第92話 潜在能力
「特殊な魔法……」
ロザリアが再び自分の両手を見つめた。どう説明したら良いものか。魔法の先生に聞いたら何か分かるかも知れない。下手に俺が教えると、逆に混乱させてしまうだろう。
「大丈夫だよ、ロザリア。俺も同じことができるからね。今まで気にしたことがなかったけど、確かに変な感じだよね。今度、魔法の先生に聞いてみよう」
無言でうなずくロザリア。どうやら納得はしてもらえたようである。ロザリアがあまり考えすぎないように話をそらす。
「そろそろ夕食の時間になるからね。今日はここまでにして、片付けよう」
「分かりましたわ」
ロザリアと二人で部屋の中を片付ける。あとでコッソリ魔道具を作っていたらロザリアに怒られるかな? どうしたものか。
「キュ」
「ミラちゃんも手伝ってくれるのね。ありがとう」
「キュ!」
どうやらミラはずいぶんとロザリアにもなついているようだ。ミラに人見知りがなくて良かった。これなら安心して他の人にも紹介できそうだ。友達にも紹介しないといけないからね。
翌日、午前中は魔法の授業である。そこでさっそくカーネル先生に昨日のことについて尋ねた。
「なるほど。それは私たちが『潜在能力』と呼んでいる現象ですね」
「潜在能力?」
「そうです。魔法のように特別な現象を起こすのですが、その原理が全く分かっていないのです。それに、だれでも使えるわけではありません」
なるほど。確かにそのスキルを習得しなければ使うことができないからね。だれでも使えるわけではないし、だれもがスキルを習得できるわけではない。
「それに魔法のように、呪文を詠唱する必要がありませんからね。そのため私たちの間では魔法とは別物として扱われています」
どうも謎の特殊能力のように取り扱われているみたいだな。研究もあまり進んでいなさそうだ。まあ、特定の人しか使えないなら研究も滞るか。
「カーネル先生、他にはどんなものがあるんですか?」
ロザリアが眉をポヨポヨさせながら聞いた。
「他に分かっているのは、物を鑑定する能力、魔力の流れを見る能力、魔物を察知する能力などがありますね。他にもあるのでしょうが、本人が無意識で使っているために、気がつかないのがほとんどですね」
なるほどね。気がついても、異端者と思われたくないから言わないか。
先生の説明で取りあえずは納得した様子のロザリア。自分の力がおかしなものではないと分かって、少しは安心したようである。
魔法の授業が終わり、昼食を食べ終わると、午後からは領都の視察に向かうことにした。王都に行っていた半月の間に、何か問題があったとは聞いていないが、ジャイルとクリストファーに顔を見せておかないといけないからな。もしかすると、心配しているかも知れない。
「午後からは領都に行くけど、ロザリアはどうする?」
「私も行きますわ」
「キュ!」
二人も一緒に来てくれるようだ。ミラを二人に紹介しようと思っていたので、ちょうど良かった。使いを送ると、すぐに二人が屋敷にやってきた。
「お待たせしました」
「いきなり呼び出して済まない。二人にもちゃんと紹介しようと思ってね」
ミラのことはジャイルの父親のライオネルから聞いていることだろう。クリストファーはジャイルからその話を聞いているはずだ。なので、特に驚いた様子はなかった。もちろん、興味深そうにガン見していたけどね。
「これが我が家で育てることになった聖竜のミラだよ。ミラ、こっちがジャイルでこっちがクリストファーだ」
「キュ」
ミラが返事をして、首を縦に振った。分かったと言うことなのだろう。それを見た二人が驚いた。
「ユリウス様、もしかしてミラ様は俺たちの言葉が分かるのですか?」
「うん。分かるよ。だから変なことを言わないようにね。噛みつかれるかも知れないから」
「噛みつく……」
ミラはそんなことをしないだろうが、念のためである。クリストファーが伸ばそうとしていた手を慌てて引っ込めた。
「それじゃ、紹介も終わったことだし、さっそく出かけよう。何か変わったことはあったか?」
「ありませんね。冬に備えて薪が売れ始めたくらいですかね」
「うん。いつも通りだね」
ハイネ辺境伯家の家紋のついた馬車が出発した。領内を走ると、こちらを振り向く人たちもいるが、敵意のある目でこちらを見ている人はいなかった。どうやら領民からは嫌われていなさそうだ。
俺は魔法薬ギルドの前で馬車を止めてもらった。お婆様のことを報告した方が良いだろう。それから魔法薬ギルドで売っている素材をこの目で確認しておきたかった。
「ロザリアとミラは馬車の中で待っていてくれ。なるべくすぐに戻って来るよ」
そう言ってジャイルとクリストファーと共に馬車を降りた。ライオネルに馬車のことを頼むと、騎士たちを連れて魔法薬ギルドの中へと入った。
受け付けの人にギルドマスターを呼んで来てくれるように頼んでいる間に、商品を見て回った。
品質はあまり良くないが、それなりの素材がそろっていた。置いてある目録を見ると、貴重な素材は奥の金庫にしまってあるらしい。どんな金庫なのかは分からないが、あまり質の良い状態で保存されてないような気がする。
種が採れる素材がいくつかあったので購入したかったのだが、今の俺にはその資格がない。だれか身近に魔法薬師がいたら良かったのだが。魔法薬師を雇うか? それもありなような気がしてきた。
そうこうしているうちに、奥から慌てた様子のギルドマスターがやってきた。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いや、構わないよ。先触れを出さなかったのはこっちだからね」
小太りのおじさんが汗をハンカチで拭っていた。どうやら相当焦って来たようだった。先触れを出しておけば良かったな。すぐに要件を終わらせるつもりだったので、大事にしたくないと思った結果がこれだよ。
自己紹介をしてもらい、本題に入った。
「そうですか。マーガレット様がお亡くなりになったと。無念だったことでしょうな。ユリウス様が大きくなれば、自分の後を継いでくれると、いつも楽しそうに話していたのを昨日のように思い出します」
ギルドマスターは泣いていた。ずいぶんとお婆様と親しかったようである。
これは俺がお婆様の後をついていることを言うべきか? いや、危険か。お婆様の持っていた魔法薬の本が俺の手元にあることは言わない方がいい。
お婆様はギルドマスターのことを信頼していたかも知れないが、俺はいま会ったばかりだからね。用心に越したことはないだろう。
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