第51話 シャワー
翌日からさっそく騎士団の訓練場の衛生環境を改善するための行動を開始した。もちろんロザリアも一緒だ。汚れるし、つまらない作業だから来ない方が良いと言ったのだが、それでも良いと言ってついてきた。
「ライオネル、コイツを見てくれ」
「これは……何ですかな?」
テーブルの上に置かれた設計図を見て、ライオネルが首をひねった。
「訓練場に体を洗うことができる場所を作ろうと思っている」
「なるほど。井戸水で洗うだけではダメですか?」
「ダメじゃないけど、もうちょっとキレイにした方が良いと思ってね」
「なるほど」
うなずいてはいるものの、あまり納得はしていない様子。まあ確かに、必ずしも必要かと言われればそうでもないし、理解はされないかも知れないな。
「訓練場の匂いが良くありませんわ。もう少しキレイにした方が良いのではないかしら?」
「それは……」
ロザリアのストレートな物言いに、ライオネルが苦笑してる。たぶん「どこの騎士団も同じ」と言いたいんだろうな。しかしさすがにロザリアに言われたのが堪えたのか、シャワールームの設置を認めてくれた。
場所は訓練場にある井戸のすぐ近くだ。ここなら井戸水を汲み上げてすぐに貯水槽へと送ることができる。建物はあとでしっかりとしたものを作ってもらうとして、貯水槽くらいは自分で作ろうと思う。
それくらいなら穴を掘るだけなので、土魔法ですぐにできるはずだ。俺は魔法で穴を掘ると、水漏れしないように周辺の土をコンクリート状に押し固めた。これで良し。
あとは井戸からその貯水槽まで水が流れて行くように、傾斜をつけた水路を設置すればOKだ。
「よし、第一段階は完成だな」
「すごいですわ。お兄様は魔法も得意なのですね」
「そうなのかな?」
訓練場で魔法使いたちが穴を掘っているのを見たことがあるので、珍しい魔法ではないはずなのだが、ロザリアにとっては初めて見る魔法だったのかな? ロザリアも魔法の訓練はしているだろうし、教えてあげるのも良いかも知れないな。
無事に貯水槽ができたので、次は魔道具の作成だ。まずは水を温める魔道具からだな。適当な大きさで鉄製の四角い容器を作る。ガンガンとハンマーで鉄板をたたく音が訓練場に響き渡っている。
騎士たちが何だ何だとやって来たが、俺が何かを作っているのを見て察してくれたようである。邪魔する人はいなかった。理解されているのか、それとも「またか」と思われているのか。ちょっと気になるな。
ただの四角い容器を作るだけなので、すぐに完成した。その内側に加熱するための魔法陣を描き込んでいく。その様子をロザリアが食い入るように見ていた。その魔法陣が問題ないことを確認すると、外側に温度調節のスイッチをつけた。これで試作品は完成である。
すぐに水を入れて動作の確認を行った。
「うん、良い感じに温まっているぞ。この速度なら、よほどの高温の水を出そうとしなければ十分役に立つはずだ」
「水が温かいですわ。こんなに簡単に魔道具を作れるだなんて、お兄様はすごいですわ」
「すでにある魔道具を参考にしているから、それほどすごい魔道具じゃないけどね」
ロザリアが尊敬のまなざしで見ていた。その視線にちょっと照れながら、次の送水用の魔道具を作っていく。軸の両端にプロペラをつけて、片方を風が吹き出る魔法陣を使って回転させる予定だったのだが、この世界にはパッキンがなかった。
このままでは水漏れしてしまう。そこでプロペラを使って水を送るのではなく、直接風を吹き付けて送ることにした。配管の中を水と空気が通ることになるが、まあ、実害はないだろう。配管の上半分位を水が通るだけである。
しかしそれだけだと、空気圧でいずれ配管が破裂してしまうかも知れない。そこで途中に何カ所か空気抜け用の小さな煙突を作っておいた。試してみると、そこからシューシューと音がして、ちょっとうるさい。我慢してもらうしかないな。屋外で良かった。
配管、送水ポンプ、シャワーヘッドが完成した。あとはこれを組み合わせて、実際の動きを確認するだけである。でも建物がまだなんだよね。備蓄してある木材をちょっと使わせてもらって、シャワースタンドでも作ってもらうとしよう。
騎士たちに相談すると、すぐに手伝ってくれた。どうやら騎士団での俺の信用度はずいぶんと高くなっているらしい。
胃袋をつかむかのように、騎士団の魔法薬をつかんでいるようだ。
あっという間にシャワースタンドが完成した。さすがは日頃から防衛用の柵を作る訓練をしているだけはあるな。木の扱いがとても上手である。木工スキルを持っていても、おかしくないほどの技量である。
さっそく金属製の配管と送水ポンプ、シャワーヘッドを設置した。シャワーヘッドは固定である。樹脂素材があれば自在に動かせるタイプにしたのだが、まだないんだよね。あれがあれば色々と便利なのに。現代科学がいかにすごいのかを改めて感じてしまった。樹脂素材を開発した人はすごい。
「よし完成だ。だれか試しに使ってみてもらえないかな?」
「それではせんえつながら私が」
「よろしく頼むよ。遠慮なく意見を言って欲しい。それを元に改良するからさ」
「はい。お任せ下さい!」
先ほどからシャワースタンドを作るのを手伝ってくれているメンバーの人たちが名乗り出てくれた。さっそくシャワーを使ってみる。シャワーヘッドからは予定通り、お湯が出てきた。
「これはお湯ですか! これは良い。冬でも使うことができますね。これからの季節にはありがたいです」
「このつまみを回すと、お湯が出る勢いを変えることができるぞ」
「これですか? おお! これは気持ち良い!」
勢いを強くすると、腕の筋肉や肩に当てていた。
「マッサージにもなるかも知れないね。肩こりにも効いたりするのかな?」
「これは効きますよ。素晴らしい魔道具です」
「両手があくから、石けんで体を洗うことができると思うんだ」
石けんを渡してあげると、喜んで洗い出した。その喜び様からすると、石けんって貴重なのかな? いつも使っているから気にしてなかったけど。
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