第133話 効果の程は?
数日後、満月の日に騎士たちが虫取り網を使って「月光蝶の鱗粉」を集めてきてくれた。しかもなぜか、全員がイイ顔をしていた。
「ユリウス様、この虫取り網を今後も使わせてもらって良いですか?」
「最高ですね、この虫取り網。虫を捕まえるのがあんなに楽しいだなんて!」
「も、もちろん構わないよ」
どうやら騎士たちの新しい扉を開いてしまったようである。ウワサを聞いた騎士たちも、代わる代わる虫取り網で様々な虫を捕まえに行っているようだ。
虫が素材になっている魔法薬もたくさんあるし、今のうちに虫取り技術を鍛えてもらうことにしよう。
でも虫かごや飼育ケースは作らないぞ。それをやったら、きっと騎士団の宿舎から悲鳴が上がることだろう。虫が嫌いな人もいるだろうからね。周囲の人にも気を配ろう。
素材を受け取った俺はさっそく調合室にこもった。
「念願の『月光蝶の鱗粉』を手に入れたぞ。これで変身薬を作ることができる。これだけあれば数人分の変身薬が作れるな。まぁそんなに作るつもりはないけどね」
調合台の上に素材を並べていく。月光蝶の鱗粉、蒸留水、キラービーの蜂蜜、髪の毛、熟成チーゴの実。髪の毛はほんの少しで大丈夫だ。どれも品質が高いので、効果時間が長い変身薬を作ることができそうだ。
まずはキラービーの蜂蜜に月光蝶の鱗粉を混ぜ込んでいく。均一になったところで熟成チーゴの実を加え、さらに混ぜていく。そしてキラキラと光る、オレンジ色をした水飴のようなものが完成した。ここまでは問題なし。
次に、蒸留水に髪の毛を加えて、冷たい状態から徐々に温度を上げてグツグツと煮る。そのまま液体が半分になるまで煮詰めたあと、そこに先ほどの水飴状のものを溶かせば完成だ。
見た目はスッキリ鮮やか。オレンジジュースのような液体が完成した。
変身薬:最高品質。ユリウス・ハイネの姿になる。効果時間(長)。甘い。
よし、うまく魔法薬を作ることができたようだ。効果時間が長いのか。ちょっと気になるけど、飲む量を調節すれば大丈夫なはず。まずは効果と時間の確認からだな。だれかに試しに飲んでもらわないといけないな。
やはりここはライオネル一択だろう。実際に動くときには飲んでもらうことになるからね。俺の体にも慣れてもらっていた方がいいだろう。さっそく騎士団の宿舎へと向かった。
都合良く、ライオネルは執務室にいた。
「これが変身薬ですか」
執務室の机の上に置かれた魔法薬を見つめるライオネル。見た目はオレンジジュースだからね。疑われても仕方がないね。
「それでさっそく試してもらいたいんだけど、効果時間が良く分かっていないんだ。飲む量で時間は調節できるから、まずはスプーン一杯飲んでくれないか?」
「それは構いませんが……服はどうしますか?」
「あー、体が縮むから困ることになるか。それに元の姿に戻るときも困ることになるね。どうしようかな」
これは困ったぞ。変身するのは体だけだ。身につけている服までは再現されないだろう。ゲーム内だと見た目だけじゃなくて服まで再現されていたけど、ここは現実だからな。そんな都合の良いことにはならないだろう。
とりあえず今回は様子見なので、大きめのタオルを持って来てもらった。これで体を隠しておけば大丈夫だろう。部屋にだれか来たら大騒ぎになりそうだけど。
「これで大丈夫だ。さあ、遠慮なく飲んでくれ」
「は、はぁ……それでは失礼して」
ライオネルがスプーン一杯の変身薬を飲むとすぐに効果が現れた。ライオネルの大きな体がみるみるうちに小さくなり、俺と同じ姿になった。成功だ。さすが俺。
急に視線が低くなったことに驚いたのか、俺の姿になったライオネルの目が大きく見開かれている。
「こんな魔法薬があるだなんて、思いもしませんでしたな」
ライオネルが自分の体を確認しながらそう言った。体に異常はなさそうだ。あとは効果時間がどのくらいかだな。一本作るのに熟成チーゴの実を一個使うので、あまり本数を作りたくないんだよね。熟成チーゴの実は上級魔力回復薬の素材としてなるべく取っておきたい。
三十分が経過したが、ライオネルの姿は相変わらず俺の姿のままだった。一体どのくらいの効果時間があるのだろうか。ちょっと心配になってきた。まさかスプーン一杯で一日とかないよね?
内心で冷や汗を流していると、執務室のチャイムが鳴った。どうやらだれか来たようだ。思わずライオネルと顔を見合わせる。どうしよう。
「団長、不審人物についての情報が入ってきましたので報告に上がりました」
返事がないのを不審に思ったのか、騎士が扉の向こうから声をかけてきた。どうやらライオネルは、この時間は執務室にこもっているようである。
不審人物の報告なら聞かないわけにはいかないだろう。タオルを巻いて身動きが取れないライオネルに代わって、扉を開けた。
「団……これは失礼しました。ユリウス様がいらっしゃっていたのですね」
ビシッと敬礼する騎士を急いで引き入れると扉を閉めた。首をかしげる騎士に事情を話す。不審人物のことを知っていると言うことは、話しても大丈夫だろう。
「今、魔法薬の実験を行ってるんだ」
「魔法薬の実験ですか?」
俺の言葉にさらに首をひねる騎士。俺は声を出さないように口元に指を当ててジェスチャーすると、後ろを指差した。
ゆっくりと振り向く騎士。そこにいた人物を見て悲鳴を上げそうになったが、両手で口を塞いでそれを回避した。さすがだな、ウチの騎士。
「ユリウス様が二人!?」
「あっちはライオネルだよ」
「団長!?」
俺とライオネルを何度も見比べた騎士は、しまいには膝から崩れ落ちそうになっていた。
「まさかあの鬼のような団長がこんなかわいらしい姿になるだなんて……」
「おい、それはどう言う意味だ?」
「かわいらしいって……」
ライオネルがひそかに鬼と呼ばれていたことにも驚きだが、俺がかわいらしいと思われていたことにはもっと驚きだ。俺ってかわいい系だったのか。ぬいぐるみ作り、やめよう。
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