様!?」
「これは一体……」
ますます困惑する騎士たち。そこに一喝が入った。
「落ち着けお前たち。まずはその扉を閉めろ」
「え……? あ、はい」
困惑する騎士の一人が扉を閉めた。これで声が外に漏れにくくなっているはずだ。騎士たちは今度は一喝したライオネルを見ていた。見た目はユリウスなのでますます混乱してそうである。
「驚かせてすまない。今、新しい魔法薬を試しているところなんだ」
「はあ」
「えっと、こっちがライオネルで、こっちがミラだよ」
グワッと目が見開かれた。そりゃ驚くよね。俺が逆の立場だったら同じようになっていたと思う。
「だ、団長!?」
「し、失礼いたしました」
敬礼する女性の騎士たち。まさかライオネルだとは思っていなかったようである。さっきもそうだったが、鬼の団長がかわいらしい姿になっているのは目が飛び出るほど驚くべきことであるらしい。
「構わん。それでこそ、囮役が務まるというものだ」
「囮役?」
どうやら同じ騎士団相手にも正体がバレなかったことに、ライオネルは手応えを感じているようだ。特に女性は鋭い。その目をごまかすことができるなら、他国のスパイくらいなら問題ないだろう。
「実はね……」
何も知らないであろう騎士たちに事情を話した。騎士団の中でも一部の人しか知らされていないらしく、話を聞いて驚いていた。
「そんなわけで、この話を聞いたお前たちにも協力してもらうぞ」
「もちろんです」
三人とも良い返事で答えてくれた。これでこちらは問題なさそうである。そうこうしているうちに、ライオネルの変身薬が時間切れになったようである。身長が伸び始めた。
「ユリウス様、魔法薬の効果が切れたようです」
「分かったよ。ミラのことは見ておくから心配は要らないよ」
「それでは失礼して……」
そう言うとライオネルはそそくさと個室へと向かって行った。気持ちは分かる。今の状態で元の姿に戻ったら、とんでもない姿になってしまうからね。その間に騎士たちはシャワーを浴びに行ってもらった。そのためにこの場所に来たわけだしね。
「ミラはなかなか元の姿に戻らないな~」
「キュ?」
「まさかこのまま元に戻らないんじゃ……」
心配になってきた。ずっとこのままだったらどうしよう。俺が二人になったら困るよね。段々と不安になってきたころ、元の姿に戻ったライオネルが個室から出て来た。
「お疲れ、ライオネル」
「得がたい経験をさせていただきました」
気を遣ってライオネルがそう言っているが、顔が少し引きつっているな。本当は嫌なのかも知れない。早くこの問題が解決することを願うばかりだ。
ライオネルと話をしている間に騎士たちが戻って来た。本当にライオネルだったことに、再び驚いていた。
「ユリウス様、その変身薬を飲めば、私もユリウス様になれるのですか?」
「そうなるはずだけど……女性では試していないからどうなるか分からないね。あ、そんな顔をしても試さないからね!?」
どうして試したいみたいな顔をするんだ。俺の姿になってどうするつもりだ? 何か怖いぞ。若干引いていると、ようやくミラの姿に変化が見られた。
「お、ミラの魔法薬の効果も切れてきたみたいだな。行くよ、ミラ。完全に元の姿に戻る前に体を洗っておこう」
「ユリウス様、お手伝いしますわ!」
「私も、私も!」
「い、いや、それはちょっと……」
まずい、彼女たちの目がランランと輝いている。まさかのショタコン属性持ちだったか。道理でシャワーを浴びたのに宿舎に戻らないわけだ。
何とかそれを断り、ミラを連れてシャワールームに入った。ミラの体が縮み始めている。慌てて服を脱がせると、すぐに体を洗ってあげた。
服を脱がせるのは大変だった。もし今度またミラに変身薬を使うことになったら、そのときはバスローブを用意しておこう。その方が服の着替えが楽できそうだからね。
「キュ!」
体を洗っている間にすっかり元の姿に戻ったミラ。念のため、体にどこか異常がないかを確かめる。どうやら問題なさそうである。美しい白い毛並みは健在である。
「ミラの話を聞くときには、変身薬をひとなめするくらいでちょうど良さそうだな。それなら十分ほどで元の姿に戻るし、自分の部屋でやっても良さそうだ」
そのためにはまずはバスローブの準備だな。寝る前にやれば、だれかが部屋にやって来ることもないだろう。
ミラの体をしっかりとタオルで拭くと、魔法を使って毛を乾かした。数分でしっかりと乾かし終わった。やっぱり魔法は便利だな。魔道具なんかよりずっと楽である。
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